COLUMN

REIBOLA TOP > コラム > Vol.10 東京ヴェルディ広報部長/倉林佑弥

Vol.10 東京ヴェルディ広報部長/倉林佑弥

  • 2019.11.11

    Vol.10 東京ヴェルディ広報部長/倉林佑弥

サッカーのお仕事

雑誌社の編集者から、クラブ広報に転身したのは、今から8年前のこと。最初はチームスタッフ、選手との信頼関係を築くところから始まった仕事も、今では天職と言い切れるくらい理想的に進められるようになった。日々、目の前で起きる1つ1つの出来事に、楽しさや喜びを実感しながら「届けたい人に、届けたい情報が届く」体制づくりを心がけている。

ーまずは『広報』としての仕事の中身を教えてください。

倉林 東京ヴェルディ、日テレ・ベレーザの所属スタッフ、選手に関わる現場でのメディア対応に始まって、SNSに掲載する素材の用意やクラブから発信するプレスリリースの作成、管理、また試合開催時のメディア対応や中継対応などが主な仕事です。基本的に女子チームのベレーザにも現場対応の広報がいますし、各部署ともにベースとなる情報はそれぞれの担当者に作ってもらっていますが、クラブとして発信する情報は最終的にすべて僕のところでチェックして、より伝わりやすい内容に整理して発信することにしています。一見、華やかな仕事だと思われがちですが意外と地味な作業も多いです。

ー東京ヴェルディの広報担当はいつからですか?

倉林 12年からなので、今年で8年目です。それ以前は、07年から5年間、株式会社日本スポーツ企画出版社のサッカーダイジェスト編集部で働いていました。編集者としての仕事も充実していたのですが、サッカーとの関わりという部分であと1〜2歩踏み込んで、現場に近いところで仕事をしたいと考え始めていた時期に、ヴェルディが広報を公募しているのを知り、応募しました。といっても、Jクラブでの仕事はすごく人気ですからね。広報募集の際も、書類選考の段階で120人くらいの応募があったらしく、僕自身も狭き門だと覚悟していたので半ばダメもとでしたが、編集時代の人の縁などもあり採用していただきました。

ーJクラブでの仕事なら職種は問わなかったのか。あるいは広報という仕事に惹かれたのでしょうか。

倉林 後者です。実際、『広報』という専門職での採用になりましたが、そうでなければ応募することはなかったと思います。というか、それまで編集をしていた僕がJクラブで仕事をするなら広報くらいしかなかったというか。いきなり営業をやれと言われても戦力になれないと思ったし、事業系なら多少は力になれたかもしれませんが、チケッティングやグッズ販売などは限りなく営業に近い仕事内容だと思っていたので自分のキャリアを活かすなら広報しかないな、と。また根本的にヴェルディというクラブへの魅力もありました。というのも、もともと僕がサッカーに興味を持つようになったのはヴェルディの前身、読売クラブがきっかけだったんです。それもあって、広報募集の告知を見た時には勝手な縁を感じて応募した自分がいました。

永井秀樹監督の囲み取材では、
傍らに立ち内容を書き留めることも。

ーサッカーダイジェスト編集部で働いていた経験が今の仕事に活きているところも多いですか?

倉林 先にお話ししたリリースを作る作業やSNSで何かを発信するにあたっても、編集をしていた経験、文章を書いていた経験はすごく役に立っていますし、何より、サッカー界における人脈というところでも、すごく活きています。もっとも、ダイジェストではあくまで取材をする側の立場だったのに対して、今は取材を受ける側の立場に変わった分、180度視点を変えなければいけないところもありますが、ダイジェスト時代に取材を通して色んな人に出会い、関係性を築き、仕事をさせてもらった経験があったからこそ、サッカー界に根を張ることができたと思っています。

