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Vol.7 日ノ本学園高等学校 女子サッカー部監督/田邊友恵

  • 2019.08.19

    Vol.7 日ノ本学園高等学校 女子サッカー部監督/田邊友恵

指導者リレーコラム

今月上旬に行われたインターハイでは、惜しくも決勝で敗れたものの、過去、同大会に9度出場し、6回の優勝を誇る日ノ本学園女子サッカー部。今年で就任8年目を迎えた、元なでしこ選手の田邊友恵監督のサッカー感、指導の工夫、今後の野望とはーー。

(取材日/2019.07.23)

一虎ジュニアU-12の小山元敬監督からご紹介いただきました。

田邊 ありがとうございます。ある講習会でお会いしたときに、小山さんが着ていらっしゃったTシャツの『ドリブル虎の穴』という言葉に惹かれて私から声を掛けたんです。「どうやってドリブルを教えているんですか?」と。そしたらその場で、少し教えてくださって、面白いと感じたので週1回、コーチに来ていただくようになりました。実は、小山さん以外にも、GKを含めた守備のところをバニーズ京都SCでGKディレクター兼コーチをされている阿部知仁さんに教えていただくなど、いろんな方に指導していただきながらチームを作っているんです。本来なら私自身があちこちに出向いて指導の勉強をしたいところですが、保健体育の教員で、担任も受け持っているのでなかなか時間を作れない。なので、いろんな方に指導に来ていただいて選手はもちろん、私自身も学ばせてもらっています。

ー12年10月に日ノ本の監督に就任された時から、そのスタイルで指導をされているのですか?

田邊 いえ、最初は全部、自分で見ていました。でも思うようにいかないことの方が多かったので、私のサッカー感や方向性を理解していただいた上で、専門のコーチに必要なエッセンスを加えていただくことにしました。

ー監督の理想とするサッカースタイルを教えてください。

田邊 実はまだ模索中で…パスサッカーがベースですが、パスだけをしていればいいとも思わないし、蹴るのも大事だしドリブルだってできた方がいいな、と。そんな風に頭の中ではこれも、あれもと思っているのに、それを落とし込み、形にしていく力が足りないから、いろんな方に教えていただいています(笑)。そういう意味では、この連載に登場されてきた指導者の皆さんと肩を並べて取材をお受けしていること自体おこがましいのですが、基本、私は来るものは拒まずのスタイルなのでお引き受けしました (笑)。話を戻しますが、そういう意味ではスタイルこそ未だ模索中ですが、サッカーを一生懸命頑張るだけではなく、自分の長所を活かしながら、相手に対して効果的なプレーを選択できる選手を育てたいとは思っています。

ーアルビレックス新潟レディースで現役を引退された後、どんな経緯で指導者になられたのでしょうか。

田邊 まず、東京女子体育大学を卒業後、アルビに加入するにあたっては仕事をしなければいけなかったんです。そこで、教員免許を持っているという理由からJAPANサッカーカレッジというサッカーの専門学校に勤めることになりました。そしたら08年から同校が女子チームを立ち上げることになったので、選手を集めるためにあちこちの高校を回っていたら、ある高校女子サッカー界の監督に「お前が監督をするなら協力するけど、誰が監督をするのかも決まっていないような学校に生徒を預けられるわけがないだろう!」と怒られて(苦笑)。つい勢いで「じゃあ、私がやります」と言ってしまった。それが07年の6月だったのですが、実はそのシーズンは全試合に出場するくらいめちゃめちゃ調子が良くて。サッカーもすごく楽しくなってきたし、引退したくなかったのですが、最終的には啖呵を切った手前、後に引けなくなってしまい…。迷いに迷って12月に引退を決めて、08年からJAPANサッカーカレッジレディースの監督に就任しました。

和やかな雰囲気で、楽しそうにアップを行う選手たち。

ー09年からはJFAでトレセンのコーチもされていますよね?

