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Vol.53 試合の流れを読み、マリーシアを発揮する。

  • 2022.06.07

    Vol.53 試合の流れを読み、マリーシアを発揮する。

発源力

©GAMBA OSAKA

6月1日の天皇杯2回戦の戦いを終えて代表ウィークに突入したため、今回はここ最近の試合を通して改めて大事だなと感じている『試合の流れを読む必要性』や『マリーシア』について僕なりの考えを書いてみようと思います。
サッカーでは思い通りに試合を進められない、とか、プラン通りの戦いができないことが多々あります。だからこそ僕たち選手は、めまぐるしく変わる展開の中で、その都度、やるべきことを、自分が担うべき役割を変化させていかなければいけません。経験を積んだ今なら、状況を見極めて、頭が考えるよりも先に自然と体が動くことも多いですが、キャリアを重ねたからこそ目に入ることが増えたのも事実で、案外、プレー以外のところに気を配ることは20代前半より多くなった気がします。試合の流れに応じて、何がチームにとって得策なのか、それによってどういう変化が必要なのかは常に考えていますし、時にそれがチームの理想とする戦い方ではなくとも、流れを取り返すために意図的に違うボールの動かし方をすることもあります。言うまでもなく、全てはチームが勝つために、です。

J1リーグ13節・柏レイソル戦はわかりやすい事象が多かったので、いくつか例に挙げてみようと思います。この試合の前半は、明らかに相手ペースで試合が進み、自分たちが攻撃を仕掛けられる回数はほぼありませんでした。そうした状況の中、僕自身はまずゴールキーパーの純ちゃん(一森純)とコミュニケーションをとり「展開的に、前半でうちが巻き返すのは難しい。ハーフタイムで仕切り直すためにも、前半は後ろでうまく時間を使って時計の針を進め、ゼロで折り返そう」と話していました。これは柏がブロックを敷いた守備をしていたことと、鋭いショートカウンターが持ち味だったこともあります。守備陣の消耗具合からして、自分たちがボールを持った際に攻め急いでミスが生まれ、逆にショートカウンターにさらされることは避けたいと考えていました。
そこで僕たちは意図的に後ろでボールを回す時間を増やすことにしました。僕たちがボールを持っていても、相手が奪いに出てこなかった状況も踏まえて、です。それによって見た目的には、ビルドアップがうまくいっていない、攻めあぐねていると感じた人も多かったかもしれませんが、そうして時計の針を進め前半をプラン通り0で折り返しました。

もっと細かく言えば、個人的には随所で時計の針を進めるための工夫をしていました。自分たちボールで始まる時に緩んでいた靴紐を結び直して、みんなが一息つける時間を作ることも1つです。時間にしてほんの10秒ほどですが、されど10秒です。また、難しい展開の試合だったからこそレフェリーとコミュニケーションを図ることで試合そのものやチームメイトを落ち着かせる間を作りたいと考えていました。特にヴィッセル神戸戦も然り、柏レイソル戦も前半はキャプテンマークを巻いていたこともあり、いつも以上にレフェリーとコニュニケーションを図っていた気がします。
「今のプレーはなぜファウルですか?ボールとは関係のないところのファウルだったじゃないですか」
例えば、試合中、そんなふうに声を掛けるとレフェリーも判断についての見解を伝えてくれますし、それを受けてさらに僕自身も「じゃあ、同じ状況が僕らのDFラインで起きた時も同じジャッジをしてくださいね」と念押ししてその場を離れることもあります。それが以降のレフェリングに影響するのかはわかりませんが、レフェリーも人間だからこそ、そうしたちょっとしたコミュニケーションで友好関係を築くのも効果的だと思うからです。
それ以外にも、より試合を優位に運び、勝利を引き寄せるために自分が必要だと思う駆け引きや、いわゆる『マリーシア』と呼ばれる行動は細かく行なっています。
柏戦の後半。ダワンが足をつって倒れたシーンがありました。実はあの時僕は、しきりにダワンに「STAND UP!」と伝えていました。彼がキツいのはわかっていましたし、足を攣った痛さもわかります。ですが敢えて彼にはそう伝え、同時にレフェリーには「担架はまだ呼ばないでください、大丈夫。立ちますから」としきりにアピールを続けました。これは、9節・湘南ベルマーレ戦が頭を過ったからです。あの試合も、終盤、ピッチにドクターが入ってきたことでダワンが一旦ピッチの外に出なければいけなくなり、結果10人で戦っていた時間帯に僕たちは失点を喫しました。であればこそ、明らかに相手が攻勢に試合を進めている時間帯に10人になるのは避けたかったというのが僕の考えでした。もっとも、この時は結果的にダワンが立ち上がれず…。担架が入ってきたことで10人になってしまったので、湘南戦を踏まえてすぐさま監督に「ボランチを誰にするか」という指示を仰ぎ、監督から「遥海(南野)をボランチ」という指示をもらって、その状況を失点することなく切り抜けました。
一方、得点シーンのように、レアンドロ(ペレイラ)と上島拓巳選手が接触して倒れ、揃って一旦、ピッチの外に出たシーンでは「清水さん(勇人/レフェリー)、早く始めましょう!」と声をかけていました。ドクターの治療を受けた二人はルール上、インプレーにならなければピッチに戻ることはできません。であるなら、相手の守備のキーマン、上島選手がいないことへの対策を相手が講じてくる前に、できる限り早くセットプレーを進めたかったからです。

こんなふうに、試合中はプレーに直接的に関係のないところでも、いかにピッチ全体の流れが自分たちに優位に傾くのかを意識して行動します。と言っても、ここに紹介したのはほんの一部で、試合中はここでは書ききれないほど数多くの駆け引きを行っていますし、むしろ相手を上回って勝利を引き寄せるには、こうした地味な駆け引きが不可欠だとも思います。ガンバの場合、真っ向勝負の正直な選手が多く、ずる賢く戦える選手が少ない気もしていますが、そうした細かな駆け引きを含めて90分を戦えるチームになっていけば、より自分たちの流れに引き込みやすくなるし、それは勝利に近づく要素にもなる気もします。
皆さんも、時にはボールを追いかけて試合を楽しむばかりではなく、選手ぞれぞれの目立たない、でも大事な駆け引きに目を向けてみるのも、サッカーの新たな面白さを知るきっかけになるかもしれません。

  • 昌子 源Gen Shoji
  • Gen Shoji

    1992年12月11日生まれ。
    兵庫県出身。
    11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
    18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
    14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。

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