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Vol.21 SPORTING CLUB DE SHINAGAWA 代表/大嶽真人

  • 2020.07.24

    Vol.21 SPORTING CLUB DE SHINAGAWA 代表/大嶽真人

指導者リレーコラム

都心の東京都品川区を中心に2008年から活動しているSPORTING CLUB DE SHINAGAWAは、「将来にわたり世界の舞台で活躍する自立した選手を育成・教育する」というクラブ理念の下、サッカーを通じた人間力の育成に取り組んでいる。クラブを設立し現在も代表を務める大嶽真人氏に、クラブの取り組みと指導方法について、お話を伺った。

ーご紹介いただいた東海大学付属静岡翔洋高等学校の太田監督とのご縁についてお聞かせください。

大嶽 私と太田先生は高校、大学が同じで私が2学年上という間柄です。高校の時からよく一緒にプレーしていて、太田先生は上手だったので1年生から3年生のチームに入っていたところから縁が始まりました。
大学卒業後、私はセレッソ大阪に入団し、3年ほど選手としてプレーした後に大学に戻るといった経緯を経て、教員の道に進んだのですが、太田先生はすぐに東海大学第一高等学校中等部(現東海大学付属静岡翔洋中学校)で教員を始めています。その頃から今度は指導者の仲間として繋がっていき、今では高校で指導を始められた太田先生のところへ選手を送りたいということで、より深い関係になってきています。
 
ーチームはどのような経緯で設立されたのですか?

大嶽 このクラブを立ち上げたのは順天堂大学の仲間と、自分たちの育成の理念を持って、自分たちらしいものを発信して、私がサッカーから教わったことを伝えながら、子どもたちの先へ繋がる「育成クラブ」を作りたいという思いと、その当時品川の子どもたちを指導する機会が多かったことから、品川でNPO法人として立ち上げました。
当時から子どもたちには勝つことを目標としたチャンピオンスポーツであるサッカーを伝えていますが、試合で勝つという結果よりも、3年間私たちからサッカーを教わることで人間力に加えて教育という部分の成長で勝者になることを大切にしています。また、将来に向けた基礎をクラブと家庭の両輪で育てるという理念でご家庭の理解と選手へのサポートをお願いしています。スタッフは皆クラブ専属ではなく、教育機関で仕事を終えてから夕方にサッカーの指導をしています。
私たちは、子どもたちをどのような進路に送り、将来サッカーに携わって、また自分たちのクラブに戻って来てくるようなシステムを作りたいというのが一番の根本的な軸になっています。通常クラブは学校から離れてしまいますが、私たちは教育とは切り離さずに考えています。そのため、チーム全体で強くなるというよりも、個人でどれだけ伸ばせるか、どれだけサッカーが好きでチャレンジできるような環境へ飛び込ませることができるか、自分が将来目指すべきところや、やりたいことを選んで進んでもらえるような土台と基礎を身につけるさせることができるかを考えています。また、自分の武器を磨いてもらい、そして多くの時間をピッチに立ってもらいたいと思い、クラブでは当初から1学年15人を原則とし、3学年で45人までの在籍としています。練習も創設時から3学年一緒に行っています。3学年で練習するという事の1つは部活動の様に先輩後輩とも関わるので、先輩は1年生や2年生の手本というのが当たり前になり、1年生と2年生は先輩を見ながらもサッカーをチャレンジできる。1年生でも2年生でも個人のレベルが上がってコンディションが良ければ3年生の試合に出るといったことができる環境を目指しています。

ープロも経験された大嶽代表が、強いチーム作りではなく、教育に重点を置かれるのはなぜですか?

