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Vol.2 FCナントでの日常

  • 2023.01.03

    Vol.2 FCナントでの日常

太田徹のフランス珍道中

今回はフランスでどんな活動をしているのかを紹介できればと思います。
僕はフランスのリーグアンを戦うFCナントというチームのアシスタントコーチをしています。リーグアンは日本では地味なリーグですし、まずは簡単なクラブの紹介から。ナントは1943年に創設されたクラブで、フランスリーグ8回優勝の古豪です。フランスでは育成の面でも有名で、現フランス代表監督ディディエ・デシャン、元フランス代表マルセロ・デサイー、クロード・マケレレなどがナント出身です。先日終わったワールドカップでフランス代表として活躍したFWのランダル・コロ・ムアニもナントの育成出身で昨年までトップチームでプレーしていました。
スタッフ構成は、監督、ヘッドコーチ、そしてアシスタントコーチの僕、GKコーチ、フィジカルコーチ2人です。僕の基本的な仕事は、ヘッドコーチ・フィジカルコーチと一緒に練習の準備とグランドでの指導、対戦相手の分析、ユースから上がってきたばかりの若手選手の個人分析をしています。これは日本のクラブとあまり変わらないかなと思います。1日のスケジュールとしては、基本的に朝7時15分くらいにクラブハウスへ行って、8時くらいに他のスタッフが来ます。午前中の練習はだいたい10時半からなので、それに向けたミーティングをして練習の準備です。選手と会ってちょっと話をしたり、メディカルスタッフと話をしたりという時間があって、そこはたぶん日本もヨーロッパも変わらないかと思います。練習を終えてからチームでお昼ご飯を食べて12時ぐらいになります。
午後はスタッフミーティングがあり翌日の練習を決めます。それが15時くらいに終わるとフランス人はほぼ帰ります。フランスでは家で仕事をすることが通用するので。ただ、僕はちょっとそれができないので基本的にクラブハウスに20時ぐらいまでいて、それから家に帰るという生活です。何もない普通の生活で申し訳ないです…(笑)。

今の監督とヘッドコーチとフィジカルコーチの3人は、もう10年ほど一緒に働いているのでサッカーに対する考え方、練習内容をはじめ彼らのメソッドややり方は決まっています。なので3人の仕事内容は阿吽の呼吸という言葉がピッタリと当てはまるくらいお互いを理解し合って仕事をしています。そんな組み合わせの3人のなかに、なぜ僕がいるのか。僕はトゥールーズFCのときに昌子源選手の通訳兼トップチームフィジカルコーチを務めたのですが、そこで3人と働く機会があってFCナントにその3人が行くときに声をかけてもらいました。僕が呼ばれた理由としては、監督がもう少し選手との1対1のコミュニケーションなど、マネージメントに時間を割きたいということからでした。だから、「練習とかをヘッドコーチと一緒にやってくれる人を探している」という話でした。
実際に監督と僕がトゥールーズFCで働いたのは2カ月しかありません。それなのに「一緒にやらないか」と連絡をもらいました。監督からは「賭けだ」と言われましたが(笑)。
当時の僕はアシスタントコーチとして何か実績があるわけでもなく、元プロの選手でもない、他に何か特別なものがあるわけでもありませんでした。しかも、監督が元プロの選手経験がない監督や、コーチのことが嫌いなんです。でも、なぜか声を掛けてもらった。監督も言っていましたが、「君の経歴を見たら賭けだけど、まず人としてきちんとプロの選手たちと関係を築けるちゃんとした人間と仕事がしたいんだ」と言っていたんです。僕はフランスに来てから一度もクビになることもなく、4つのクラブで契約を更新できていたという事と、フランスでは監督に呼び出されてダイレクトにダメ出しをされることが多いんですが、それがないということは監督の要求に応えられているんだなという感覚でいます。多分そもそも僕が選手に指導できると監督は思っていないのかもしれないですね(笑)。リーグアンのクラブで今のような仕事をさせてもらえるチャンスなんて滅多にないことなので、本当にありがたいことです!

僕はアシスタントコーチなので、いかに監督が思い描くチーム作りを実現するために仕事をするか、というのが僕の役割の一番のベースにあると思います。監督は常に「サッカーというスポーツは選手のもので、僕らスタッフはあくまでその選手が最高の状態でプレー出来るように日頃からしっかり寄り添って手助けする、ただそれだけだよ。」と言っています。なので、とてもシンプルですが、どうすれば選手が持っているものを発揮できるのか。その環境を作るために何をするべきか。というのがトップチームのスタッフの仕事だと思っています。リーグアンの選手ともなれば、フランスをはじめ、各国のA代表や、各年代の代表、ビッグクラブで名監督のいるチームに所属していた選手など、何か言って聞いてくれるような選手はいないし、みんな自分の考えを持ってプレーしています。
一番大切だなと思うことは、きちんと選手を観察して、何か聞かれたときにはきちんとそれに対してピンポイントで答えられる準備ができていること。その意味では、今の監督、スタッフと同じ考えでやれている感覚があります。
選手とのコミュニケーション、指導においても環境づくりがベースになっています。たとえば、僕はセットプレーの担当を任されています。その際にまず聞くことが、選手個々がピッチのなかで感じていることについてです。どうやったら最高のコンビネーションを出せるのか。だから、選手から「こうしている。」、僕から「もっとこうしたほうがいい!」というよりは、僕から聞いていって、より良い形にどうしたらできるのかという話が多いですね。最近ヨーロッパでは元プロではない、いわゆる理論派の監督が増えてきていますが、理論派なために戦術やその監督の考えを選手に押し付けてしまうことから問題が出ることをよく聞きます。当たり前のことですが、まずは人間関係をしっかり作るというのは僕のような経歴のコーチには本当に重要だなと再確認している毎日です。
ちょっと長くなっちゃいましたが、今回の珍道中はこのあたりで!

  • 太田 徹Toru Ota
  • Toru Ota

    1981年07月11日生まれ。
    東京都出身。
    武南高校から獨協大学へ進学。東京リゾート&スポーツ専門学校アスレティックトレーナー学科を経て、リヨン第一大学フィジカルトレーニング学部に進む。
    2011-2016オリンピックリヨン女子トップチーム フィジカルコーチ、2016-2018パリ・サンジェルマン女子トップチームアシスタントコーチ、2019-2020トゥールーズFC 昌子源通訳兼トップチームフィジカルコーチ、2021から現在は、FCナントトップチームアシスタントコーチを務めている。
    2022フランスカップ優勝や、 2011,2012,2016UEFA女子チャンピオンズリーグ優勝など実績と経験を兼ね揃え、現在も活躍中である。

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