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Vol.20 東海大学付属静岡翔洋高等学校 監督/太田恒治

  • 2020.07.09

    Vol.20 東海大学付属静岡翔洋高等学校 監督/太田恒治

指導者リレーコラム

全国中学校サッカー大会で最多となる7度の全国制覇を成し遂げた歴史を持つ東海大学第一中学校で指導者としてのキャリアをスタートした太田恒治監督。2003年に東海大学付属翔洋中学校、2009年に現在の東海大学付属翔洋高等学校中等部と変遷した歴史を監督として歩み、2018年から東海大学付属静岡翔洋高等学校サッカー部を率いる太田監督の選手育成に対する理念についてお話を伺った。

ーセントラル豊橋FCの内藤靖夫監督にご紹介いただきました。

太田 内藤監督とこれまでリレーコラムに掲載されていた北海道コンサドーレ札幌U-13の青山剛監督やFCV可児の野村次郎監督ともボールを大事にするサッカーに取り組む仲間です。関東の組織的なサッカーや九州の身体の強さとはまた異なる、ボールを大事に持つサッカーというのは関西からスタートしているのではないかと僕は勝手に思っています。ドリブルとショートパスを主体としながら試合を支配していくサッカーで、もちろんドリブルやショートパスが全てではありませんがその要素は中学年代ではかなり大事になります。内藤監督も同じ様に考えていらっしゃいますが、繋がり自体は僕が高校を教えるようになって、現在はセントラル豊橋FCから6名在学していて、サッカーの考え方なども含めて選手を預ける側、預かる側という関係でも絆が深くなっています。こちらを信頼してくれているし指導やサッカーについて賛同してくれているからこそ、選手を高校へ送ってくださると思います。
 
ー太田監督のこれまでの経歴をお聞かせください。

太田 僕は大学を卒業して、出身校である東海大学第一高等学校(現東海大学付属翔洋高等学校)の中等部に教員として入りました。東海大一中の名称で全国では知らない人がいないような強豪で、コーチになった1年目からチームは全国大会で優勝し、そこから3連覇しました。その後26歳で監督として強豪チームを任されたのですが、苦労も絶えませんでした。2003年に東海大翔洋中となり、2012年には8度目の全国優勝まであと一歩というところまでいき、2018年からは今の翔洋高校で監督をしています。
輝かしい歴史のあるチームで選手の保護者や中学校の指導者には昔のイメージを持たれている方もいますが、今は東海一高、東海一中の看板ではなく、東海大翔洋高校、中等部としてそれぞれ新たな歴史を作り上げていっていると選手にもOB会にも言っています。

ーボールを大事にするサッカーのために大切にしていることはありますか?

太田 指導者は自分の眼鏡で選手を見ると思うので、僕が見る部分や大切にしている部分と他の指導者が見ている部分は違ってくると思います。僕もサッカーはパスサッカーが有効だと思っていますが、大事なのはパスサッカーをする一人一人が、ドリブルができずにパスしているのか、ドリブルもできる上でパスを選択肢として使っているかの違いです。例えば相手と1対1になったときにパスコースがないと奪われてしまうのか、ドリブルで剥がして打開できるのか、そういった選択肢の有無の差は大きいです。ドリブルがあるからパスが活きるし、パスがあるからドリブルを活かせるのでどちらも必要です。中学校でボールを持つということをやってきていない選手はボールを保持していることがストレスになり、必要以上に早くパスを出してしまったりします。
僕は自分たちでボールを持って試合を作っていくことを目指しているので、ボール支配率も上がってくることが理想です。ボールを持ちながらリズムを作っていくサッカーで、ボールを持っていて困ってしまうというチームにはなりたくないので、ボールを持てるというのは重要な要素だと思います。

ー中学校の指導と高校の指導の違いはありますか?

太田 高校サッカーは中高年代6年間の1つの区切りだと思っていて、その先に大学やプロというステージもありますが、僕の中ではそこから先にいく力というのはその子の実力であって、僕はある程度高校サッカーでどういう結果を出してあげられるかというところを考えています。
個人的な考えですが、元々子どもたちは成長していく力を持っていて、そのゴールはそれぞれが違っています。植物に例えると、それぞれが色々な種を持っていて、咲く花はそれぞれ違うということです。それなのに育成方法は早くから決めたものがあるというのは、その選手に合う合わないということも含めて違っていると思います。そもそも本人が育つ力を持っているのに必要以上の指導をすることで、咲かずに枯れてしまうこともあります。
強い刺激を与えてチームを強くしている指導者もこれまでたくさん見てきましたが、おそらくそこには多くの犠牲もあった中でチームが作られているのだろうと思います。ですが今は勝てばいいという時代ではなく、多くの選手を育てていかなければいけません。そもそも植物は環境が良ければ放っておいても育つので、その育つ環境をきちんと整えてあげる。指導者は土を整えて、時には自分が水となり太陽となり選手たちに栄養を与え、時に雨や風になりストレスを与えないといけません。選手たちの成長していく力を助けることが自分の役割だと考えているので、爆発的にその選手を育てることはできないかもしれないけれど、その選手たちが自分の力で伸びていき、それぞれの花がグランドに咲けばいいと思っています。上手い選手はより上手い選手を目指せばいいし、違う要素を持っている選手は本人がそうなりたいと思っている色を目指していけばいい。そこで指導者がその子の優れているところを教えてあげることが大切だと思います。
人より優れているものはなかなか作ることができません。意識して鍛えようとしていなくて持っているものというところが、その選手の武器になっていくのだと思います。本人の思い描くプレーヤー像とは違うものかもしれないけれど、その武器というのは自然と出てくるものだと思っているので、それをどこまで伸ばせるか。チーム事情としてどうしてもそういう起用をできない時もありますが、だからこそ指導者は元々の伸びる力を出せる環境を作っていく。そうすれば選手が多くて目が行き届かなくても、それぞれの伸びる力を伸ばそうとしているからそれぞれが自分の力で花を咲かせる。爆発的に彼らを変えることはできないかもしれないけれど、必ず成長して卒業していけると思っています。