大嶽 私はそんなにエリートではなく、ずっとトップレベルで試合に出ていたわけではありません。結局何をするにしてもトップにいく子は行くけれど、そうじゃない子が大半です。ですがアマチュアではサッカーが好きであればずっとプレーをすることはできます。サッカーはチームスポーツで、不器用な足を使って11人対11人で周りの動きを理解して一番状況にあったものを選択するというスポーツなので、自分勝手ではいけないし、ルールを守らないとチームになりません。
クラブは学校教育外の活動なので、外に出た時の行動というのはクラブにかかってきます。クラブだから良いという考えではなく、中学生らしい行動をとっていなければ、その先の将来はないと思っています。例えば学校を休んで練習に来るといったことをクラブでは許しません。それが13歳、14歳でプロ契約をしているから優先順位の一番がサッカーであるということであれば別ですが、義務教育中の選手が将来のために何をするべきかを問わないと、親のお金で好きなことをして、部活動ではなくクラブだから何をしてもいいということは、この年代を教える上で違うんじゃないかと思っています。
教育的な部分と人間力というのは、その選手のアイデンティティーとなり、個人の特徴を持ったプレーヤーであるべきだと思うのです。教育機関に携わっているスタッフが多いというのもクラブの特徴だと思っています。クラブにはOBがコーチとして教えに来てくれていますが、教員やトレーナーなど教える側になりたいという考えを持って帰ってきてくれているということが、このクラブを始めて本当に良かったと思うところです。
クラブと家庭の両輪と言いましたが、家庭にお願いすることは、ほとんど生活習慣についてです。選手には朝から夜まで24時間、自分でコントロールできるように自立して欲しいのですが、なかなか朝起きられなかったり、夜更かししてしまったりすることもあるので、最終的には本人次第となります。志が高ければ自分でやりますが、クラブに入ったからには私たちからも繰り返し伝えていて、保護者の方には日常の私たちには見えないところをサポートして頂きたい。食事の面でも、こちらが「これを食べろ」と言っても、選手が自分で作るわけでも食堂に行くわけでもないので、そういった所をお願いしています。他にも食事の時間やタイミング、塾など勉強面に至るまで、私たちが見えない部分は家庭でもお願いしています。また学校の生活はなかなか見えないので、学校の先生とも連絡をとったり話をする機会を持つようにしたり、学校の成績表も確認しています。教科の点数だけでなく先生からのコメントや採点内容、関心意欲といったところをチェックし、選手と面談もします。やはり中学生として高校受験があるので、サッカー推薦であっても、基準に達することや、最低ラインや基準はどこなのかを共有します。
こうした取り組みを通じて、将来を見越して、自分が今何をしなければいけないとか、どうしても行きたい学校があっても学力が足りないということにならないための指導を出来るだけ早いうちから行なうということをしています。
こうしたピッチの外側の話はスタッフ同士でもよくしています。サッカーの成長度合いやその子の足りないものだとか、目指す高校とか、その子の将来を見越していて、その先に進むためのものが足りているか、学力も含めてどのように指導するかなど、今よりも将来についてのことが多くなっています。
また高校の先生とも繋がりを多く持ちながら、実際に選手を評価する視点や高校生になって何を求めているかといったことがわかって、中学生から習慣づけることができれば、もう一つ上のレベルで行動がとれると思っています。出来るだけ早いうちに、高校が求めていることを子どもたちに教え込み、情報を伝えて、引き出しを作っていくということはサッカーと同様なのかなと思っています。

ーそういう人間力がサッカーのプレーやピッチ外の立ち振る舞いに影響するところは大きいですか?

大嶽 そうですね。1年生よりは2年生の方が習慣づけられてきますし、2年生は身体も大きくなってきて技術やプレーの幅が広がって3年生にチャレンジできるようになってきたりするので、3年間かけて育てることに意味があるという事を改めて感じています。大きくなるための準備や多方面からサポートしていかないといけないということは常に感じていて、伝え続けることで気づく子は伸びますし、気づかない子はだんだん差が開いてしまいます。全員に提供しますし、沢山与えて伝えますが、最後は自分でやる気になったり、モチベーションを高く保てるかに懸かってきます。今を一生懸命頑張りながら将来まで頑張り続けられるような力をつけさせるということは、私たちスタッフの課題であり使命です。

ー卒業して全国大会を目指して強豪校を目指す選手もいますか?

