フランスはシーズンの約4分の3の日程を消化し、現在はインターナショナルウイークということでリーグ戦は1週間の休みに入っています。1月から続いた連戦もあって、ようやく一息入れられるタイミングになりました。リーグ戦再開直後には、伊東選手のランス、南野選手のモナコとホームで対戦します。日本にいた頃には日本代表選手というのは雲の上の存在だったので、今でもテレビで見ていた日本人選手と会うと非常に不思議な感覚になります(笑)。
今回は海外組と呼ばれる日本人選手が、海外からどう見られているのかを書いていきたいと思います。というのも、日本から見た選手の評価とこちらの監督や選手が見た評価というのは大きく異なることが多々あります。
海外でプレーするというのは、サッカー以外の面でも苦労することが多いので、サッカーだけ上手ければ良い、というものでもありません。僕たちスタッフもそうですが、まず言葉が違うので、喋れなければ相手にもしてもらえません。食べるものも異なるのでそれに慣れる必要もあります。なので、グランド外での適応能力は必須かなと思います。
サッカー面でも大きな違いがありますが、とても面白いと思ったのが評価の違い。来週対戦する伊東選手ですが、日本ではスピードが売りという評価だったと聞いていましたが、スタッフと話をしていると技術が高くてライン間でもしっかりでボールを受けられるね、というような評価になっていて、あまりスピードという話にならないことがあります。
以前一緒に働いた昌子選手は、日本でもフィジカルが抜群に強い、という説明を受けていましたが、実際に昌子選手を獲得したトゥールーズの監督は、彼のストロングポイントはビルドアップでも活きる技術の高さとワールドカップのベルギー戦で見せた最後まで諦めないメンタル、と言っていました。
日本でのストロングポイントは、ヨーロッパでは必ずしもではストロングポイントにならず、逆に日本では普通の評価しか受けていなかったポイントでも、こちらではストロングポイントになる可能性があると言うことです。日本・ヨーロッパのどちらが良い悪いと言うことではなく、各国の歴史・文化・サッカーのスタイルから出来上がってきたサッカー観というのが異なるので、こういった評価の違いが生まれてきていると思います。テクニカルスタッフの中に入って海外のクラブで仕事を出来る利点の1つというのは、こう言ったスタッフ目線での日本人選手に対する評価、見方をダイレクトに聞けるということがあります。今は日本人選手に限らず、世界各国に良い選手がいるので、選手の映像を見る際に様々な視点から分析しないといけないと思っています。そういった意味でも、様々な価値観に触れて、コーチとしての幅を広げることは非常に大切なことだな、と思っています。
今までに様々な日本人選手と関わる機会がありましたが、その中でもヨーロッパリーグで対戦したフライブルグの堂安選手は、これからの日本人選手が目指すべきお手本のようなプレーをしていたと思います。日本人選手はテクニック・持久力・アジリティ能力が高いという話はよく聞くと思いますが、それをうまく活かしつつも、外人のような高いプレー強度で行っていたのが堂安選手。特にボールを奪われた後に、長い距離のスプリントからボール奪取し、そのまま攻撃に移っていって緩急のドリブルを見て、ヨーロッパのダイナミックさと日本の繊細さがうまくミックスされたような選手だな、と本当に驚きました!試合後話をさせてもらった時には、非常にポジティブで向上心の塊、というのが言葉の端々から滲み出て、海外でやっていくには必須とも言えるメンタルの強さもありました。
選手は、助っ人として海外クラブに来るので、すぐに良いパフォーマンスを求められますし、時間もない中ですぐに異なる環境に適応しないといけません。これからも本当に頑張ってもらいたいな、と思います!
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太田 徹Toru Ota
1981年07月11日生まれ。
東京都出身。
武南高校から獨協大学へ進学。東京リゾート&スポーツ専門学校アスレティックトレーナー学科を経て、リヨン第一大学フィジカルトレーニング学部に進む。
2011-2016オリンピックリヨン女子トップチーム フィジカルコーチ、2016-2018パリ・サンジェルマン女子トップチームアシスタントコーチ、2019-2020トゥールーズFC 昌子源通訳兼トップチームフィジカルコーチ、2021から現在は、FCナントトップチームアシスタントコーチを務めている。
2022フランスカップ優勝や、 2011,2012,2016UEFA女子チャンピオンズリーグ優勝など実績と経験を兼ね揃え、現在も活躍中である。