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Vol.25 明治大学サッカー部 監督/栗田大輔

  • 2020.09.17

    Vol.25 明治大学サッカー部 監督/栗田大輔

指導者リレーコラム

総理大臣杯、関東大学1部リーグ、全日本大学選手権の3冠達成で2019年度の大学サッカー界を席巻した明治大を率いる指揮官は企業社員、ジュニアクラブの代表の顔も持つバイタリティーあふれる人物だった。サッカーと人にかかわる、簡単には真似のできない情熱はどこからやってくるのか。またその情熱を大学サッカーの指導の中にどう落とし込んでいるのか、何を指導のベースにしているのか、熱く語っていただいた。

ー山梨学院大学サッカー部の岩渕弘幹監督からのご紹介をいただきました。まずは岩渕さんとの関係について教えてください。

栗田 岩渕さんが専修大のヘッドコーチとして関東大学1部リーグを4連覇された黄金期、当時監督を務めていらっしゃった源平貴平監督(現在は同大の総監督)をヘッドコーチとして支えていらっしゃったのが岩渕さんでした。そういう強いチームに対してわれわれ明治も当然、『打倒、専修大』ということでかなり燃えていましたね。その後もお互いに切磋琢磨しながら良い刺激をいただけるライバルとして、また同じ大学サッカーの指導者として良いお付き合いをさせていただいています。
 
ー栗田さんは、清水建設㈱の社員であり、FCパルピターレという育成倶楽部の代表を務めながら、明治大の監督も務めていらっしゃる。まず、FCパルピターレをなぜ立ち上げたのでしょうか?

栗田 明治大学を卒業してから入社した清水建設株式会社の社員というのが僕のベースです。会社に勤めながら社会人チームに所属してサッカーを続けていましたが、2005年、僕が30代に入り「何かを残したい」と思うようになったんですね。当時住んでいた横浜のある地域の少年サッカーにかかわった時期がありましたが、その地域の状況が、小学校のころからサッカー文化満載の静岡県清水で育った僕としては、ある意味、衝撃的だったんです。指導していた小学生に将来の夢を聞くと「プロサッカー選手になりたい」と答える子が多かったのですが、サッカーをする環境があまり整っていなかった。これでは夢を手にできないだろうと感じたんです。それで自分でチームをつくろうと考えた。それがFCパルピターレだったのです。

ー子供たちの夢を実現する手助けの一環として、ですね?

栗田 あくまで草の根の活動ですけどね。それとは別に、僕は名の知れた企業に勤めていて、名刺を出せば、多くの人が僕に会ってくれます。でも、栗田大輔という個人の名前だけで世の中にどう勝負できるのだろうか、と考えた時期でもあって、そういう挑戦心もクラブ創設の理由の一つになりました。

ーパルピターレの指導で心がけていたことはありますか?

栗田 多感な時期に、好きなことに100パーセントの力を注ぐってことは素晴らしいことじゃないですか。そういうことができればきっと“道を外れる”ということもないと思うんです。親もうまいとかヘタは関係なくて子どもが頑張る姿を見ることがうれしいですし、それで家庭の中も明るくなるものです。そこにコミュニティーも生まれますしね。そこがまず大事だと考えていましたし、それに加えて、その中から一人でも二人でも上に行く、そこに僕らの指導でつなげていく、ということもクラブの役割だと考えていました。いま流通経済大の2年生で齊藤聖七というセンターフォワードがいて試合にも出ているのですが、彼がパルピターレの出身なんですよね。残念ながら明治大ではないんですけど(笑)。でもそういう選手が数は少なくても出てくると、クラブをつくって良かったなぁ、って思えるんです。

ーコーチと助監督を経て、2015年に明治大サッカー部の監督に就任されてから昨年の3冠まで、ものすごいスピード感で成果を出されています。スピード感をもって成果を出す秘訣は何でしょうか?

栗田 まず明治大には神川明彦・前監督から変わらないベースとなるものがあります。それを継承した上で、何を上積みして、何を、どう進化せていくかということと、チームとしてのあるべき姿、組織マネジメントとか、みんなのマインドをしっかり揃えること、大学生なので自立心を促すことなど。このあたりが成果につながったのかなと考えます。

ー企業にお勤めであることも関係しているのかもしれませんが、かなり計画的に事を進めるタイプですか?

