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ウズベキスタンに来て2週間が過ぎました。ここまで戦ったAFCチャンピオンズリーグ(ACL)4試合の結果は、1勝3分。直近のチェンライ・ユナイテッドFC戦は引き分けに終わりましたが、ステージ突破の可能性はまだ残されていると考えても、残り2試合はマストで勝利を獲りにいかなければいけないと思っています。ケガ人も増えて、まさに『総力戦』になりますが、それぞれがチームが勝つためのパフォーマンスを心がけることで、相手を上回りたいと思います。
と同時に、ピッチ外での戦いのところでも、もっとチームとしての逞しさを備えなければいけないとも感じています。ここまでの4試合を振り返ってもそうですが、ACLは、純粋にサッカーを「プレーすること」以外の戦いに打ち勝つことが求められる大会です。ピッチコンディション、レフェリング、今大会であればホテルに缶詰の生活、日本とは違う食事、40度超えの暑さ…。そうした状況をいかに受け止めて、試合に向かえるか。『頭』を使いながら、どんなパフォーマンスを示すのか。レフェリング一つとっても、Jリーグとは微妙に笛の基準が違うことを理解した上で、プレーの判断を変えなければいけないこともあるし、試合中のレフェリーとのコミュニケーションの図り方や時間の使い方などでの工夫も必要です。その上で『したたかに、ずるかしこく』戦わなければ、必要以上に苦戦を強いられてしまいます。
その部分は、僕を含めたACL経験者が伝えながら戦っていければと思っていましたが、まだまだ足りていない気もするし、伝え聞くだけではなく選手が実際に試合を体感しなければ得られない経験値もあると思います。そう言う意味では、ここまでの4試合の経験を、この先の戦いでチームとして活かしていけるかどうかも、勝つ確率を上げていくには不可欠だと思っています。
また、第3節のチェンライFC戦は控えに回った中で、コロナ対策の観点からアップをしていない時間は観客席に設けられたベンチから試合を見守りましたが、改めてピッチで感じることと、スタンドから見ることの違いを実感しました。というか、たまに自分が出場した試合を後からDAZNで見返した時などにも思うことですが、ピッチで体感することと、スタンドや中継の映像を通して見返すのとでは感じることが大きく違います。
試合を見返したら「スペースがあったな」「フリーだったのにもう少し落ち着いてプレーすればよかったな」と思うシーンでも、実際にピッチに立っている時には、そうは感じていません。皆さんの中には、テレビで観ていた選手と実際に会って「思っていたより体が大きいな」と感じた経験をした人もいるかと思いますが、それと同じで、僕たちがピッチで感じる相手の強さ、スピードは見ているそれと全然違います。ましてやサッカーでは0コンマ数秒、長くて1秒という短い時間で状況を判断し、プレーを選択していかなければいけません。だからこそサッカーにはミスがつきものなんだと思います。
一方で、そんな風に一瞬の判断が求められるスポーツだからこそ僕は試合中、自分がチャレンジしたミス、リスクを冒したことで起きたミスについては、ミスだと思わず、敢えて「いいチャレンジだった」「またチャレンジしよう!」と考えるようにしています。起きた事実については反省もするし、次のプレーへの教訓にもしますが、ミスにとらわれ過ぎてしまうと、思考もプレーも縮こまり、次のプレーへのチャレンジができなくなくなるからです。
それに…もっと詳しくお話しするなら、サッカーでは見た目的に、ミスに映ったプレーが実はミスではなかったり、逆にいいプレーに見えたプレーがミスだったということも多々あります。
例えば、試合中、前線の選手からDFラインやボランチの選手に「縦にボールをつけてくれ」と要求があったとします。前線の選手は『前から後ろ』を見た景色で、その要求をしてきますが、僕たちはその逆、『後ろから前』の景色を見ています。仮に前線の選手が「今だ!」と思うタイミングだったとしても、後ろから見ると、相手の選手がわざとスペースをあけて前線の選手をフリーにしているなと感じたり、相手DFの目の動きを見てボールを出した瞬間にそのコースを閉めてインターセプトを狙っているんだなと察することもあります。
そうした状況を感じていながら、もし前線からの要求通りに後ろの選手が「パスを通す」ことを考えたらどうなるか? 受け手の選手にボールが渡ったとしても、その瞬間に相手選手に囲まれて何もできない状況に陥ったり、相手の狙いをもった守備に状況をひっくり返されてチームがカウンターにさらされることも出てきます。つまり、一見、パスを通したことがOKのように見えて、実はパスを出したことがミスだったというわけです。
もっとも、サッカーはゴールを奪わなければ勝つことができません。だからこそ、相手のバランスを崩すために危険だと察しながらもパスを送り込むことも不可欠です。第4節・チェンライ戦こそ思うように攻撃の形を作れなかったですが、最近の試合でフィニッシュに持ち込む回数が増えたのは選手それぞれの『リスクを負ってでもチャレンジしよう』というトライから生まれていたと思います。
ただそれも狙いすぎたり、組織ではなく『個人』でのプレーに走ってしまってはチームのバランスは崩れます。出し手と受け手、どちらかの一方的な思いで成立するものでもありません。事実、第4戦・チェンライ戦は先制を許した流れの中で、みんなが足元でボールを受けたがり、動きが減ってしまったというか。第2戦の全北現代戦のように、パスが出なかったら動いて、空いたスペースにまた違う誰かが入ってきて、というような連動が減って、必然的に後ろから縦にボールをつけるスペースも、回数も減り、リズムが見出せなかったという反省も残りました。
それを踏まえても、改めてフィニッシュに繋げるためのリスクを負ったパスや意表をつく縦パス、ロングパスには受け手と出し手の両方の準備が必要で、流れの中のわずか数秒で、それぞれの動きが合致してこそ初めて相手を切り崩せる策になると再認識しました。
もっとも、どれだけ受け手と出し手が準備していたとしても、相手は逆に守備のトライをしてくるので、すべてがうまくいくとは限りません。それでも、そのチャレンジが「ジャブ」になって、次のシーンでゴールに結びつくこともあるし、そうしたせめぎ合いこそがサッカーの面白さ、醍醐味だと考えても、やっぱり、試合中は1つのミスにとらわれすぎずに、チームとしても、個人としても、常に90分を通してチャレンジを続けなければいけないと思っています。
昌子 源Gen Shoji
1992年12月11日生まれ。
兵庫県出身。
11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。