田邊 はい。12年までの4年間やっていました。さっきも言った通り、基本的に私は依頼を断らないので「私で大丈夫か?」と思いながら引き受けました。でも、指導者としても駆け出しで、全く指導力もないのにうまくいくはずがなく…今、振り返っても苦しい毎日でした。逆にトレセンコーチをすれば学べることもあるだろうとも考えていたけど、自分のベースがない分、一切身につかなかったというのが正直なところです。唯一、良かったのはトレセンを通していろんな人脈ができたことくらいで…そう思っても指導者としては今が一番、充実しています。

ーその後、日ノ本学園高等学校に赴任された経緯を教えてください。

田邊 最初はJAPANサッカーカレッジレディースに選手を集めるために、営業で日ノ本に足を運びました。当時から日ノ本は強豪校として全国に知られた存在だったので、選手の皆さんに「うちの専門学校に来てください」と声を掛けるために、です。そしたら監督をされていた田渕径二さん(現・ASハルマアルビオン監督)から逆に、私自身が指導者として声をかけていただいて、また私自身もかねてより大学生より下の世代を教えたいと思っていたことから、12年に教員として赴任してサッカー部のコーチになり、同年10月から監督を預かることになりました。

田邊監督自らボールを蹴ることで
「見せる」指導も多い。

ー今日は体幹トレーニングや6:3、シュート練習に始まって、攻撃、中盤、守備での確認、PK練習と、1つずつ丁寧に確認をしながら練習をされていました。いつもですか?

田邊 いや、今日は週末から始まるインターハイに向けた、週の頭の練習だからというのもあります。と言っても、細かなディテールの部分はいろんな外部コーチに指導をお願いしていることもあり、私がチームを見るときは大体こんな感じです。特に今日は、インターハイを前に守備はかなり良くなったという手応えがある一方で、攻撃については、選手がどこか不安を抱えているように見えたので、『崩し方』をより重点的に落とし込みました。ただ、私が細かくいろんなことを確認しながら練習をする背景には、「練習でやったことがないことは、ゲームでできない」という考えもあります。男子選手なら、言われたことを自分で噛み砕いて発展的に考えられるので、ある程度のベースさえ伝えれば、選手の感性や発想に任せて大丈夫だと思いますが、女子は違います。男子のように簡単には体も動かないし、何より練習でやっていないことを「やりなさい」と言っても「いや、それはやっていないからできない…」となってしまう。これはある意味、もっと若い世代のときに、男子選手なら教えられてきたことを、彼女たちが教えてもらってこなかったのもあると思います。だからこそ、普段の練習から事細かく、いろんなことを明確にして、あれもこれも取り組ませています。それを継続することで、彼女たちの将来も変わっていくはずですしね。そう思えばこそ、外部コーチの力もお借りして、単に走る、蹴る、ゴールを決める、だけではない、状況判断や頭を使ってプレーすることの楽しさを学んでもらいたいと思っています。

ー給水タイムなどには監督が働きかけて、意図的に選手同士で話をさせるシーンが見られました。狙いは?

田邊 あれも外部のメンタルトレーニングのコーチに最近、教わったことなんです。指導って一方通行になりがちですが、だからと言って、一度伝えただけで頭に入る選手はまずいない。稀に一回で理解できる選手もいますが、それをうまく外に発信できないことも多く…うちは比較的上下関係がない方ですが、それでも年下の選手は遠慮もするし、わからないことをわからないと言えなかったりもするので。でも、そういう知識のギャップができてしまうと、うまくいくはずのこともいかなくなってしまう。それを解消するために、練習中に敢えて選手同士に会話をさせる時間を設けています。じゃないと、自主的にはなかなか口を開かないですしね。

