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Vol.43 湘南ベルマーレU-15 監督/山口貴弘

  • 2022.01.27

    Vol.43 湘南ベルマーレU-15 監督/山口貴弘

指導者リレーコラム

現役時代、最も長い時間を過ごしたクラブで、曺貴裁監督という偉大な存在に出会った山口貴弘さん―。影響を受けた指導者のように情熱と愛を持った指導者になるべく、湘南ベルマーレU-15監督として模索を続ける日々、選手との向き合い方に迫った。

―ツエーゲン金沢U-18監督の辻田真輝様よりご紹介いただきました。お二人の関係を教えてください。

山口 初めて会ったのはサッカーの試合でした。同級生なのですが、高校生の時に彼は石川の星稜高校で、僕が東京の帝京高校。対戦を何度かしていました。卒業後、彼はプロ(大宮アルディージャ)に行って僕は(早稲田)大学に進学したのですが、その進学先で星稜高校のキャプテンと一緒になって、それでつながって一緒に食事に行ったりちょこちょこ会うようになりました。ただ頻繁に会ってるわけでもなかったので、辻田から紹介があったと聞いたときはちょっとびっくりしたくらいです(笑)

―そうだったんですね。辻田さんからは「面白い話が聞けると思います」と紹介されました。さっそくお話をうかがっていきたいのですが、やはり現役時代一番長く在籍された湘南ベルマーレを指導者の“出発点”とすることへこだわりはあったのでしょうか。

山口 シンプルに言ってしまえば、サッカーのスタイルが自分に一番合っていて、指導者としてもそこで「自分の力を最も発揮できる」のではないかと。あとは僕の在籍期間としても6年で一番長かったので、引退してコーチのお話をもらったときも「ぜひお願いします」と、ベルマーレでやらせてもらいたいという思いがありました。

―やはりサッカー選手としてのデビューから在籍6年間、J1昇格なども含めいろんな出来事があったと思いますが、振り返ってどんな思い出がよみがえりますか。今につながっていることは、どんなことがあるでしょうか。

山口 そうですね。2回昇格、1回降格と、本当にいろんなことを経験させてもらいましたね。思い出深いです、やはりベルマーレが一番。初めて2009年に優勝して昇格して、それがベルマーレにとって11年ぶり。その時のことは一番心に残っています。

―当時の湘南ベルマーレを築き上げた一人として、現在京都サンガで監督を務めている曺貴裁さんがいると思います。影響を受けた部分は大きいでしょうか。

山口 曺さんとは、5年近く一緒にやらせてもらって、曺さんを見て僕は「指導者になりたい」と思ったんです。ああいう人になりたいなっていう人で。僕もサッカー選手になりたかったのは、やっぱりJリーガーを見たり、日本代表の選手を見て「かっこいいな」って思ったのがきっかけ。それと同じで、曺さんを見て、「ああなりたいな」と思って。“熱血教師”タイプなんですけど、愛があって、ちゃんと厳しさもあって。僕からするとすごい監督の一言でした。

―曺さんがきっかけだったんですね。先々のことまで現役時代から考える選手ばかりではないと思いますが、逆に曺さんに出会うまで指導者になる具体的なイメージは膨らませていなかった感じですか?

山口 選手の時からC級ライセンスを取ったり、いろんなことをやってみたいなという思いはあったのですが、でも一番強い気持ちになったのは曺さんがいたからですかね。

―実際に指導を始めた時は心境としてどうでしたか?

山口 最初は本当に何の練習をしようかなって、ずーっと考えてもあまりいい内容が思いつかなくて、うわーってなって。なんかそんな感じでぐちゃぐちゃしていました。

―日々頭を悩ませていたのですね。今も悩むことはあると思いますが、頻度としては減りましたか?