大嶽 はい。全国大会に出場する高校で挑戦したいとか、全国大会レベルの競い合う環境の高校にいきたいということで、これまで何人も進学していきました。また、レギュラーで常に試合に出られる高校や、いつも全国大会に出ている高校でなくてもチャレンジができるところでやりたいと言う子もいます。このクラブよりも、もっとサッカーを学びたい、全国に出る高い意識の中でサッカ-を学び、試合に出ることを目標にする子もいます。そういう自分の考えを持って進路を選ぶ子が多く出てきています。
私たちもそこに送る時に学校のことをよく調べていますし、私たちと同じ考えだとか、指導やサッカー観というのは出来るだけ伝えています。あとは信頼できる先生の所に進学することでさらに成長して、戦力になってもらいたいですし、組織としての役割も担うマネージャーなど、選手としてだけではなくクラブを運営するのにプラスになる人間になってほしいと言っています。
卒業生には高校入学後の勉強を頑張って、特待生制度などを目指した選手もいて、高校の先に、筑波大学や早稲田大学、慶應義塾大学といった難関大学を目指しています。他にも大学進学を見据えて付属高校を目指す選手もいるので、付属校に行くメリットとデメリットも伝えながら、さらに自分が生活する学校教育、受験とサッカーとをよく考えて、どのように成長できるのか想像しないといけないと話はしていますね。

ーサッカーに関しては、どのようなサッカーを目指していますか。

大嶽 基本的に大きな戦術やシステムというのは、このクラブには存在していないというのが大きな特徴です。その年の選手達に合わせているのですが、個人戦術とグループ戦術といったサッカーの基礎基本を身につけることで十分だと思っているので、システムを4-4-2や4-3-3など特に固定はしていません。もちろん同じシステムであっても、その学年にあったものや核となる者がいれば取り入れますし、良い内容を求めて公式戦ではある程度メンバーを固定して行いますが、選手のポジションを固定するということは少ないです。選手には右サイドも左サイドも攻撃的ポジションも守備的ポジションもやってもらいます。その中で選手にスペシャルな武器が発揮させ、ポジションに特化して、さらに自分の個性を活かせるようになってもらいたいと考えています。
このクラブでサッカーを学び、本当にサッカーをどこの高校へ行っても戦えるようにすること、そのための技術と、そのための判断ができるということが大前提にあります。だから個を大きくしながら、その時の個人が関わりグループになり、チームになるように伝えています。必然的にシステムで動いて、何かしなければいけないという事ではなくて、味方や相手の動きを見て、感じて理解をして、その時に何をするかという引き出しが増えれば、あとは進学先の高校の先生の戦術やサッカー観にマッチしていくのではないかと思っています。その時に一から基礎を学ぶことのないように、ドリブルやコントロール、キックの精度、動き方と同時に自分の武器は何かを明確に理解できるようにしています。そして、選手が個性を輝かせながらも状況に応じて自分の一番いいものを選ぶようにすることが大切で、選ぶために私たちが引き出しを多く作る作業が必要だと思っています。
一般的に自由に自分で考えてプレーしていいと言いますが、やはり考えるための材料や場面をたくさん伝え、教えていく事が大切です。サッカーでは、今は何をすべきだったかということを伝えて、判断の基準を高めないといけないので、サッカーとはどういうスポーツなのかを大前提にしながら、その中にある個人の技術と戦術、自分の武器を磨いていきます。武器は何でもいいと思っていて、オン・ザ・ボールや身体能力だけでなく、グループになって輝いても、黒子として欠かせない選手でもいいです。それはボールを持たないけど、スペースを埋めていて、危険なところにパスを出させなかったなどチームを助けてくれるとか、いつも声を出し続けて、精神面で支えてくれるだとか、用具を自ら管理して誰もが気にならないところが気になる選手など、オフ・ザ・ピッチの所でもチームを支えるだけでもいいと思っています。
そういうところで将来、高校へ進学したときにチームの一員として役に立てるようになり、サッカーも気持ち良くプレーでき、一体感を持ってやれていきます。自分のプレーも理解して、味方の武器が明確であれば、それに沿って同じようにサポートできるので、自然と自分達でチーム戦術のようになっていきます。
その辺りを強調しながらアグレッシブに楽しくサッカーをするのですが、選手に楽しいことは何かと聞くと「点を取って勝ちたい」と言います。そうするために何をしなければいけないかというと、ボールを早く奪い返さないといけないし、攻守の切り替えも早くしないといけません。子どもたちからすると守備はネガティブなのですが、攻撃するためには、ボールを奪わないといけないし、奪ったら取られないようにしないといけない。そのためにサッカーを理解しながら、少しずつ幅広くプレーが選べるようにしないといけないと思います。

