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Vol.36 クリアソン新宿トレーナー/前田智子

  • 2023.03.15

    Vol.36 クリアソン新宿トレーナー/前田智子

PASSION 彼女たちのフィールド

平日の昼間は会社員として企業で働き、平日の夜と土日にトレーナーとして活動する。そんな二足の草鞋を履く前田智子氏は、8年間にわたりクリアソン新宿とともに歩んできた。東京都リーグ、関東リーグ、そしてJFLと階段を登ってきたクラブに寄り添い、自らの知識と経験を糧にして選手をサポートしている。その原動力は、他ならぬクラブへの愛着だ

―まず、現在の活動内容について教えてください。

前田 現在はJFLのクリアソン新宿というチームでトレーナーを務めています。メディカル的な応急処置やマッサージ、テーピング、さらに選手のウォーミングアップやトレーニング、リハビリの補助のようなことを担当しています。

―1日のスケジュールはどんな形ですか?

前田 クリアソン新宿では平日夜の時間帯に練習を行っているので、私自身、平日の日中は一般企業で仕事をしています。その後、夕方から夜の時間帯にトレーナーとしてチームの活動に参加するような形です。

―クリアソン新宿の活動は、週にどのくらい行っているのですか?

前田 今年からは基本的に、土日も含めた週6日、活動しています。

―現在、トレーナーの仕事のどんなところにやりがいを感じていますか?

前田 私がトレーニングを担当した選手や、リハビリを一緒にした選手が活躍して、その本人やチームメート、さらには応援している方々が喜んでいる姿を見たりすると、私もすごくうれしくなります。「やっていてよかったな」って思う瞬間ですね。

―選手の状態が上向いたことを一番近くで実感するポジションでもありますね。

前田 そうですね。ただリハビリをしている選手も含めて、ケガの状態は回復していても、なかなかコンディションが上がらなかったり、その選手自身のフィットネス状態が上向いていかないこともシーズンを通してはあります。そのため、選手自身が課題と思っているところや、センシティブな部分もしっかりとヒアリングをしたうえで、毎日のようにトレーニングメニューを渡して頑張ってもらい、実際に復帰した選手から「そのメニューのおかげで調子が上がった」と言ってもらったりすると、自分の仕事が役に立ったことを実感します。そのように選手から信頼されることがとてもうれしいです。

―選手との信頼関係を築くうえで、大切にしていることはありますか?

前田 選手の様子をしっかり見たり、選手とたくさん会話をするようにしたりすることはいつも心がけています。選手自身のコンディション面については、あまり本人から監督やコーチに相談しにくいところでもあると思うので、そこはトレーナーの私が気にかけるべきところではないかと。選手のプレー中の様子であったり、表情であったりをしっかりと見て、例えば表情がさえない選手がいたらまずは声をかけて、状態やコンディションをなるべく把握するようにしています。

―所属する選手のコンディションを前田さん一人で見るのですか?

前田 常にチームに帯同するのは私一人ですが、週に数日ずつ、他にも2名のトレーナーに交代で来ていただいています。そのため、私を含め3名のトレーナー陣で選手たちを見ています。

―もともとはどのようなきっかけで今の仕事に就いたのですか?

前田 もともと父がサッカー好きで、その影響で私も幼いころからサッカーを見ていました。それから、高校のときにサッカー部のマネージャーを務め、大学に進学するタイミングで、今度はサッカー部の学生トレーナーという立場になり、大学でトレーナーの勉強をしながら、トレーナーとしての活動を始めました。その大学時代に、クリアソン新宿の代表の方とお会いする機会があり、就活の相談もしていたところ、「クリアソン新宿でやってみない?」と声をかけていただき、チームに関わるようになりました。

―もともとサッカーが好きだったとはいえ、この業界に入ろうと思ったことには固い決意を感じます。

前田 私自身は他に一般企業でも仕事をしているので、トレーナーの仕事だけでご飯を食べているわけではありませんので。正直、このサッカーの仕事だけでご飯を食べていくことが難しい世界であることは常々感じています。だから、今は二足の草鞋を履くような生活になっているのですが、トレーナーとしての活動をしているなかで、チームへの愛着だったり、一緒に活動している選手やスタッフとの信頼関係が自分には芽生えているので、私もチームの一員として、きちんと支えたい気持ちが大きいです。そのためにも、一般企業での仕事とトレーナー活動をしっかり両立させたいです。

―生半可な気持ちでは務まらないと思います。

前田 そうですね。正直、大学を卒業するタイミングでトレーナーとして活動していくことを諦めようと思っていたところもありました。もちろん、トレーナーを続けたい気持ちはありましたが、やはりその道でしっかりお金を稼いでいくのは、なかなか難しいことだと思っていましたので。ただ、就職先が決まっていたなかでクリアソン新宿から声をかけていただいたので、チャンスがあるならば続けてみようかなと。クリアソン新宿に加入した当初も、私が二足の草鞋を履くことを皆さんに理解していただいていたので、まずは週末にちょっとだけお手伝いするくらいの気持ちで、チームの活動に参加させてもらいました。

―周りの理解のもと、無理ない範囲で関わり始めることができたのですね。

前田 はい(笑)。すごく覚悟を持って参加したというよりも、週末だけでも、これまでに勉強してきたことを出せればいいかな、くらいの気持ちでした。もちろん、トレーナーの仕事自体は好きだったので。活動を続けていくなかで、やはりチームの皆さんによくしていただき、週末だけではなく、平日も頑張っていこうという気持ちになり、今に至ります。

―最初にクリアソン新宿から声をかけられたときはどのような気持ちでしたか?

