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Vol.21「開幕戦の重み」

  • 2024.02.22

    Vol.21「開幕戦の重み」

絶康調

©VEGALTA SENDAI

いよいよ2024年のリーグ戦が始まる。開幕戦で全てが決まるわけじゃないとはいえ、開幕戦で勝つとどんどん先の戦いが楽になっていくイメージがある。キャンプ中の練習試合で結果が出て、チーム状況が上がってきているのはもちろんすごくいいことだけど、やっぱり練習試合と公式戦はかなり違うと思っている。キャンプの練習試合でうまくいったのに、開幕戦で負けてそこからどんどん沼のようにはまっていくチームがあったり、逆にキャンプは全然うまくいかなくても、シーズンが始まってみたらどんどん勝ってチームもできあがっていくような感じとかも見たりするから、そのきっかけになる開幕戦は大事だね。

2年前の2022年シーズンにベガルタ仙台に移籍してきて、ホームで行われた開幕戦で新潟と対戦した。内容的にはフルボッコにされてのスコアレスドローだった。試合後のミックスゾーンで「勝てなくて残念。開幕戦からうまくいくことはなかなかないけれど、勝ち点1を取れたし良かった部分も結構あった」ってな感じのことを話して、最後に「42試合の内の1試合が終わっただけ」と付け加えたと思う。J2降格から巻き返そう、J1にもう一回いこうっていう感じでキャンプから頑張ってきて、開幕戦でチームの完成度の違いを新潟に見せつけられた。新潟はみんな迷わずプレーしているなってピッチで感じていた。ベガルタのキャンプも悪くなかったんだよ。練習試合でもJ1相手に結構やれていたし、負けたとしても悲観するような内容もなくて手応えはあった。ところがふたを開けてみたら押されっぱなし。みんなの戸惑いは大きかった。そこでオレが「内容はもう完敗です」みたいな感じで悲観的なことを言っちゃったらチーム状況がどんどん下を向いてしまうと思ったから、あそこではあえて強がったというか、ポジティブに話した。経験ある選手がたくさんいるわけじゃないし、ネガティブな言葉を並べないように気を付けた。まあ、勝ち点1を得られたのは結構オレの中では大きかったことだから、そこは本気で言っていたよ。リーグ戦は、上のチームに勝つのも、下のチームから勝ち点を積み上げるのも大事。あの日の時点では確実にベガルタより上のチームだった新潟から勝ち点1を取れてよかったんじゃないかと思う。圧倒されたまま新潟に勝ち点3を与えてしまうのと、踏ん張って勝ち点1を得るのとではその後に違いが出てくる。その頑張りがあったから、2022年の前半戦でなんだかんだ上の方にいられたからね。

オレにとっても印象深い開幕戦だった。ベガルタのユニフォームを着て地元で戦った最初の試合。それだけですごくうれしかった。仙台に来て試合ができている喜びを感じていた。移籍も初めてならJ2で戦うのも初めて。初物づくしだった。スタジアムも違うし、チームも違うし、ユニフォームの色も近くにいる顔も違う。とはいえ、ボールを蹴ってゴールを狙うことには変わりないからね。驚いたのはキャンプから仙台に帰ってきてすぐに開幕戦だったこと。鹿島時代は開幕の1~2週間前にキャンプ地から帰って練習し、水戸とプレシーズンマッチやって本番を迎えるという流れだったから、まあ驚いた。開幕直前に宮崎から仙台に戻ってきて、とんでもなく寒かったという思い出がある。アウェーで町田と戦った去年の開幕戦も、押されながら引き分けた。戦術どうこうっていう感じじゃなかった。相手も別に特別なことをしてきたわけでもなかったと思うんだよね。エリキとデュークがすごかったっていうのももちろんあるけれど、デュークのところに蹴ってセカンドを全部拾われたというイメージだった。ロングボールへの競り合い一つで勝負って結構決まっちゃう。今年の開幕戦では戦術ももちろん大切だけど、球際の競り合いが一番大事になってくると思っている。そこをしっかり戦って、試合をしながらチームも個人も成長していけば目標も見えてくるでしょ。

鹿島では開幕戦で勝った記憶があまりなくて、シーズン序盤は苦しんでいるイメージがある。2010年の開幕戦(浦和戦)で勝ったのは、オレが試合に出始めたころだから覚えている。途中から出てマルキ(元鹿島FWマルキーニョス)にアシストした。でも振り返ってみると、案外負けが多いよね。そういうのもあって、開幕戦の結果に一喜一憂しないというメンタリティーが育ったのかもね。一つ一つの結果で悔しがるのは当たり前。ただ、負けても次の試合は自然とやってくるし、負けを引きずったまま試合をしてもいいプレーはできない。だからしっかり切り替えて、フレッシュな気持ちで次に向かわないといけない。ちょっと表現するのが難しいんだけど、オレたちはみんな、目の前の一つの試合に命を懸けてやっている。そして、勝負事なので全てに結果がついて回る。全部勝てるわけじゃない。優勝したチームだって取りこぼす。負け試合の後のリアクションが大切で、引きずってやるのか、切り替えて次からまたいい雰囲気で練習するのか。もちろん、反省を生かし、負けた理由を突き詰めて改善を図ることも必要だ。いろいろなことがあるから、一つの負けを引きずっていたらオレらはサッカー選手をやってられない。1年間のシーズンが終わったときにどこの順位にいるかが一番大切で、それまでの道のりの勝った負けたにはいろいろなドラマがある。最後の順位と、そのときみんながどういう顔つきでいるのかっていうのが大事だから、いちいち開幕戦ごときで崩れない。まあそう言いつつ、開幕戦で勝ったら「イェーイ!」ってなるけどさ。そこで喜んでばっかりじゃいけないんだよね。開幕戦ってうまくいかないことの方が多いから、次の試合に向けて、本番で出てきた課題に向き合う。大事な試合ではあるけれども、終われば普通に次への準備が始まる。

開幕戦って、始まるまでは特別だ。みんな本番の公式戦に出たいからうずうずしている。もちろんオレも。みんなの前でサッカーできることを心待ちにしている。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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