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Vol.5 西宮サッカースクールジュニアユース監督/谷元希

  • 2019.07.19

    Vol.5 西宮サッカースクールジュニアユース監督/谷元希

指導者リレーコラム

1976年に発足した歴史ある西宮サッカースクールで自身もかつてはプレーし、06年からはジュニアユースチームの監督を務める谷元希。『すごい選手』を育てたいと話す、氏のサッカー感や選手育成への思いを聞いた。

一刈谷JYの吉村大輝監督からご紹介いただきました。年に数回、フェスティバル等でご一緒されているそうですね。

谷 そうなんです。元西宮SSのコーチで現在は近江高校サッカー部の監督をしている前田高孝と、現在は刈谷JYのアドバイザーをされている矢野隼人さん(日本サッカー協会インストラクター)が知り合いだった関係で、刈谷JYのフェスティバルに参加するようになりました。どこもそうですが、チームってBチームの状態を見ると、指導力やチーム力が分かると思うんです。Aチームを強くしようと思えば選手を集めればそれなりに勝てるはずですが、Bチームはそうはいかない。その点、刈谷JYさんはBチームの選手がよくサッカーを理解してプレーしていて、すごくいいチームだなって思います。

ー試合を組む際には、そういうところも考慮されているということですね。

谷 それもあるし、基本的には『育成』に力を注いでいるチームと試合をしたいと思っています。もちろん勝ち負けも大事で、負けていいとは思いませんが、育成型のチームには必ず指導のヒントになることがあるし、毎年試合をすることで相手チームの選手がどんな風に変化しているのかもわかりますからね。そこにどういった指導があるのかも知りたいな、と。それもあって、懇親会などでは相手の監督さんにグイグイ、質問しています(笑)。吉村さんともコーチングや練習方法などについてよく話しますよ。

ー今日の練習はアップ後、長い距離のボールを蹴り、制限をつけた4:4、ミニゲームを行っていました。いつも今日のような内容ですか?

谷 1〜2年生のうちに、基本的な技術を習得している選手が多いので、3年生になると今日のようにゲームをする時間をできるだけ長く設けています。練習は週3日で、火曜、水曜、金曜日。基本的に、土日は試合をしていますが、それがなければ、平日の練習の強度を少し上げます。また、月に1〜2回はちゃんと練習をする日を設けて、課題や成長スピードに応じたトレーニングをやりこみます。学年が上になるほど長い距離のキックも蹴れるようになってくることもあり、プラスアルファの技術練習も多少はしますが、基本はゲームでいろんなことを習得して欲しいと思っています。この年代は、運動、休養、栄養が大事で…日本の場合は『休養』が軽視される傾向にありますが、体と頭を休める時間が一番、選手が成長する時間でもあるので、今くらいの練習頻度が理想的かなと思っています。実際、選手の中には思春期を迎える難しい時期だということもあって、たまに「サッカーをやめたい」と言ってくる子もいますが、そういう子たちが「やっぱり頑張ります」ってなった時の成長の振り幅って、すごいんです。その姿からも適度な休養は必要だなって思います。

ジュニアユースチームは
各学年30〜40人の大所帯。

ー指導で大事にされていることを教えてください。

谷 大きなくくりでは、サッカーを好きになってもらうこと、考えてサッカーをすること、自分の特徴を出すことの3つです。なので、仮にその『特徴』がチーム内でぶつかってしまっても気にしていません。サッカーは基本的に、点を取って点を守るスポーツで、そこにみんなの個性がしっかりと発揮できれば、チームとして完成させる必要はないのかな、と。特に3種の年代だけになおさらそう思います。あとは指導者の経験値で物を言わないこと。毎年、この年代の選手を見ていると「なんでこれができないんだ」とか「なんでそんなミスをするの」って自分の物差しで選手を見てしまいがちですが、選手は一人ずつ経験値も能力も違いますからね。だからこそ、僕の考えを押し付けるのではなく、選手が自分で頑張ろうと思える働きかけをするのが大事なのかなと。じゃないと、自分でやろうという気持ちが薄れてしまうし「監督の言うことを聞いておけばいいだろ」って判断になって、個性が消えてしまう。それに、僕はうちの選手に将来、『すごい選手』になってもらいたいと思っているんです。であればこそ…今現在の、勝ち負けより、選手の将来をイメージして負荷や練習内容を考えたい。と言っても『すごい選手』が集まれば必然的に勝てるんですけど(笑)。

ー『すごい選手』をもう少し説明していただけますか?

谷 読んで字のごとく『すごい選手』です(笑)。パスがすごい、とか、ドリブルでの仕掛けがすごいとか、その中身は選手によって違っていいと思うんですが、要するに自分の武器や個性を大事にしてもらいたい。なので選手には『すごい選手』になるには何をすべきか、どうすれば近づけるのかを常に考えろ、と言っています。わかりやすく言うと…漫画の『スラムダンク』に登場する湘北高校バスケットボール部の姿が理想です(笑)。というか、スラムダンクに限らず漫画の世界は決まってそうですが、それぞれキャラクターが立っていて、各々に自分の特徴を発揮することでチームとしての結果を求めている。それと同じで、うちのチームも毎年、同じスタイルのチームである必要はないと思っています。だってどんな個性が集まってくるのかは毎年、わからないわけで、ドリブルが巧い選手が多い年もあれば、体格に恵まれてヘディングが強い選手が集まっている年もある。なので、他のチームからはよくテクニックを備えた巧い選手が多い、という評価をいただきますが、僕自身はそこに拘っているわけではないということです。あとは人間教育のところで、選手には常々「自分を高めていけるような意識を持てる人になろう」と伝えています。それが『すごい選手』への近道でもあるはずなので。これは余談ですが、うちのチームの移動バスには、スラムダンクと黒子のバスケ、アイシールド21というアメフトの戦術的要素が高い漫画を常備していて、選手にはそれを読むように求めています。サッカーとは全く関係のない漫画ばかりですけどね(笑)。でも学ぶところはたくさんあって…例えば黒子のバスケには『ミスディレクション』という言葉が出てくるんです。これは目線誘導で相手の枚数を増えるように感じさせたり、相手の視線や注意をそらしてコートから消えたように見せるテクニックを指しますが、みんなが漫画を読んでいる分、例えばうちの試合中に「ミスディレクションを使おう!」というと、それで全員がパッと意識できるんです。つまりいい風に言うと、漫画を使って、僕が大事にしたいこと、伝えたいことを理解してもらい、子供たちの共通意識を高めているということです。

