現役時代も、監督になった今も変わらずに思っているのは『チーム戦術は個の力を活かすためにあり、個の弱点を隠すためにある』ということ。そして『相手のチーム戦術を破るのも、個の力だ』ということだ。
サッカーには勝つための戦術が多数存在する。監督はその中から戦術を選び、もしくは戦術そのものを作り出して、チームに落とし込み勝利を目指す。今回は、自分が何を基準に戦術を選んでいるのか、相手の戦術を破るために何を考えているのかを書いていきたいと思う。
戦術を敷く上で、僕がまず考えるのは『攻撃』だ。チームとして「どうやって」点を獲るのかではなく、「誰が」点を獲るのか。そこから逆算し、チームで点を獲るべき選手は誰か、その選手が一番点を獲れるのはどんな形かを考える。例えば、長身のターゲットになるフォワードがいるのであれば、サイドから数多くのクロスを供給することを考えるし、逆に上背のないスピードタイプのフォワードがいるなら、縦に速い攻撃を仕掛ける回数を増やしたり、サイドから低くて速いボールを数多く供給できる攻撃を考える。その仕掛け方は、選手の持ち味に応じて変えるべきだろう。
次に、どの局面で相手を上回れるか。チームとしてアタッキングサードまでボールを運べたとしても、最後の点を取る部分は、個の力で相手の守備を破らないといけない。だからこそ、チームの中で誰が局面を打開する個の力(ドリブル・パス・スピードなど)を持っているか。それを活かすためにチームとしてどうやって攻撃を組み立てるべきか。そして、相手の守備戦術の弱点や個の力に不安を持っているところはどこかを分析し、そこを突いていくことも必要になってくる。
また、自分のチームの選手の特徴を活かしつつ、苦手な部分を隠すことも必要だ。例えば、スピードのあるドリブラーがいる。タッチライン際に張って相手と1対1の局面を作れば高い確率で突破できるが、相手選手が多く密集しているインサイドエリアでのプレーは苦手で、ボールロストも多いという選手だ。この選手を活かすには、どうするべきか。できるだけ中でプレーをさせず、たとえ逆サイドで試合が進んでいても得意とするエリアに留まらせる。敢えて孤立させることで、ボールが来たときにいい形で仕掛けられる状況になるからだ。と同時に、味方選手のサポートの仕方も考えなければいけない。場面によっては、オーバーラップのような追い越していく動きもしない方がいいだろう。これは一つの例だが、そんな風に、個の力を最大限に活かて弱みを隠すためにチーム戦術はあると僕は考えている。
ただ、そのチーム戦術を選手に落とし込む上で大事にしているのは、必ずしもその通りにやらせることではなく、それをベースにプレーする中で選手それぞれが相手の対応や変化を感じて考え、判断できるチームにすることだ。試合中にピッチで起きている問題を、外にいる監督が全て瞬時に解決するのは難しい。だからこそ、いかに選手たちがピッチの中で状況を見ながらいろんなことを判断し、問題を解決できるかが試合に勝つカギとなる。
今現在、FC TIAMO枚方はチームとしての課題をトレーニングで改善しつつ、選手個々の力を伸ばしていく作業を続けている。チームとして完成形を追求し、そこに近づいてまた課題が生まれ、新たな解決策を練る。日々、これの繰り返しで、サッカーを追求することに終わりはない。それが、サッカーの楽しさであり、難しさでもある。
小川 佳純Yoshizumi Ogawa
1984年8月25日生まれ。
東京都出身。
07年に明治大学より名古屋グランパスに加入。
08年に新監督に就任したドラガン・ストイコビッチにより中盤の右サイドのレギュラーに抜擢され、11得点11アシストを記録。Jリーグベストイレブンと新人王を獲得した。09年には、かつてストイコビッチも背負った背番号『10』を背負い、2010年のリーグ優勝に貢献。17年にはサガン鳥栖に、同年夏にアルビレックス新潟に移籍し、J1通算300試合出場を達成した。
20年1月に現役引退とFC TIAMO枚方の監督就任を発表し、指導者としてのキャリアをスタートさせた。