前田 そうですね……、うれしさ半分、不安も半分、みたいなところはありました。

―「不安半分」というのは?

前田 大学サッカーで学生トレーナーという立場でやってきましたが、例えば国家資格を持っていたりするわけではなかったので、自分の経験や、そのときに持っているスキルだけで、Jリーグを目指していくチームにしっかりと貢献できるのか、という不安感が大きかったです。

―参加した当初は、どのようなスケジュールだったのですか?

前田 最初は平日も週1回しか練習がありませんでした。あとは土日に練習をしていたので、私の仕事の融通も聞いてもらいやすい状況ではありました。

―二つの仕事を掛け持ち。二足の草鞋を履くことを実際に経験されていかがですか?

前田 そうですね。一般企業の仕事もこなすことで、いい意味で相乗効果になっているところも自分のなかにはあると思います。やはり、サッカーの活動に参加したいから、そのために自分の仕事の成果をしっかり出すことにもつながっているのではないかと。そうすれば、例えば遠征に帯同するためにお休みがほしいときでも了承してもらえるし、私もしっかりと仕事をこなそうと思えます。もちろんうまくいかない日もありますが、日々の生活でメリハリをつけられるところもあるし、時折、仕事で煮詰まったときに、チームの仲間に合うことで自分自身も元気をもらえたりして、「また仕事も頑張ろう」っていう気持ちになります。だから、サッカーのトレーナーと一般企業での仕事を両方こなすことは、自分自身にとってはうまくいっているような気がするし、私も二足の草鞋を履くことに何か価値を見い出しています。

―価値を見出す一方で、きついこともあったのでは?

前田 物理的な話ですが、例えば土曜日に遠征に行って、その日のうちに飛行機などですぐに帰って、また次の日にサブ組の選手のトレーニングマッチに参加したときは、すごく大変だなって思いました。あと、自分自身は他の仕事をしながらトレーナーをやっている立場であって、チームのレベルがどんどん上がっていくにつれて、Jリーグのクラブから加入する選手が増えたりすると、「自分の知識やスキルがこのチームの選手に足りているのだろうか」というような葛藤が常にあり、悩むところもあります。

―クリアソン新宿に加入できたことを振り返り、どのようなことが大事だったと思いますか?

前田 私が大学時代から意識していたことは、選手との信頼関係をしっかり築けるトレーナーになることであり、それが重要なことではないかと今も思っています。やはり、選手は体が資本なので、体に触れたり、体のことで私が判断するには、すごく信頼関係が必要だと思うからです。逆に、選手に信頼してもらえなければ、仕事としてできることもありません。特に私は大学時代、男子サッカー部のトレーナーを務めていたので、そういったことはとても意識していました。選手からしっかり信頼してもらうために、もちろんコミュニケーションの部分も大事ですし、一番は選手からの要求に応えられるようなスキルや技術、知識を身につけることが重要です。しっかり勉強して、その信頼を得ることを積み重ねていくことが、私がクリアソン新宿に加入するうえでは大事なことだったのではないかなと考えています。

―前田さんから見て、クリアソン新宿はどんなチームですか?

前田 選手やスタッフには真面目な人が多い印象です。もちろんライバル関係もあるのでしょうが、例えば隣の選手が困っていたら、みんなが手を差し伸べるような空気感はあります。それは、選手でもスタッフでも変わりません。お互いのことを思いやる気持ちが強い選手やスタッフが多いチームだと思います。

―クリアソン新宿に関わるなかで、JFLまでたどり着く過程も体感してきたと思いますが、どんなときに“支え合う”空気感を感じましたか?

前田 特に、一昨年に関東リーグからJFLに昇格したときが印象的でした。試合のベンチに入れる選手は18人と限られていて、10名以上の選手はベンチ外だったり、試合に関わらないことになりますが、そういうメンバーが例えば水くみだとか、チームの仕事を文句の一言も言うことなくやったり、試合前のアップのときも出られない選手たちが周りですごく声掛けをしてチームを盛り上げたりしてくれています。たとえ自分は試合に出られなかったとしても、チームのために全力を尽くしているときが、私はすごく感動する場面だと思っています。彼らのそういった姿勢は、他のメンバーにとってもすごく励みになるのではないでしょうか。そして、その一昨年にJFL昇格を決めた瞬間は、ピッチの外から試合メンバー外の選手たちが入ってきて、みんなで喜びを分かち合いました。その姿を見て、私はすごく感動したし、そんな場面にチームの一体感が表れていると思います。

―そのときが、これまでにクリアソン新宿で経験したなかで最も素敵な瞬間でしたか?

