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Vol.9 Jリーグピッチリポーター(フリーアナウンサー)/高木聖佳

  • 2019.10.10

    Vol.9 Jリーグピッチリポーター(フリーアナウンサー)/高木聖佳

サッカーのお仕事

「Jリーグのピッチリポーターになりたい」。その一心でキャリアを積み上げてきた。いつの時代も意識してきたのは、サッカー観戦をする視聴者に、プラスアルファの楽しさ、面白さを伝えること。求められる役割は変わっても、そこに自分らしい「色」をエッセンスとして注ぐことを心に留めて。

ー現在のお仕事内容を教えてください。

高木 Jリーグを中心としたサッカー中継のピッチリポーターや、川崎フロンターレの応援番組、FM Salus『ミュージック フロンティア』、東京ヴェルディの公式YouTube番組『VERDY TV』、サッカーに関するイベントや記者会見の司会、トークショーなど、仕事の7〜8割がサッカーに関わる仕事をしています。

川崎フロンターレの応援番組、
FM Salus 「ミュージック フロンティア」は、
毎週水曜日(17~18時)に生放送!
毎回、クラブスタッフや選手がゲストに訪れます!

ーピッチリポーターにはどんなきっかけでなられたのでしょうか。

高木 短大時代のアルバイトの流れでイベントコンパニオンの仕事をしていた時に、ガンバ大阪が試合を盛り上げたり、ファン感謝デーなどのイベントをサポートするマスコットガールを募集しているのを知り、応募しました。いや…正確には、たまたまガンバの試合を観に行った時に、知り合いのイベンターに偶然その話を聞いて「やりたいです」と手を挙げたら、やらせてもらえることになったんです。それが97年で、その仕事をしている時に、試合後のヒーローインタビューを担当していた女性のリポーターの姿を見て「あの仕事がしたい!」と思ったのがこの道に入るきっかけでした。そこから「その方と同じ大阪のフリーアナウンサー事務所に入ればリポーターの仕事にたどり着けるだろう」と思い、事務所に入りました。

ーすぐにリポーターのお仕事にたどり着いたのですか?

高木 いえ、全く(笑)。事務所に入ったはいいものの、一向にJリーグのお仕事を紹介してもらえず…。その間にアナウンサー学校に通って、メディアについての勉強をできたのは良かったものの、このままだとやりたい仕事にたどり着けないと危機感を覚え、当時、Jリーグの中継を担当していたJリーグのメディアプロモーションに自ら電話をかけて「リポーターの仕事をしたいです。大阪でオーディションがあるなら教えて下さい」と売り込みました。そしたら、ちょうど関西でリポーターを増やそうとしていたタイミングだったらしく、その後、担当の方とお会いして話をし「Jリーグのピッチリポーターとしての名刺をお渡しするので、勉強を始めてください」と言われました。そこから関西のJクラブを回り、練習や試合のリポートを始め、取材に行くたびにサポーターの方へのインタビューなどをレコーダーに吹き込んで担当者の方に送っていたら、約10ヶ月後のJリーグ『ヴィッセル神戸対浦和レッズ』戦でチャンスをいただきました。

ーそこからピッチリポーターとして長い時間、キャリアを積み上げていらっしゃいました。その間に、CSの中継局がスカパー!になり、更に17年からはDAZNに変わりましたが、それに伴い、高木さんのお仕事も変化してきたのでしょうか。

