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Vol.61 水戸ホーリーホックアカデミー ジュニアユースコーチ /大槻邦雄

  • 2024.05.22

    Vol.61 水戸ホーリーホックアカデミー ジュニアユースコーチ /大槻邦雄

指導者リレーコラム

20年をこえる指導歴から「育成のスペシャリスト」として感じたことを綴ったコラムを通して、育成年代の子どもとその保護者に寄り添う大槻邦雄さん。その発信はサッカーに限らない成長過程における子どもとの向き合い方や導く上でのヒントが数多くあり、日常から大槻さんが持つ子どもたちへのまなざしの深さが表現されています。
必要性を感じつつも難しさを感じる指導者も多い「発信」の工夫について、またその基盤となる育成年代の子どもたちとサッカーだけでない関わり方や指導の視点についてお聞きしました。

―現在の活動内容について教えてください。

大槻 水戸ホーリーホックのジュニアユース、中学生年代を担当しています。前年はU-13を担当していて、そのまま持ち上がってU-14を担当することになりました。サッカースクールの指導も担当しているので、幼稚園児から小学6年まで関わって指導しています。

―水戸ホーリーホックではどれくらいご指導されているのでしょうか。

大槻 去年の4月に移籍してきたところです。ここへ来たのがそんなに前ではなくて、それまでは長く三菱養和SCに在籍していました。

―こちらに移られたきっかけは?

大槻 水戸ホーリーホックのスタッフに先輩がいたこともあって、興味を持っているクラブでした。クラブのこれまでとこれからの話を聞いているうちに、“自分もクラブの成長に力を尽くしたい”と思うようになり、移籍を決断しました。三菱養和SCは1975年からある老舗の歴史があるクラブで、選手の頃から数えたら僕も20年以上在籍していたこともあり、離れる決断をするまでに時間がかかりましたね。

―毎日のスケジュールはどのような動きか教えてください。

大槻 曜日によって違ってくるのですが、午前中は週によって巡回指導といって県内の幼稚園を回る日もあります。また、指導実践といってコーチたちで指導の勉強をする研修のような日もあります。どのチームも同じかと思いますが、活動自体がスタートするのは午後からが中心です。昼過ぎから事務仕事や打ち合わせをして、15時くらいからグラウンドで準備を始め、16時からスクールの指導があります。水戸ホーリーホックの場合は18時から中学生の練習がスタートします。

―クラブを移って来られて変化はありましたか?

大槻 三菱養和SCのときは、電車に乗って通う子どもたちが多かったのですが、茨城県の水戸では、親御さんが送迎しないと練習に来られない子どもたちがほとんどです。練習のために、1時間やそれ以上をかけて親御さんが練習場に連れてきてくださる環境です。自分も親なので送り迎えの大変さが分かりますし、サポートする親御さんの大変さを改めて感じて感謝の思いです。なかには電車で通う子もいて、本数が少ない電車で帰る子どもたちもいるので、電車の時間から逆算して練習スケジュールを考えるようにもしています。
三菱養和SCでは、子どもたちが自分で通える場所に練習場があったので、そういったところでは違いを感じています。指導する上で、行き帰りのことや時間について、今までよりも一層気にするようになりましたね。

―練習場への通いやすさは、チーム選びの一つの要素ですよね。他に大切にするべきこととして感じることはありますか?

大槻 中学生年代は、心と体が変わっていく時期ですよね。勉強との両立もすごく重要になってくる年代です。心と体のバランスを保ち、勉強との両立を目指す上では出来るだけ負荷の少ない環境を作ってあげることが必要かと思います。
よく「自宅からグラウンド、そして学校までの距離。この三角形を考えてみましょう」という提案をしています。そして、まずは実際に練習会場まで足を運んで見に行ってみること。練習の雰囲気を感じ取ることはもちろん、行き帰りはどうか? 周辺の環境なども含めて通うことが可能か? いろいろとイメージしてみると良いと思います。また地域の先輩や後輩など、関わっている人に話を聞いてみるのもいいでしょう。周囲が良いと言っているクラブが自分にとっても良いのか? それはわかりません。子どもたち、ご家族自身で情報を集めることが大切です。

―それぞれに合ったチームがあるということですね。

大槻 そうですね。強豪で有名なチームを目標にして、チャレンジすることもいいことだと思います。ですが、そういったチームに入ることだけがすべてではありません。必ずしも有名なチームに入れば成長できるというわけではありません。僕は「選んだ道を正解にしなさい」という話をよくするんです。「鯛の尾よりも鰯の頭」という言葉がありますが、いわゆる強豪と言われるチームに所属して試合に出られないよりも、リーグのカテゴリーが下であってもチームの中心としてプレーする経験のほうが充実感を得られますし、成長を期待できるという考え方もできます。ですから、中学年代を高校や大学までの準備期間として捉えるのもいいのではないかと思っています。心も体も変わってくる時期なので、うまくいかないと思いながら過ごすよりも、いいイメージを持って育つ方がいいと思うのです。しかし、情報合戦の過熱で現実との間に生まれるギャップもありますし、指導者もいろんなことを子どもに求めてしまう。今は難しい状況がありますね。

―複数の地域で指導された経験があります。地域によって親御さんの意識の違いはありますか?