前田 そうですね。JFLへの昇格が決まった瞬間はすごくうれしかったです。あと、昨年は負けが続いて、すごく苦しかったのですが、そのなかでやっと勝てた試合もとても印象に残っています。昨年は初めての全国リーグに参戦し、みんなで模索しながら戦っていました。負けが続いても、そのなかでみんながそれぞれ、自分に何ができるのかを考えて活動をしました。だから、やっとみんなで勝利をつかめた瞬間は、それまでの努力が実を結んだ感じがしました。

―昨年は全国を渡り歩くJFLの戦いへとステージが変わりました。

前田 シンプルに、めちゃめちゃ大変でした(笑)。昨年はアウェイにも帯同して、前泊をするので、前日の選手のケアを含め、私を含めたトレーナーで対応していました。例えば土曜日に試合があると、金曜に移動をするので、別の仕事のほうでは有給休暇をたくさん使わせていただきましたね(笑)。また、土日にアウェイで試合をして、週明けの月曜からは仕事だったりもするので、大変なことは大変でした。ただ、遠征に一緒についていくことで、例えば移動中の過ごし方や遠征で散歩をしたり、ストレッチしたり、そういうところで私が貢献できることが増えたような感覚はあります。良くも悪くもやることがすごく増えたので、いろんなことを工夫してみたり、試行錯誤できる場面が多くなりました。それら全てがうまくいったわけではないのですが、普段以上にチームの結果や選手のコンディションに影響を与える場面が増えたことには、とてもやりがいを感じていました。

―新たな経験を踏まえて、前田さん自身の変化はありましたか?

前田 自分の気持ち的な変化も含めてなのかもしれませんが、自分一人の力だけでなんとかしようとするのではなく、選手だったり、協力してくださるドクターの方だったり、みんなの力でなんとか良くできないかと考えて、動くようになったと思います。チームが上のカテゴリーで戦うと、どうしても人手は足りなくなり、自分一人では対応できなかったり、対処できないケガが発生したりもするので。だから、他のトレーナーやドクターの方々の知見もいただいたり、サポートしていただいたり、私も独りよがりにならず、なるべく頼らせていただきながら、より良い方法を見つけようと変化しました。

―変化のきっかけはどんなことでしたか?

前田 私自身、もともとは結構自分で抱え込んでしまうタイプだったのですが、やはり昨年、全国リーグは日程的にも移動などもかなりしんどくて、本当に頼らざるを得なくなったことが変わったきっかけです。そのなかで協力をお願いしてみたら、快く引き受けてくださり、結果的にいい方向へ進んでいった実感がありました。それで、いろんな人と協力し合いながらやることの良さに気づけたんです。

―今後、思い描くビジョンはありますか?

前田 正直、私自身がこれからどうしていきたいというビジョンはあまりないんです。それよりも、まずはチームの一員として、チームを目標のためにしっかり貢献できるような働きかけを常にしていきたいと思っています。また、あまり大そうなことはできませんが、私がトレーナーとして働いている姿をいろんな人に見てもらえればと思っています。JFLの試合前に選手たちのアップを任されていて、実は女性のトレーナーやフィジカルコーチはJFLにはあまりいないことを知りました。私自身も大学時代にあまり女性のトレーナーがいないので、直感的に「難しいのかな」って思うことがあったので、私のように働く人がいることもいろんな人に知ってもらえれば、どこかで、誰かに、何か伝えられるものがあるかもしれない。それが伝われば、自分自身もこれまでやってきてよかったなと思えると思うので、これからも自信を持って取り組んでいきたいです。

―最後に、今後の目標を教えてください。

前田 今年、J3に昇格するというチームの目標があるので、その目標に私自身も貢献できるように動いていきたいと思っています。昨年、初めて全国リーグを戦って、トレーナーとして足りない部分もたくさんあったと反省しているので、その課題を整理して、またチームを支えられるように旗を振っていきたいです。

<プロフィール>
前田智子(まえだ・さとこ)

1993年福島県出身。父親の影響で幼少期からサッカーの虜になった。高校時代はサッカー部のマネージャーを務め、早稲田大学スポーツ科学部へ進学すると、ア式蹴球部で学生トレーナーとして活動。当初は、社会人になるのと同時にトレーナーを辞めようと考えていたが、クリアソン新宿からの誘いを受け、チームのトレーナーを引き受ける。会社員として働く傍ら、クリアソン新宿にも帯同し、昨年はJFLで戦うチームを支えた。今年で在籍8年目を迎え、今シーズンはJFLでの2年目に臨むチームとともにさらなる飛躍を目指す。

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