ーメディアとの関係性において気をつけていることを教えてください。

倉林 クラブとしての立場、考え方はあるにせよ、メディアの方にも立場があり、ニーズがある中で、お互いのバランスを考えるというか。自分がメディア側にいた経験からもクラブ側の立場ばかりを主張して制限し過ぎてしまうのは良くないと思っているし、メディアの方たちからの要望に対しても最初から拒否反応を示すのではなく、まずは受け入れようというスタンスでいます。もちろん、これはお互いにルールを守った上で成り立っている信頼関係なので、そこを飛び越えてこられてしまうとストップをかけざるを得ないこともありますが、そのあたりはメディアの皆さんにもご理解いただいけているのかな、と。であればこそ、この表現がふさわしいのかはわかりませんが、いろんな意味でメディアに対する縛りは緩めかもしれません(笑)。

ー逆に現場のスタッフ、選手との関係性で気をつけていることや意識していることはありますか?

倉林 仕事である以上、最低限の線引きは必要ですが、僕自身は『近所のお兄ちゃん』的な存在だと思ってもらえたら嬉しいな、と思って仕事にあたっています。僕らの仕事は時として選手にとっては面倒な仕事をお願いしなければいけないこともあるからこそ、仕事の関係と割り切って接するよりは近い距離にいる方が頼みやすいな、と(笑)。でも、そうした中で想像以上に現場のスタッフや選手とウェットな関係を築けているのはある意味、驚きで…。入社当初はもっとビジネスライクに仕事が進んでいくのかなと思っていたら、関係性が深まるにつれて、色んな局面で自然と涙ぐんでしまうようなことが起き…それは自分でも意外でした(苦笑)。とはいえ最初からそうだったわけではなく、時間が経つにつれてお互いの関係性が深まっていった気がしています。僕の一方的な想いかもしれませんが(笑)。

練習中はグラウンドに立ち、
選手の表情や練習の様子をカメラにおさめる。

ーチームとの心理的な距離を縮める上で何か工夫をされたのでしょうか。

倉林 当たり前のことですが、チームや選手のパーソナリティを早めに掴んで仕事にあたりたいとは考えていたので、入りたての頃は特に積極的にいろんな人とコミュニケーションを図ることを意識していました。今は在籍も長くなり、そこまで意識しなくてもスムーズに仕事を進められることも増えましたが、そうは言っても入れ替わりの激しい世界ですからね。毎シーズン、始動から1〜2週間は新しいスタッフや新加入選手やルーキーを中心に積極的に話しかけています。SNSで発信するものも多いので、僕自身がカメラを選手に向けることも多く、放っておいても自然と距離が近くなるところもありますが(笑)。

ーヴェルディは今年、クラブ創設50周年を迎えられました。J屈指の歴史あるクラブの広報を預かるプレッシャーはありますか?

倉林 それが意外と感じていないんです。社内にはより自由にいろんなことに取り組める空気が漂っていることもあり、僕もある意味、のびのびと仕事をさせてもらっています。これはメインスポンサーが撤退し、市民クラブになって、という変遷の中で、現在の代表取締役社長である羽生英之自身の『誰もやったことのないようなことをやっていこう。サッカー界を変えていこう』というような、エポックメイキングなことを良しとするマインドに牽引されているところもすごくあります。それもあって僕自身もチームをPRしていくことに対して、どんな風に料理しようか、規模の大きな仕事も楽しんで取り組めているのかもしれません。

ー今後、クラブ、チームのPRにおいて取り組んでいきたいと考えていることがあれば教えてください。

倉林 既存のメディアさんに関心を持ってもらえるような取り組みもしていかなければいけないと思っていますが、うちがJ2クラブである以上、また、近隣他県にはFC東京や川崎フロンターレ、横浜F・マリノス、浦和レッズというJ1クラブがある中で、ヴェルディをどんどん取り上げてください! というのは限界があると思うんです。だからこそ、自社発信の幅を広げていきたいということは近年ずっと考えていることの1つです。それもあって、近年は僕が入社した頃は脆弱だったウェブサイトを強化するべく、デジタルの領域に強いスタッフを加えて作り自体を見直したり、SNSのコンテンツを増やすなど、まずは自分たちできちんとした発信ができる体制を整えることに心血を注いできました。それによって、届けたい人のところに、届けたい情報がきちんと届くようにしたいな、と。そんな風にクラブとして情報を届ける対象を明確にしなければ、将来的なファン層の拡大に繋がらないと思うからです。特にヴェルディの場合、40代より上の世代の人たちにはヴェルディという名前が浸透しているはずですが、10代、20代の方たちにはそこから見直さなければいけない。であればこそ、若い世代の人がどんなツールを頻繁に利用しているか、を踏まえてSNSの発信に力を入れているところもあります。