高木 ピッチリポーターになった当初は…おそらく01年頃までは、今のように、実況と解説、ピッチリポーターの三人体制ではなく、実況とピッチリポーターの二人で試合をお伝えしていたんです。なので、今の何倍もピッチリポーターに課される仕事が多かったというのが一番の違いでした。しかも、今のようにインターネットも発達していなかったので、チームや選手に関する情報やコメントを集めるのがめちゃめちゃ大変でした。07年以降は、試合に関する情報やコメントをエルゴラッソさんの各チームの担当者の方から資料としていただくようになりましたが、当時は試合前に週に2〜3回は自ら練習に足を運んで情報を得ないと90分間、話がもたないという感じでした。ただ、そうやって足繁く現場に通ったことで、監督やスタッフ、選手の皆さんと顔を合わす機会が増えて、コミュニケーションが深まったり、いろんなことを勉強させていただけたし、それが自分のベースになったところはすごくあります。あとスカパー! が全試合中継を始めるようなって以降についてお話しすると、実況、解説、リポーターの3人が据えられているのは同じですが、スカパー!とDAZNでは、単純に求められている役割が大きく違います。スカパー!時代のコンセプトは『選手の素顔が見える』だったので、選手の素顔が伺い知れる情報を求められていましたが、DAZNのコンセプトは『THIS GAME』です。つまり試合以外の情報ではなく、試合そのものの情報を視聴者の方に届けることに重きを置いているので、ピッチコンディションなど、より試合に関わる情報を数多くお届けするようにしています。またDAZNは試合後のインタビューに力を入れていて、今はその難しさに直面しています。そういった新しいチャレンジは、この仕事の面白さでもあるのですが。

東京ヴェルディの公式YouTube番組『VERDY TV』で李栄直選手にインタビュー中。

ーインタビューの難しさとは?

高木 試合後、勝ったチームの監督や選手は気持ち良く話してくれますが、当然ながら負けたチームの監督はそうもいかず…。心情的には試合直後に話したくないという監督さんもいるはずで、その方にマイクを向けて話を聞き出すのはすごく難しいです。かといって、そこは自分の『色』を出すところなので、どの試合にも当てはまるような「今日の勝敗を分けたところは何ですか?」的な質問より、たとえ厳しくても試合を楽しんでいただいた方が知りたいだろうなと思う質問を投げかけたいですしね。しかも、そうした質問内容は、基本的に試合終了直前に考え始めるので、アディショナルタイムに大きく試合が動いた時などはかなり、テンパっています(笑)。

ー海外のサッカー中継にはピッチリポーターは存在しないと考えれば、ある意味、日本独自のスポーツ文化とも言えます。その役割を担うプレッシャーはありますか?

高木 確かに、DAZNが放映する海外のリーグを見ていても、ピッチリポーターを据えているのはJリーグくらいですからね。そういう意味では確かに日本独自の文化だし、中には「解説の人があれだけ話すのに、なんでピッチリポーターまでいるの?」と思っている方もいるかもしれません。ただ、私自身は、ピッチリポーターにしか伝えられないシーンが必ずあると思うんです。例えば、フリーキックを蹴る瞬間にピッチレベルで吹いている風の強さや暑さ、芝のコンディション、などもその1つです。事実、同じスタジアムでもスタンドとピッチレベルでは風の強さは全然違って、フリーキックやコーナーキックではそれが影響してボールが流れてしまうこともあります。それに対して「蹴った瞬間、風が強く吹きましたね」などとリポートを入れれば、視聴者の方も「ああ、今のキックは風の影響もあったかもしれないな」と想像を膨らませられる。選手交代についての動きや、監督の指示などもそうですしね。そんな風にピッチサイドにいる私にしか見えない景色、知りえない情報を、試合を楽しむ上でのプラスアルファとして伝えるのがピッチリポーターの仕事だと思っているし、その「ピッチリポーターにしか見えない」部分を伝える責任はすごく感じています。サッカーの一番の面白さはスタジアムで観戦することだと思いますが、いろんな理由でテレビでしか観戦できない人も必ずいます。だからこそ、そういった視聴者の皆さんに「今日はスタジアムに行けなかったけど、テレビで観ていたからこの情報を知れたな」とか「スタンドで観ていても気づかなかったはずだからDAZNを観て得をしたな」と思っていただけるリポートをお届けしたいと思っています。