ー伸びようとする選手に対して気をつけていることはありますか。

太田 厳しい練習や苦しいトレーニングというのも結果としてはありますが、そういうことをやらないと勝てないとは思っていませんし、練習試合でもベンチから細かく指示を出したりはしていません。それよりも毎日最大限に楽しみながらサッカーをして強くしていきたいと思っています。また生徒の振り返りなどはしっかり確認して、どういう風になりたいのか、どういうサッカーをしたいのかという理想像を明確にしてあげます。ですがそれぞれがどういう選手になっていくかという形、型にははめたくないと思っています。
また、サッカーは相手も味方もいるスポーツなので、本人がイメージしたプレーが成功したとしてそれが果たしてチームにプラスになっているのかということは考えます。例えばドリブルが得意でその位置で頑張って相手を剥がしたとしても、周りの選手は彼が顔をあげないから動けないとなると、結果としてそれが自己満足になっていないかを考えさせます。サッカーはいかに周りの選手との関係を持っていけるかが重要なので、関係性を築けないといけません。
技術的にうまい、速いというわかりやすい部分は自分でも鍛えていくのですが、止める・蹴るが下手な選手でもボールが取られないという選手もいます。僕はそれをサッカーセンスと呼ぶのだと思うのですが、センスがある選手は技術がなくてもボールを奪われません。そういう部分は残念ながら教えてあげられない部分が多いので、選手には周囲との関係を築けないサッカー選手は難しいということは言っています。

ーピッチ外の姿勢がプレーにも繋がると言われるところでしょうか。

太田 当然学校ですし、僕も教員なので、サッカーを通じて人間性を高めていきます。ピッチ外での姿勢がピッチ内でも大切になるということは選手にも伝えていますが、難しいところもあります。例えばここぞという時に点を取る選手は少し悪ガキだったりします。僕の考えですが、悪ガキと言われる子は常に相手や教員とも駆け引きをするので、相手の嫌なことができる。ただし、授業中は相手の嫌なことをするのに、試合ではそれができないというのは最悪で、何一つプラスはありません。
理想は「教室では良い生徒で、試合では嫌な選手」です。僕のイメージとしてはチームの卒業生である元日本代表の鈴木啓太です。僕が指導者になった1年目にいた生徒なのですが、彼は非常に良い生徒で生徒会や学級委員も務めるけれど、クラスでは出しゃばらない。ところがグラウンドに立つと自分の意見をはっきりと言える選手でした。
忘れられないエピソードがあって、チームの紅白戦で彼はフリーの味方がいるのにパスを出さないことがありました。「どうしてフリーの味方にパスを出さなかったのか」と問いかけると「あいつはへたくそだから、パスしたら取られるので」と言ってきて、僕はまだ一年目だったこともあり返す言葉がなかった。言うとしたら「なんだ、その生意気な態度は」となってしまうところですが、でも言っていることは指導者としても考えさせられる言葉です。これが教室であれば「いや、あの子にも遊ばせてあげなさい」と言うと思いますが、勝負となった時に果たしてその選択が間違いなのかと言うと、教育者としてはそれが正解だとは言えないと思いますが、僕はどちらかというと正解だと思っています。ですが相手もいるのでその場でどう言うかは別です。今はやれるやつがやればいいという考えですが、5年後にはまた変わっているかもしれません。これは彼に気づかされた部分で、自分よりも良い感覚を持っている選手はたくさんいるので、それを認められるかどうかは指導者として大切な要素だと思います。それは選手からだけでなく、他の指導者やコーチからも同様です。目上の人や肩書きからしか学べないというのはダメだと思っていて、年齢や指導しているカテゴリーに関わらず、多くの指導者からいろいろなものを学び、自分は去年の自分より良い指導者に、さらに5年後の方がもっと良い指導者になると自信を持って日々成長を心がけています。

ー今の選手と昔の選手とで感じる違いはありますか?