大槻 保護者の方はどこに行っても変わらないと思います。子どもたちを第一に、そして大切に考えているのは、地域や国が違ったとしても変わりません。しかし保護者側に立つと、今は情報がありすぎる時代だなと思うことはあります。誰もが何が良いのか悪いのかが分からない、戸惑いがあるのではないかと思います。もしかすると、そういう不安から焦ってしまって、子どもへのアプローチが変わることもあるのではないかと感じています。そういった意味では現場にいる今の時代の指導者が、指導をする上での考えをしっかりと発信していくことが指導者にとっての責任にもなるのではないかと思っています。その方法はいろいろありますが、それもまた悩むところが多いんですけどね。

―中学生年代を指導する上で大事にしていることは、どんなことでしょう。

大槻 基本を重視すること。それはボールを蹴ったり止めたりという技術的な基本部分はもちろん、個人戦術、グループ戦術の基本的な理解もそう。年齢的に大人と同じ11人制になりますが、そこまでサッカーの理解が進んでいないので、焦らないようにしています。心と体、頭脳が成長していくなかで、段階的にハードルを上げていかないといけない。一人ひとりの個人差が激しい時期なので、子どもたちの個々の状況を見極めて提案していくことを大事にしています。
あとは心の部分ですね。これは本当にいろいろなことがあります。学校、家庭、友達関係など、悩みも多様化しています。LINEでのやり取り、電車の行き帰りや公共施設でのマナー。そういったところも含めて、しっかりと指針を示してあげないといけない。それがなければ、なんでもありになってしまうので、そういった部分にも働きかけています。そして、これはとても大切にしていることなのですが、保護者の方に、どのようにお伝えして、どのようなお願いをするのか。言葉一つからものすごく考えます。保護者の方と一緒になって子どもたちを見守っていくために、何をどのように伝えていくのか。そういった視点はとても大切なことだと思っています。

―指導者としての思い出について聞かせてください。

大槻 たくさんありすぎて悩みますね。一つは、子どもたちの成長を見る瞬間ですかね。できなかったことができるようになったというよりも、取り組み方が変わったなという瞬間です。そういうときの方が結果的にうまくなります。その瞬間を見るのがおもしろいです。根気強くアプローチしないと変わらないところですが、内面が変わって、取り組みが変われば、プレーも変わります。その瞬間を見たときは「あぁ良かったなぁ」と思いますね。

―子どもたちは技術的な進歩が楽しいのかもしれませんが、指導者としては取り組みの姿勢から見ているんですね。

大槻 はい、そういったところを評価できる指導者でありたいと思っています。できるかできないかだけで切り取ってしまえば、できなければダメになってしまい、子どもたちは苦しくなってしまいます。難しいことはいくらでもありますから、取り組む姿勢を育ててあげれば、いつかはうまくなっていきます。そして、個人を見て、何が出来て、何が出来ていないのかを見極めて、ハードルの上げ下げを設定してあげたいと思っています。あとは思い出というか、自分の関わった選手がW杯でプレーしているのを見たときは感慨深いものがありました。

―大槻さんのサッカー経歴を教えてください。

大槻 僕がサッカーを始めたのは小学4年からで、中学のときは三菱養和SCのグラウンドが千歳船橋にあったので、そこでプレーしていました。途中で巣鴨と合併することになり、中学3年になるタイミングで今の巣鴨のチームと合併しました。その後、全国大会で優勝。高校のときはそのままユースに上がり、国士舘大学サッカー部という流れです。

―大学ではサッカーをしながら教員免許も取得。大変だったのでは?

大槻 大変という意識はあまりなかったですね。当時の国士舘大学サッカー部はJリーグの下のJSL(現明治安田J2リーグ)に所属していたので、そこで繰り返される試合経験はとてもおもしろかったですし、かなり刺激的な大学時代でした。
大学卒業後は国士舘大学の大学院に籍を置きながら休学をして、いろいろなところへ行きました。海外でプレーしてみたり、愛媛県の今治でプレーしたり。今治のときは選手兼コーチ、そしてキャプテンとして、プレーだけでなく地域を巻き込むことの難しさや、0から1を作る難しさなど、本当にたくさんのことを経験させてもらいました。それが24歳くらいのときだったかな。その後、東京に戻って大学院に通いながら横河武蔵野FCに所属して選手としてプレーしながら、スクールコーチ、ジュニアコーチをしていました。本当に良い経験をさせてもらいましたね。

―2冊の書籍「やってみようサッカー (こどもスポーツ練習Q&A)」、「知ってる?サッカー (クイズでスポーツがうまくなる」を上梓されているんですね。

大槻 三菱養和SCでジュニアのチームの指導をしていたとき、全日本少年サッカー大会へ出場したことがありました。いい成績を残したチームでしたが、練習をガンガンやらせるとかではなくて、むしろサッカーの話はあまりしないで、子どもたちの心を育むような問いかけを続けていました。そんな他とは違ったアプローチをメディアの方がおもしろがってくれたのか、お声がけをいただきました。