山口 自分の中にも引き出しが少しずつ増えてきて、もちろん失敗もあるんですけど、いろんなことにチャレンジして、新たな発見ができればいいと思っているので。

―周囲の方に助言などもよく求めていたりしたのですか。

山口 たくさんまわりにいいコーチがいたので、相談することも多々ありました。あとは練習を見させてもらうのが一番早いので、いろんな練習を見させてもらって、吸収していました。基本的にはベルマーレのトップチームの練習を見にいけるので。トップチームはやっぱり勝つためにやっているけど、共通することもたくさんあるので、かなりいい練習を参考にさせてもらっています。

―これまでにも多くの指導者の方を間近で見られてきたと思いますが、ご自身の中で目指す指導者像はありますか。

山口 やっぱり曺さんの影響が大きくて。熱血教師タイプなので、「情熱があって、愛がある指導者」。練習内容も本当にいろんなことをやっていて、選手だった時も実際すごく楽しかった。そこは目指すべきところだと考えています。

―選手に楽しんでもらう工夫もしているということですね。指導の道に入って4年目になりますが、楽しいと感じたり、やりがいを見いだすのはどんな瞬間ですか。

山口 いろいろ感じますけど、やっぱり選手が「生き生きとプレーして、いいパフォーマンスをしたとき」ですね。見ていて自分も楽しいなと感じます。

―中学年代の指導として、サッカーの技術向上ももちろんですが、人間的な成長のうえでも多感で難しい時期にあると思います。そのあたりの指導についてはどのようなことを心がけていますか。

山口 すごく個人差があって、本当にプロを目指してストイックに頑張っている子は、自分の中学年代を思い出して比べても圧倒的に意欲があって意識も高い。すごいなあと日々感じます。逆にそうではない子もいる。遅刻してしまうことがあったり、連絡がこないとか(笑)。まだまだ子どもだなと思う部分がある選手もいるので、教育はしていかないといけないと感じます。

―意識の差というお話でしたが、集団の中でも一人一人に応じることが求められますよね。

山口 個別対応していかないといけないことは多いです。もちろん、基準は高く持っているのですが、そればかりだとまだ意識が低い子はついてこられなくなってしまう。サッカーが楽しくないとか、気持ちの面でもつらくなってしまうので。一番は個々にあった速度で成長していくことが大事だと思うので。チームとのバランスをうまく取りながらやっていく必要があります。そのあたりの関わりも指導者にとってはすごく重要だと思うので、勉強しながらやっているところです。

―進路指導も大変だとよく指導者の方からお話をうかがいます。高校生であればユースに進むのか、高体連に進むのか。高卒でプロへ行くのか大学経由でプロを目指すのか…。先の高校年代の話をすると、今は大卒選手の活躍もめざましく、大学4年間の価値が高まっている風潮もあると思います。山口さんも早稲田大学に進学しましたが、大学4年間で培ったものはどんなことがありますか。

山口 もちろん自分も辻田のようにスーパー高校生だったら、高卒でプロに行きたかったのですが(笑)。それが無理で大学に行ったわけで、目的はあくまでプロになることでした。大学に行って良かったのは、なにより「いい仲間がたくさんできて、いろんなつながりができた」こと。それが一番の財産だと思います。

―今でもア式蹴球部(早稲田大学サッカー部)のメンバーとは会いますか。

山口 そうですね。毎年オフ期間にみんなで会ったりしています。

―大学時代も昇降格でいろんなカテゴリーでプレーされたと思います。

山口 いろんなリーグでやれたので、レベルの差はすごく感じましたし、上でやるほうがより成長につながることは身に染みて感じました。その試合ごとの強度や精度が全然違うので。それはJリーグでも同じですけど、「より上のカテゴリーでやること」は選手にとって大事なことだと思います。

―その経験ができたことは大きいですね。話は再びベルマーレに戻りますが、現役時代も、そして指導者としても過ごす湘南ベルマーレを一言で表すと、どういうクラブだとお考えですか。

山口 「がんばるクラブ」だと思っています。サッカー自体もハードワークして、大きいクラブではないので、その中でもなんとか今J1で戦っていて。大きいクラブと戦っていく、向かっていくというチームですね。

―アカデミーにも通ずるところがあると感じますか。

山口 やっぱりアカデミーの子たちはトップチームの試合をすごくたくさん見ている。ベルマーレはこうだよね、っていうのは「湘南スタイル」とまわりに言ってもらうことが多いのですが、それが選手たちにも染みついています。そういう意味では一貫してトップチームから育成年代までも同じスタイルでやれていると思います。他のクラブではなかなかない強みだと感じています。

―トップチームはアカデミーの選手にとって目標とすべき存在ですよね。アカデミーの選手がトップチームの選手を見ている姿を、山口さんはどう捉えていますか。

山口 グラウンドもすぐ隣で、けっこう選手が近くを通ったりするので。僕も今の選手は何人か知り合いがいるので、ちょっと呼んで「何か話してよ」とお願いすると、キラキラニコニコしながらアカデミーの選手は話を聞くんですよ。僕の話はそんな顔で聞いてないのに(笑)。でもそういう機会は貴重だと思いますね。