考えてサッカーをすることと相手との駆け引きは、
常に選手に求めている。

ー先ほどおっしゃった『自分を高めていけるような意識』を備えるための働きかけとして行なっていることはありますか?

谷 トレーニング以外だと…たまに座学のようなこともします。先日はトレーナーの方に、体の使い方を教えていただいたばかりです。でも、今の子たちって座って何かを学ぶとなると、こちらが何も言っていないのにみんながビシッと座ってノートを取り出すんです。でも…自分が面白いと感じたこと、自分に必要だと思ったことを忘れないように書き留めるためならいいのですが、単に「周りがやっているから」とか「ノートを取っていれば勉強しているように見えるから」では意味がない。これは選手にも伝えましたが、要するに自分がやることに対してちゃんと考えて行動しなければ、全く身にならないし、それでは『すごい選手』にもなれない。それもあって、毎年、夏休みに行う合宿はテーマを『理不尽』にしているんです(笑)。世の中って理不尽で溢れているますが、そこにどう向き合い、乗り越えるか、という力を身につけて欲しいから。なのでタイム走をするときも、選手には「全員が決まった時間内に入ったらOK」と伝えておきながら、そのタイムで全員が走っていても全員が走り終わる前に笛を鳴らしたりもします(笑)。といっても、3年生にもなれば頭を使うようになり、早めに入った選手が僕の横に立ってストップウォッチを見ていたりするんですが(笑)、そうやって考えて行動することも、サッカーに見えないところで活かされているはずだと思っています。

ー谷監督ご自身はずっとジュニアユース年代を指導されているのですか?

谷 そうです。実は僕も西宮SSの出身で、市立西宮高校サッカー部を引退してすぐの頃に、西宮SSの少年チームを見に行ったら、6年生チームのコーチがちょうど転勤になるから、とバタついていて…代わりに選手を見てくれ、って言われたんです。そしたら、意外にも選手が懐いてくれて…って言うのもありその6年生が卒業するタイミングでジュニアユースチームを立ち上げることになったんです。以前からうちのクラブでもそういう話は何度か持ち上がっていて、でも、やる人がいなくて立ち消えになっていったそうですが、指導者が見つかった、と(笑)。で、19歳からこのチームの監督をすることになって今に至るので、僕自身もいろんなことを学びながら手探りで指導をしてきたところもあります。特に他チームの指導者の方には可愛がっていただいて、多くを学ばせていただきました。その頃からジュニアユース年代を教える楽しさは感じていましたが、それは今も変わっていません。これからも個性のある『すごい選手』をたくさん育てたいと思っています。

ゲーム中に伝えきれなかったことは、
止めて話をすることも。

ークラブとしての目標はありますか?

谷 個人的には、将来ワールドカップに出場する選手を二人以上、育てたい。一人ならあっても、二人以上出ているチームってあまりない気がするから。うちの少年チーム出身の堂安律(FCフローニンゲン)は『FIFA U-20ワールドカップ』に出場していますが、そういう選手が一人出ると、そのことが宣伝にもなって選手が結構集まってきたりするんです。でも、大事なのは選手を集めることではなくて、いい選手を継続的に育てることなので、そこは見失わないようにしたい。あとはFC LAVIDAさんと昌平高校の関係性のように、うちで育った選手を定期的に送り込めるような高校と連携できるようになれば理想的です。以前は僕の母校である市立西宮高校とそういう関係性にあったのですが、公立高校だし最近は学力が上がってしまって、そうもいかなくなったんです。なので今後は他の高校でもその可能性を探っていきたいと思っています。

ー谷監督が推薦する次の指導者をご紹介いただけますか。

谷 カテゴリーは4種(小学生)になりますが、三田市を拠点に活動している虎ジュニアの小山元敬監督を紹介します。うちの中学1年生もたまに見てもらっていますが、小山さん自身の考え方もすごく面白いし、かなりテクニックに重きを置いて指導されています。ガンバ大阪の宮本恒靖監督らと同じ世代で、テクニックを大事にする指導者の中でもカリスマ的な存在なので、どんな話をされるのか、僕も楽しみにしています。

<PROFILE>
谷元希(たに・げんき)
1986年生まれ、兵庫県出身。
西宮SSでサッカーを始め、市立西宮高校卒業後すぐに指導者の道へ。19歳で西宮サッカースクールジュニアユースの監督に就任した。自身の選手時代は100メートル走を11秒台前半で走る俊足の持ち主だったが、プロになった同世代に比べると「技術とサッカーへの理解がもう少し深ければ、将来は違っていたかも」と感じたことが指導者としての礎になっている。

text by Misa Takamura

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