ー選手の引き出しを増やすためにしていることはありますか?

大嶽 練習の中でグルーピングを変えています。トレーニングで同じメンバーでプレーすると理解し合い、感じとって、いつも同じことをしてしまいます。上手にしたければ上手な子達だけで集まればいい時もありますが、3学年が一緒にやることによってミスが起きたり、人が変わるといつもと違った動きをされたり、いつものスピードだと合わないということも気付いてほしいと狙っています。サッカーは補完しあいながら行うスポーツでもあります。周りと協力することをいつも行わないといけないと思います。
もちろんできない同士でお互いにできるようになることも大切なので、グルーピングを変えることや、いろいろなことが身につくように、繰り返すことも多いですし、自分たちが何をすべきかという、練習の内容が分かるようにメニューを変えずに人を変えるようにしたりして、同じ方向で引き出しを増やせるようにしています。

ー今後のビジョンについてどうお考えですか?

大嶽 究極の理想を言うと、プロや高校生の様に学年毎のチーム分けではなく、1学年8人で3学年合わせて24人全員で試合に行きたいと思っています。もちろん1年生が3年生の試合に出ることでケガなどのリスクもありますが、3年間1番上のクラスでプレーができます。そういうチャレンジ精神を持った子が8人いれば、本当に濃い3年間を過ごし、教えて送り出せると思っています。それはなかなか叶いませんが、それくらい個人を伸ばすことを目指しながら、育成・教育するクラブというのが理想です。実際にはそこに強化というものが入ってきていますが、サッカーも結果やレベルということではなく、高校生とゲームをして内容を求め、できる自信の獲得と課題発見を常に目指したいなと思っています。
クラブには人も中身も伴ったうえで、育成と教育の先に「強化」が見えて、それが最終的に試合に勝ったり、いいサッカーをしていたり、子どもたちがいきいきとプレーしているところを評価されたいと思っています。大会の結果という枠を超えて選手を評価してもらいたいという気持ちが強いです。チームは強くないかもしれないけれど、送り出すときには、自信をもって送り出すようにはしていますので、そういった所を目指しながらさらにサッカーが楽しく出来るようなクラブを目指そうと思います。

ー最後に、次にお話いただく指導者の方をご紹介いただけますか。

大嶽 日本女子サッカーリーグ、なでしこリーグ1部の伊賀FCくノ一三重の大嶽直人監督です。私がサッカーを始めたきっかけでありずっと追いかけている兄なのですが、プレーヤーとしても追いつかず指導者としても未だに追いつけない大きな存在です。男女共に日本のトップレベルに携わってきているので、貴重なお話を伺えると思います。

ーありがとうございました。

<プロフィール>
大嶽真人(おおたけ・まさと)
1971年8月31日生まれ。
静岡県出身。兄の影響で小学生の頃からサッカーを始め、東海大学付属第一高等学校、順天堂大学とキャリアを積み、セレッソ大阪でプレーする。引退後は指導者として順天堂大学、大阪学院大学で指揮した後、特定非営利活動法人SPORTING CLUBを設立。日本大学文理学部体育学科で教授として教鞭を執る傍ら、自身の教育理念と専門のコーチング学を基に、品川で中学生、横浜で小学生にサッカーを指導している。

text by Satoshi Yamamura

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