栗田 大胆かつ繊細という言葉がありますが、大胆あるいはいい加減に映っているかもしれませんが(笑)、計画はかなり緻密に立てる方だと思います。細かい部分でのこだわりは強い方で、当然に計画も細かくなるんです。例えば、練習も、自然体の中でいかにやりたいことを自然に出せるか、ということを追及していますし、メンタリティーや人間性を鍛えるのも、10人いたら10人それぞれでアプローチを変えます。ある事象に対して怒っている事実は変わらないけど、怒り方を変えているとか。そういう細かいアプローチをするために、全体的な絵というのものは、いつも明確に描いているつもりです。

ー個々でアプローチを変える作業はかなり大変そうですね。

栗田 学年や実力に関係なく、すべての選手を平等に見ています。平等に見ていないと、怒る瞬間、アドバイスするタミングを逃してしまう。チームの中にはどうしてもパワーバランスは生まれてきて、例えばエースの選手になかなか物が言えない雰囲気になることもあるのですが、そういう空気は僕にはまったく関係ないですね。

ーアドバイスを送るタイミングを逃さないためには、入念な観察が必要ですね?

栗田 そうですね、逆に言うと、そういうところばかりを探しているとも言えます。人間が変わる瞬間とか、その人間の弱さとか、そこをつつけば人間としてもう一皮むけるかな、という瞬間をいつも探しています。そういう瞬間が来て、それを見つけたときは「ラッキー!」と思いますね(笑)。ほめるタイミングも大事だとは思いますが、明治に来る子は、ハングリーで向上心の塊なので、ほめられてもあまりうれしくないようです。彼らは常に何かを追い求めているので、ほめられるよりも、心が揺さぶられる瞬間とか、自らの成長の瞬間が感じられることに、喜びを見出しているように感じます。

ー先ほど明治大には継承すべきベースがあるとおっしゃいましたが、それは何ですか。

栗田 明治大サッカー部は、プロ選手の養成所ではなく人間形成の場であるということ。それはサッカー部の監督、総監督、ゼネラルマネジャーを務められ、2年前にお亡くなりになった井澤千秋さんが40年近く部を見てこられる中で言葉として表した哲学です。私も明治サッカー部の出身ですが、当時と比べたら部そのもの、またそれを取り巻く環境は劇的に変化しており、いまの部に属する者はもう完全にアスリートです。しかし、環境が変わっても変わらずサッカー部の真ん中に位置するのは、その哲学なのです。そもそも大学とは、どちらかというと詰込み型の高校とは異なって、学生自身が考えてアウトプットしていかないと自己表現力が高まっていかない場所です。だからその哲学は大事にし続けるべきだと思っています。

ーそういうベースの上に栗田監督独自の哲学も加えていくということでしょうか。

栗田 明治のサッカーには三原則があります。運動量、球際、切り替え、ですね。それは神川前監督が大事にしてきたものです。僕は2013年から15年まで神川さんと一緒に指導してきて、その重要性を実感していましたし、明治の躍進の元になった部分でもあると認識しているので、その三原則は絶対に譲れないものとして今現在も僕の指導の幹になっています。そして僕が加えた考え方というのはハイプレッシャーとショートカウンターです。それがいまの世界サッカーの時流を見ても必要なことだと考えましたし、国外の選手ができているのに日本人にできないわけがないと思いますし、そこは世界に追いつけ、追い越せという意気込みで、ぜひともチャレンジしていきたい、と。でも、それをピッチで表現するには、判断力、決断力を含めた個人のスキルのレベルが高くなければダメなんですよ。

ーそうなると個の力を高めることが大事になる。

栗田 目指すサッカー・スタイルを表現するためでもありながら、一方で社会人の一歩手前にある学生たちはプロ選手になろうが企業に就職しようが、一人の人間として自分の人生を切り拓いて行かなければならないことに変わりはありませんよね? だから、自分で壁を乗り越える力、決断する力、そういう“強い個人”を追求していこうと学生たちには話をするんです。だから、ピッチの中でも自分で解決できる選手、仲間と同じ目標に向かうにあたってベクトルを外側ではなくて内側、自分に対して向けられるような選手になろうと言うのです。

ースタイル確立のためにピッチ上で追及していることはありますか?