―最近だとトップチームの選手では誰がお話をされたのですか。

山口 岡本拓也かな。今はベルマーレの選手ですけど、僕がV・ファーレン長崎にいた頃のチームメートでもあって。一言話してもらったりしました。何を言ってたかはあまり覚えてないのですが、「育成年代は練習をいっぱいやっていた」とか言ってたかなあ。とにかく子どもたちに向けていいこと言ってくれたなって(笑)

―長崎時代のチームメートとまた違った立場で一緒になるとはビックリですね。

山口 サッカー界は意外と大きくないので(笑)

―選手個人で向き合い方は当然変わると思いますが、山口さんの中で指導するうえで貫いている、変わらないことはありますか。

山口 貫いていることはですね、ないです。言ってしまえば、ぶれてるんです。あったと思ったんですけど、ぶれてるんです。つかめそうになくはないんですけど、つかみきれずに、また新しいことが出てきて考えが塗り替えられたり。まだまだ“新人”だということです。

―ぶれてると仰いますが、ぶれてるなりにも手応えを得る感覚はありますか。

山口 ただ大事なところはぶれてはいけないし、考えないといけないことや新しいことは日々たくさん入ってくる。そのあたりの整理がすごく大事なんだなと感じています。

―今は軸となる部分を探している段階ということですかね。

山口 そうですね、見つけられたらとは思います。

―先々の目標やステップアップは考えたりしますか。

山口 やっぱり先の目標としては「トップチームで監督」をやりたいです。

―湘南で、という気持ちが強いですか。

山口 そうですね。自分の長所を一番生かせるのはベルマーレだと思いますし、ベルマーレでありたい気持ちはすごく強いです。

―クラブとしてはどんな未来図を描いていますか。

山口 小さなクラブなんですけど、今年でJ1に残留して4年。最長期間いて、ようやく地に足がついてきたというか、まだついてないかな、どうだろう(笑)。でも「地に足つけて」、クラブとして少しずつステップアップして、大きくしていこうという段階なので。すぐには難しいですけど、少しずつ少しずつクラブが大きくなるように、僕自身もできることをしっかりやって貢献できたらと思います。トップチームは監督も代わって大変だと思いますが、新しく監督になった山口智さんがまたいいサッカーをしているので、あとは結果ついてくるだけかなと。次の試合も本当に楽しみです。

―トップチームは結果が求められる世界です。アカデミーはひとえに結果だけを重視するわけではないかと。結果と内容のバランスはどのように取っていますか。

山口 すごくそこが難しくて、結果だけを求めても選手は成長しないですし、だからと言って勝負にこだわらせないのも違う。バランスは本当に大事で、ただ学年によって在籍する選手も違うので。「いいサッカーをするだけが育成ではない」と思っているので、勝つために考えていく、人として強くなっていくことも育成。その代によって、選手に合わせて育てていく。そのうえでしっかり勝負にもこだわらせてプレーさせることが大切かなと思っています。

―今のチームでどんなサッカーを目指したい、どんなチームにしたいという考えを教えてください。

山口 基本的にトップチームにつながる選手を育成しているので、サッカーとしてはトップのサッカーをやっていく。今は関東1部リーグにいて、ただなかなか勝てていない。降格しそうなので、なんとか残留すること。この年代は勝負にこだわらせて、残留を目指すことがサッカー選手としても人としての成長にも一番つながると僕は今感じているので。ベルマーレのサッカーをしながら「うまくなる」「勝ちにいく」ことを追求していきたいです。

―ありがとうございました。それでは最後に、次の指導者の方をご紹介ください。

山口 横浜FCのU-13監督兼ジュニアユースコーチの和田拓三さんです。

<プロフィール>
山口貴弘(やまぐち・たかひろ)

1984年5月8日生まれ。
東京都中野区出身。三菱養和SC―帝京高―早稲田大に所属し、卒業後は湘南ベルマーレに入団。2012年までプレーし、V・ファーレンに期限付き移籍を経て15年に大分トリニータ加入。17年に現役を引退後、湘南ベルマーレU-15コーチ就任。19年10月よりU-15監督。

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