選手同士で言葉を交わし、
プレーの見直しや考え方をすり合わせる。

ー監督も選手を褒めたり、強い語気で伝えたり、と緩急をつけて指導されているのが目を惹きました。

田邊 そこは私自身が、指導者になったばかりの頃と大きく変わった部分だと思います。最初はもっとピリピリしていたんです。でも、ある時、コーチに来ていただいている阿部さんに「日ノ本の選手って硬いですね」って言われて、自分が選手を萎縮させてしまっていることに気がついた。そこから選手との距離の取り方も少し工夫しました。常日頃から選手には、指導者として自信を持って向き合っているとはいえ、全て自分が正しいとは思っていないし、だからこそ、必要に応じて自分を変化、成長させていくこともすごく大事だな、と。この謙虚さは人に誇れる私の良さ…だと周りの指導者の方にも言っていただいています(笑)。

ーチームのホームページには「絶対的な自信と謙虚な姿勢」「感謝の気持ち」という言葉が記されていました。それはご自身も実践されていることだ、と。

田邊 そうです。それに絶対的な自信を見せないと、選手が不安になってしまう。なので、できること、できないことはしっかり指摘した上で選手には最終的にいつも「大丈夫。それができなくても勝てるよ」と伝えます(笑)。時に、そういう根拠のない自信を見せることで、選手たちの胸にも自信が宿り、結果につながることもあるので。その辺は…先生っぽい考え方ですね。

ー日ノ本学園は全国優勝を何度も経験している強豪校として知られています。指導も含め、ユース世代の女子サッカー界を牽引する自負みたいなものもあるのでしょうか。

田邊 正直、そこまでの気負いはないです。ただ、私が多くの指導者の方から学んでいろんなことを発見していったように、うちの高校を通して、女子の指導者の方が学んだり、成長するきっかけになりたいとは思っています。うちのチームだけではなく、女子のいろんなカテゴリーのクラブに強くなって欲しいとも思っていますしね。なぜなら、それが最初にお話しした女子サッカーの底上げや、なでしこジャパンの強化につながっていくはずだから。それもあって練習内容や戦術について聞かれたら基本的に全部、お答えしています。うちの高校に練習を見に来ていただくのもウェルカムですしね。むしろ、すごく面白いので見てもらった方がいいと思います。私以外の外部コーチの練習を、ですけど(笑)。

ーご自身は指導者としてどんな将来像を描いていますか。

田邊 将来は…なでしこジャパンの監督になります。なぜなら、そこが日本の女子サッカー界における指導者としての頂点だから。そこを目指すと言い切らないと自分が成長しないし、たどり着くのにふさわしい努力もしないと思いますしね。なので「今、なりたい」ということではなく、遠い将来、百万が一、声をかけられた時に「やれます」と胸を張れる毎日を過ごすために、なると言っています。

ー次の指導者をご紹介いただけますか?

田邊 京都のF.C.長岡京の永尾健次さんを紹介します。もともと永尾さんがロアッソ熊本でアカデミーダイレクターをされていた時に、同ジュニアユースに所属していた女子が2名、日ノ本にきてくれることになった縁で出会いました。永尾さんには日ノ本でも月1回、クリニックをやっていただいていますが、サッカーに対する理解が深く、選手にもいろんなエッセンスを入れていただいています。いつも、私が釈然としないことを尋ねると「それはこういうことです」と理路整然と教えてくださる『サッカー教授』みたいな方なので、いろいろ聞いてみてください。

<PROFILE>
田邊友恵(たなべ・ともえ)
1980年生まれ、千葉県出身。
東京女子体育大学卒業後、03年にアルビレックス新潟レディースに加入。チームは北信越リーグから1つずつステージを上げ、07年になでしこリーグ1部に昇格。自身もJAPANサッカーカレッジで働きながら5年間、FWとして活躍し、引退した。08年からはJAPANサッカーカレッジレディースの初代監督に就任。12年に日ノ本学園高等学校に赴任し、同年10月より監督を預かっている。

text by Misa Takamura

Vol.11 東京ヴェルディ/MF小池純輝