ー先ほど、『自分の色』という言葉がありました。試合中に意識されている『色』があれば教えてください。

高木 DAZNのレギュレーションとして、リポーターが話し始めるタイミングなどの約束事は頭に入れた上で、ゲームの流れを邪魔しないように、短く、端的に、ということは意識しています。またサッカーは展開が早いからこそ「攻撃のスイッチが入ったら話すのをやめる」というのも心がけていることの1つです。ですが、そうなると私が情報を挟み込む際の1回の時間って10秒もない。いや…例えば、DFラインでボールを回しているときに「このタイミングだ」と思って情報を入れようとしても、急に縦のロングボールが入ることもあって、そうなるともっと短い時間しかないときもあります。だからこそ、あくまでも、短くです。あと、視聴者の方にできるだけ多くの情報をお届けできるように、エルゴラッソさんから頂いた情報だけではなく、事前にマネージャーさんや広報さんなど、できるだけ多くのクラブスタッフの皆さんからいろんな情報を集めておくようにしています。その点では長くやらせていただいている分、かつては選手だった人が今では指導者になっていたりもしますからね。チーム内にも人脈がすごく増えて、いろんな情報を得られるようになったのは、私の武器でもあると思っています。ただ一方で、経験値があればこそ、さほど準備をしなくてもやれてしまうところがあるのも事実で…(苦笑)。であればこそフレッシュさを失わないように、定期的に他のリポーターさんの中継を見て勉強するようにしています。

川崎フロンターレの応援番組は選手の素顔や
スタッフのみなさんのキャラクターがうかがえる
楽しい内容が盛りだくさん。

ーJリーグのピッチリポーターになるにはどうすればいいのでしょうか。

高木 いろんな方法があると思いますが、まずはDAZN配信の制作を請け負っている、各中継局の局アナになるのが一番わかりやすいのかな、と。実際、地方局の局アナからピッチリポーターになられた方もいますし、逆にピッチリポーターになるために地方局に入った方もいます。あとは私のようにアナウンサー事務所に入って、そこからオーディションを受けたり…いや、それが定期的に行われているのかは分かりません。ただ、事務所に入って声をかけてもらったという方もいます。当然ながらサッカーの知識はあるに越したことはないですが、私も知識が全くないところから始めたので、それは携わるようになってから学んでも遅くはないはずです。と言っても、アナウンサースキルは間違いなく必要なので、その勉強はしていた方がいいと思います。あとは…勇気ですね(笑)。私もそうでしたが、実際にボ〜っと待っていてもチャンスはこないので、人脈を作り、積極的に「なりたい」という意思を示すのも大事だと思います。

ー今後の目標はありますか。

高木 ずっとやってきた仕事なので、まずはこの仕事を極めたい。「高木さんのリポートは他の人とは少し違うよね」「中継に高木さんがいたら試合を見るのが楽しくなるよね」と言われるような存在になるのが理想です。先ほども話が出ましたが、ピッチリポーターって日本独自の文化なので、仮に実況、解説、ピッチリポーターのうち誰が必要ないかという話になったら、間違いなく今だとピッチリポーターだと言われてしまうと思うんです。実際、私たちが伝えている情報なら、カメラについているディレクターさんでもできるんじゃないか、と言われることもあります(苦笑)。でも、私自身は、その場の雰囲気を上手く言葉に変換して、試合の流れを損なわずに、「これを言ったら試合を観ている人は楽しいだろうな」という情報を届けられるのは、ピッチリポーターしかいないと自負しています。いや…そう思ってやってきたんですけど、実際に「ピッチリポーターが必要か否か」というような議論をされてしまうのは、長くこの仕事をさせてもらいながら、ピッチリポーターとしての価値を認めてもらえる仕事を出来なかった自分の責任でもある。近年はそれを痛感しているだけに、映像で試合を観ている人に、ピッチリポーターがいたからより試合を楽しめた、と思ってもらえる仕事をしたいと強く思っています。それによって、今後、ピッチリポーターという仕事がより多くの人に認められるようになれば嬉しいです。

text by Misa Takamura

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