太田 自分が選手時代、先輩にも同期や後輩にもプロで活躍した選手が周りに何人もいました。彼らに共通して思うのは、みんなグランドに入ったら人が変わる。絶対に負けを認めないとか、上下関係を問わずに要求が厳しかったりするのですが、サッカーが終わると普通だし良い奴で、グラウンドに入ったら違うという感じです。グラウンドでの厳しさがあり、やはりサッカーに対する情熱や思いが強いのだと思います。
今の選手は技術に関しては、昔よりも間違いなく高くなっています。自分の高校時代と今の子達と比べて技術的には上手くなかったけれど、サッカーは上手かった気がします。サッカーは例えば相手に当たる時にこうしていれば自分のボールになるとか、動かなくてもこうすれば自分のボールになるという感覚の有無で上手さの違いが出ます。そういう相手との駆け引きや自分の良さを上手く使ってプレーするサッカーの上手さという部分は、今の子達には少ないように思います。

現役時代の写真(前列右から2番目)

ー理想とする100点満点のサッカーはどういったものですか?

太田 僕が満足するということは選手たちが満足しているということで、さらに試合に出ていない選手たちも満足するというのが理想です。選手起用に関しても「なんであいつが出るんだ」という意見がない状態です。試合で負けた時に、出ていた選手は自分の実力で負けるのでいいですが、その試合に出られなかった選手が納得できているかどうかをこれまでも考えてきました。
だから例えば、チームの荷物を持ったり準備や後片付けをするというのは試合に出る選手がやるべきだと思っています。しかし、そこに控えの子たちがやってきて自ら代わるというのが理想のチームです。試合に出る選手が「俺は試合出るからお前らやっとけよ」と言うのではなく、「お前は試合があるんだから俺が全部やるよ」と試合に出られない選手が言える。だけど俺達の苦労もわかっていて欲しいし、試合に出られない選手たちは自分が出られなくて悔しいけど、その思いを押し殺して応援するから、お前は試合に集中しろ、俺が準備も後片付けもするから。と思えるか。そう思える選手は試合に出ても活躍すると思うし、反対に「俺は上手いから出ているんだ」という考えの選手は成長できない可能性が高い。それで試合に出ていない生徒の保護者も自分の息子は出られなかったけれど、このチームで良かったと思えるような場所まで行きたい。でもそれは無理なことで、3年生が卒業する時の最後の言葉を聞いても、試合に出た子は感謝ですが試合に出ていなかった選手はそれぞれの思いがあります。
理想の試合というのはそういうところで、試合に出ていない選手は勝ったら我慢できるけど、負けたら我慢できない。勝っている時は何にも言わないけど、負けたときに不満が爆発するというのは良いことではないと思うので、僕の考える理想のチームというのは負けたときに試合に出ていない3年生が納得できる3年間だったかどうか。そして親御さんが弟も入れようとか、近所の人に紹介しようと思えるかどうかというところです。
ただこれまで指導者としてチームを見てきて、試合に出られなかった選手が納得する終わり方は1度もなかったと思います。選手はやはり自分が出たいと思うものです。全員で11人というチームではない以上は彼らが納得いくチームづくりに答えはないと思います。また、我々はプロではないので、部活動の最後の試合である全国高校サッカー選手権大会が終わったときに子どもたちがどう変わっていくかということがその答えなのではないかと思います。
あとは僕が中学校から高校へ来て、今高校でどういうことをやりたいかと考えた時に、同じ思いや考え方を持った人たちのチームの選手を預かって、各チームの理念や色を持った選手の個人技を組み込みながら選手権に出たいというのが目標ですね。そして一緒にやってきた指導者の人たちが選手権を見に来て、スタンドで肩を並べてうちのチームの選手はどうだこうだなんて話をしながら見ている中で試合ができるというのが、小中学校年代の指導者の方々への恩返しも含めて僕にしかできないことだと思っています。

ー次の指導者を紹介していただけますか?

太田 SPORTING CLUB DE SHINAGAWA代表の大嶽真人監督です。東海一高、順天堂大学の先輩で、現在は日本大学文理学部体育学科でコーチング学の教授として教鞭を執りながら、中学生の指導をなさっています。選手もうちに来てくれていますが、大嶽監督の指導には選手や保護者、指導者からの信頼も大変厚い方ですので、ぜひお話を伺ってみてください。

ーありがとうございました。

<プロフィール>
太田恒治(おおた・こうじ)
1973年6月6日生まれ。
福岡県出身。小学校3年生で野球からサッカーに転向する。小学校6年生で九州大会優勝を経験し、中学校ではナショナルトレセンにも選ばれる。中学3年生時に出場したSBSカップ国際ユースサッカーで静岡サッカーに触れて感銘を受け、静岡への進学を決意し、東海大学第一高校へ進学。在学中に静岡インターハイに出場し、清水東高校との同県決勝の末準優勝を飾る。順天堂大学進学後に教員免許を取得。母校の付属中学である東海大学第一中学校で教員となる。2018年より、東海大学付属静岡翔洋高等学校の監督を務める。

text by Satoshi Yamamura

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