―連載されているコラムについてもお聞かせください。

大槻 気がつけば長くやっていますね。サッカーコーチがサッカーを語るのは当たり前といえば当たり前で、それ以上のことを考えています。指導者として30歳を過ぎたあたりから、サッカーの領域を広げることに関心を持ち始めました。サッカーを中心としたときに、周りには教育、文化、言語、食事、洋服など、いろいろなものが紐づいています。紐づくものを少しずつ自分が勉強していけば、中心にあるサッカーの円がより大きくなっていくのではないかと考えるようになりました。インターネットやスマホが普及する時代のなかで、それをどう発信していくかを考えていたんです。そんなときにちょうどコラムの話をいただいて、連載を始めることになりました。文章を書くのはもともと嫌いではなかったので、なんとか続いています。サッカーを違う角度で見る良い機会になっていますし、自分の頭の中が整理されていくので、今では自分にとって大切な時間です。あまりサッカーばかりにならないように意識して書いています。

―どういった人に向けて書いているのですか?

大槻 サッカーの指導者や保護者の皆様に向けてですね。どういった考え方や導き方が子どもたちにとって良いのか。それが分からない方や迷っている方に向けて、自分の指導者としての経験や感じたことなどを書くようにしています。指導現場で「こういうことってよくあるよな」と思うことを書いたり、なかには人間関係のことなど、サッカーの話ではない回もあります。サッカーに関わる時間をより充実して過ごせるように、その手助けができたらと思っています。せっかく好きなサッカーをやっているのですから、迷いなく思い切りプレーをしてほしいですからね。

―競技以外の悩みについても書いているのですね。

大槻 それこそ保護者の方の悩みは多いでしょう。ちょっとでも寄り添えるものがある記事であればいいなと思って書いています。話はそれますが、僕の娘がサッカーとは違う習いごとを始めたときに、指導者の方から「これはこの業界では当たり前ですよ」と言われたことがあったんです。でも、こちらとしては初めてのことだったので知らなかったんですね。もちろん知っていれば、スムーズに対応できたと思うのですが……。知っていて当たり前ではなくて、そういったことへの配慮も必要なのではないかと感じたんです。だからこそ指導者として、自分は同じことをやっていないか。いい振り返りにもなりました。そういった経験から、皆さんの疑問になりそうなことや、お役に立つかもしれないという内容の記事を書くようになったんです。

―大槻さんの今後の展望を教えてください。

大槻 水戸ホーリーホックは、今年で30周年を迎えます。その節目の年に、アカデミーをより良いものにしていくためのひと役を担えればという気持ちでいます。またこれは水戸ホーリーホックに限らず、指導者育成も大切だと思っています。不安定な職種ということもあって減少傾向にある若い指導者たちの刺激になるような提案やアプローチをしていきたい。それが大きくいえば日本サッカーのためにもなると思うんです。指導者育成における基準作りのようなものを自分のなかでしっかりと作り上げて、そういった発信をしていきたいと考えています。

―最後にこの場で伝えたいことがあれば、ぜひお願いします。

大槻 子どもたちには、まずサッカーを楽しんでほしいと思っています。指導者は、あれをやれ、これをやれ、こうしないといけないと言いがち。指導側のイメージだけを提示しても、子どもたちのなかには理解が追いつかない子もいるかもしれません。それぞれの段階に応じた楽しみ方があると思うので、それを子どもたちに提案できることが大切だと思っています。指導者だけでなく保護者も含めて、子どもが取り組んでいる姿勢を大切にしたアプローチができたらいいなと思います。
スマートフォン、SNSの普及もあって今の時代は結果ばかりがクローズアップされることが多く、どのような姿勢で取り組むのかといった過程の評価が少なくなってきているような気がしています。もちろん結果は大切ですが、結果だけで評価してしまえば結果が出なければダメということになってしまいます。結果を引き寄せるための取り組む姿勢を育てていけば、例え結果が出なくても頑張る方向性を変えたり、試行錯誤をするようになる。そういった姿勢をきちんとジャッジできる世の中でありたいと思っています。

―ありがとうございました。これからも連載コラムを楽しみにしています。次の指導者のご紹介をお願いします。

大槻 栃木SCアカデミーコーチの村田修斗さんです。

<プロフィール>
大槻邦雄(おおつきくにお)
1979年4月29日生まれ、東京都出身。水戸ホーリーホックアカデミー ジュニアユースU-14コーチ
小学校からサッカーを始め、三菱養和SCジュニアユース、ユースを経て国士舘大学サッカー部、FC今治、横河武蔵野FCなどでプレー。
選手生活と並行して国士舘大学大学院で修士課程を修了。また同時に指導者としてのキャリアを積み重ね、三菱養和SCでの指導を経て、2023年より水戸ホーリーホックに移籍して現在に至る。中学校・高等学校教諭第一種免許状(体育科)、日本サッカー協会公認A級コーチジェネラルを持つ。

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