栗田 守備の強度はかなり重視しています。強度の高い守備がある中でプレーすることで、攻撃の際に本当に必要なスキルが磨かれると思います。ボール保持者は相手の圧力が強くて速い中で効果的なプレーをするために素早い視野の確保が必要になりますし、判断のスピードもあげなくてはいけない。もちろんボールを扱う技術も圧力下で生きるものに変化、レベルアップさせなくちゃいけませんからね。そういうのが身についてきて初めて、アタッキングサードでのクリエイティブな攻撃が表現できると考えています。

ー昨年の3冠達成を受けて、今年はどんな目標を掲げていますか?

栗田 さらなる進化を成し遂げよう、というのが今年のテーマです。もちろんサッカーの場における勝ち負けは大事なものではありますが、勝敗を越えたところに価値をつくり出そうと学生には話しています。明治が大事にしてきたものをやり続けたらタイトルが取れた。それと同じことをしても成長はない。だから勝った負けたではなくて、本当の意味で組織としても個人としても、精神的な部分での、真の価値を求めていこう、と。

ー真の価値とはどういうものでしょうか?

栗田 勝てばすべてがオーケーではないし、負けたらすべてがダメなのかと言えばそうではない。中身の質に目を向けようということです。明治からプロになる人数が増えて明治に対する周囲の評価が上がっていく中で、「実際に明治の試合を見たら大したことなかったな」と言われないように、結果とは関係なく、内側から湧き出るような、大学サッカー界をリードできるようなエネルギーを常に放出しているチームになっていこう、ということ。それは勝ち負け以上に価値があるよね、と話しているんですね。

ー内側から湧き出るエネルギーをつくり出す作業も相当なエネルギーを必要としそうですね。

栗田 シンプルに、全員が本気で向き合うことで可能だと思います。「明治のサッカーを見たら、元気がもらえました」とか「明日からまた頑張れそうな気がします」ということになれば最高ですし、その延長線上に社会を元気にする、人の活力になるプロ・フットボーラーの世界、その役割があるんじゃないか、とみんなには話しています。

ー栗田監督の今後の目標は?

栗田 大学サッカーは、日本独自というか、特殊な場所だと思うんです。でも、存在感のある大きなカテゴリーだと思っていて、それぞれの大学がいろいろな趣向をこらして頑張って活動されているので、ぜひ盛り上げていきたいんです。明治だけではなくてほかの大学の学生も本当にまじめに取り組んでいるので、ぜひ注目していただきたい。そこにかかわる僕たち指導者も、日本のサッカーはどうすれば強くなるのか、そこに優秀な人材を送るためにどういうふうな指導を行えばよいのか、いろいろな指導者の方々とも真剣に話をしています。大学サッカーを盛り上げるという意味で、僕の場合は、人間形成も含めてですが、『明治発 世界へ!』という言葉を使いながら学生に話をしています。次元の高いところから物事をみる力を養ってもらいながら、世界で活躍するような人材育成を続けていくことができればなと、思っています。

ーそれでは次の指導者の方をご紹介ください。

栗田 同じ大学サッカーの指導者である、筑波大蹴球部の小井土正亮監督をご紹介します。Jクラブの分析担当コーチを務めるなど貴重な経験をお持ちの方なので、面白い話をしていだだけると思います。

<プロフィール>
栗田 大輔(くりた・だいすけ)
1970年9月19日生まれ。
静岡県出身。静岡のサッカー名門校・清水東高から明治大政治経済学部に入学、サッカー部に入部。卒業後は清水建設㈱の社員となり営業担当に。2019年秋からスポーツビジネス推進担当部署に異動、スタジアムやアリーナ建設などスポーツを絡めた街づくりに力を注いでいる。2005年横浜市で小学生・中学生を対象としたサッカークラブ・FCパルピターレを設立、現在は同代表。2013年から明治大学サッカー部のコーチに就任。14年に助監督、15年に監督に就任。その年に総理大臣杯、関東大学1部リーグ戦で準優勝。16年には創部95年で総理大臣杯初優勝。同年の関東大学1部リーグで6年ぶり4回目の優勝を果たし2冠達成。19年には総理大臣杯、関東大学1部リーグ、全日本大学選手権で、同大学史上初の3冠を達成した。

text by Toru Shimada

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