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J1リーグ第15節・東京ヴェルディ戦は5-0で勝利しました。第10節のジュビロ磐田戦で、J2リーグからの『昇格組』に敗れていただけに、中3日の準備期間では同じく昇格組のヴェルディ戦には絶対に負けられないということに気持ちを揃えて臨みました。同じ『東京』を拠点とするライバルという意味でも、勝ちに対する執着はなお一層、強かっただけに、結果を出せたことが素直に嬉しいです。
ヴェルディ戦の勝利を語る上で、前節・セレッソ大阪戦での勝利はすごく大きかったと感じています。この試合は、70分に先制点を奪えたものの、84分に追いつかれてしまい…。時間帯からしても、引き分けで終わってもおかしくなかった展開だと思っています。ですが、雨の中、たくさんの方が応援に駆けつけてくれたホーム戦で、このままでは終われないという全員の強い思いがデューク(ミッチェル)の決勝点に乗り移りました。
以前から町田に在籍している選手によると、平日ナイターの試合は、かつて700〜800人の観客数しか集まらない時代もあったと聞いています。それに対してこの日は6,546人もの人たちがスタジアムに足を運んでくださいました。もちろん、中にはセレッソファンの方もいらっしゃったはずですが、これはクラブにとってすごい数字です。と同時にそれは今、上位を走る僕たちへの期待の表れとも受け止めていました。そんなファン・サポーターのみなさんの想いと、それに勝利で応えたいという全選手、スタッフの想いが、引き分け濃厚の試合を劇的な勝利に繋げてくれたという意味で、今シーズンのキーとも言える特別な白星になりました。
また個人的にも、この2試合を含め7試合続けてフル出場をしている中で、コンディションの高まりを感じています。自分自身のバロメーターを表す言葉として、僕はよく『試合で足が出るようになった』と表現しますが、ここ最近の試合はそれを体感することも多いです。これはサッカーをしたことのある人にしかわからない感覚だと思いますが、サッカー選手にとっての『足が出る』とは、体のバランスが整っていて、ステップがしっかり合っていることを意味します。逆に、相手の状況と自分のステップが合ってない時は、足を出しても抜かれてしまうことが増えるし、それが自分でわかっているから足が出ないということにもつながります。でも今は『足が出る』自分を体感できているし、仮にそこで抜かれたとしても相手についていける足の運び、ステップができていることで、その後の対応もスムーズに体が動いています。
また、視野が広く取れている中でプレーができていることも、自分にとっては大事なバロメーターです。人はリラックスしている時に間接視野が広がると言われていますが、最近の僕もプレー中に、前を見ながらも自然と自分の左右両脇を俯瞰で視界に捉えられているような感覚があります。プロサッカー選手の多くは1秒あれば3メートルほど動けるはずですが、その瞬間的な相手のスプリントに対応する際に、関節視野を広く取れるかはすごく重要な意味を持ちます。実際、久しぶりに試合に出る時や、気持ち的に切羽詰まっている状況の時は、ボールの動きと目の前の狭い範囲でしかプレーができていないことが多く、それはセンターバックとして致命的な判断ミスに繋がりかねないからです。
これらはいずれも『試合勘』に通ずるもので、コンスタントにピッチに立てているからこそ得られるものだと考えても、僕自身もしっかりと今の状況を継続していけるように準備を続けようと思います。
そのセレッソ戦から3日後の5月18日。今シーズン限りでの引退を発表されている岡ちゃん(岡崎慎司/シント=トロイデンVV)の現役ラストマッチが行われました。前回の発源力で触れた、ハセさん(長谷部誠/アイントラハト・フランクフルト)に続き、またしても偉大な先輩がピッチを去ることに寂しさを覚えています。
6歳上の岡ちゃんとは、同じ兵庫県出身ながら対戦したことは一度もなく、話したこともなく、日本代表で初めてその人柄に触れました。とはいえ、僕みたいに代表活動が初対面というような若造でもすぐにイジれるくらいの親しみやすさがあり、2回目に会った時にはもう「岡ちゃん」と呼んでいました。
もちろん、ストライカーとしての資質は申し分なく、ひとたびピッチに立てば、気迫がみなぎる泥臭いプレーで何度もチームを助けてくれました。僕が代表戦に絡めなかった時は特に紅白戦で対峙することも多かったですが、その度に凄さを突きつけられました。岡ちゃんのあの泥臭いプレーについて僕たちはよく「岡ちゃんらしいな」と表現していましたが、その泥臭さの影には、プレスのはめ方やヘディングの駆け引きの巧さがあり…。後ろのポジションからニアに入り込んでくる体の入れ方など細かな駆け引きもたくさんあって、それが集結して「岡ちゃんらしさ」に繋がっているんだなと、何度も衝撃を受けたのを覚えています。
岡ちゃんにまつわるエピソードは、おそらく1000個はあるだろうというくらい話題に事欠かない人で、いつも岡ちゃんの周りでは笑いが起きているというくらい、日本代表でも唯一無二のキャラクターでした。
ややうろ覚えですが、ヨーロッパのシーズンが終わったあと、代表合流までの短い期間を使って3日間の断食に行き、かなり体を絞って代表に合流したことがありました。ただ、帰り際になって断食でお世話になった住職さんに「この断食トレーニングは1週間続けないと本当は何の意味もないんですけどね」と言われたらしく…。「俺、何のために断食したん?! ただ飯を食えずにげっそり痩せただけやん!」と爆笑をさらっていました。
レスター・シティFC時代、プレミアリーグ優勝という偉業を成し遂げた記念に、オーナーから全員にレスターカラーの車が贈られた時も「嬉しくて練習場へその車に乗って行ったら、全員がその車に乗って来ていたから、どれが自分の車かわからんくなった」と話し、これまた大爆笑でした。日本人選手としては初のプレミア優勝という偉業を達成しながらも、それを全く鼻にかけず、すべて笑いに変えてしまうのも岡ちゃんらしかったです。
もちろん、常に面白い話をしているわけではなく、僕が初めて出場した2018FIFAW杯ロシア大会の時は、岡ちゃんの姿から『世界』を戦う意味を学びました。今大会の直前合宿で、岡ちゃんは痛み止めを飲まないとプレーできないほど足首を痛めていて…。本人の気持ちが少しでも軽くなればと「無理をするところじゃないから、一回外れたらどうですか」というような声を掛けた時に真顔で返された言葉も忘れられません。
「いやいや、W杯は一番、無理をする大会や。足首がどうなろうと出し切るわ。じゃないと、何のために俺はこの4年間、やってきてん?」
その言葉に改めてW杯という大会の重み、国を背負う責任を知り、僕自身もすごくスイッチが入ったのを覚えています。
そんなふうに一緒にプレーした記憶を思い返すたびに、学んだことの多さを改めて実感しています。そして、それがすべて今の自分の財産になっているということがとても幸せです。岡ちゃん、お疲れさまでした!
昌子 源Gen Shoji
1992年12月11日生まれ。
兵庫県出身。
11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。