ープロスポーツ界の広報になるにはどんなスキルが必要でしょうか。

倉林 今の時代はスポーツ界にかかわらず、どの業界も読めて、書ける文章力はマストですし、できれば編集もできる方がより理想的です。また『書く』と言ってもただ、正しい情報を載せるだけではなく、状況を判断しながらクラブにとってふさわしい書き方をできる能力、判断力は何よりも大事かな、と。また昨今の時代の流れからも、デジタルの領域に強い人は魅力ですが、正直、デジタルに強いだけでも厳しいなとは思います。例えば、ヴェルディは38節の試合で今年のJ1参入プレーオフ出場の可能性が消滅したのですが、そういったことに直面した時にクラブとして文章を出したほうがいいのか、という判断に始まって、出すとしたらどんな文章がふさわしいのかなど、掲載する文章やタイミングを適切に判断できなければいけない。またチームスタッフや選手、メディアとの関わりが多い仕事だと考えても、コミュニケーション力も大事なスキルだと思います。どんな仕事もそうですが、例えば全く考え方がかみ合わない人がいたとしても、合わないから話さない、放置する、では仕事が成立しません。自分の意見を伝えながらも、相手の考えも聞いて擦り合わさなければいけないこともたくさんあります。その辺りは…仕事をする中で積み上げていくところもあるとはいえ、人と話すのが好き、人の話を聞くのが好き、人の話を聞きながらいろんなアイデアを頭の中で膨らませてアウトプットしていくのが得意、といったポテンシャルがベースにある人材が理想だと思います。

SNSに掲載するために、
広報自ら選手に話を聞くことも。

ー倉林さんは一般公募で広報の職に就かれましたが、Jクラブでは公募が一般的なのでしょうか。

倉林 うちの場合は、僕以外のスタッフも公募で採用されましたが、最近はJクラブの人間が行うスポーツ系の専門学校やセミナーをきっかけにつながりができて広報に就いたという話も聞いたことがあるし、間口はクラブによってまちまちです。実はJクラブはどこも広報の人材をすごく欲している現状がありますが、かと言って、ゼロから広報の仕事を教える余力のあるクラブはあまり多くはないはずです。だからこそ、メディアで経験を積むとか、一般企業の広報の仕事をして強みとなるような武器を身につけるとか、広報としてのスキルを養った上で転職するのも1つの手なのかなという気はします。

ー最後にこのお仕事をしていて嬉しかったこと、悔しかったことがあれば教えてください。

倉林 特別、うわ〜っ! とテンションが上がるような喜びってあまりない気がするんです。もちろん17年にチームがプレーオフに進出した時などはその期間のSNSの反応もすごく良く、一過性だろうなと思いつつ嬉しかったりもしましたが、それが特別、忘れられないくらい嬉しかったのかといえばそうでもない。それよりも、日々やっている仕事のひとつひとつに嬉しさや楽しさがあり、喜怒哀楽に触れる瞬間があるし、それが仕事を頑張る上での原動力にもなっています。ただし、もしかしたらそこまでテンションが上がる喜びがない=お前もっと頑張れよ、ということかもしれないですからね(笑)。この先、これまでのいろんな喜びを超越するような…それはJ1昇格なのかはわかりませんが、共に働くスタッフと共に喜びあえるような瞬間を迎えられたら嬉しいなと思っています。

text by Misa Takamura

  • アカウント登録

  • 新規会員登録の際は「プライバシーポリシー」を必ずお読みいただき、ご同意の上本登録へお進みください。

FCティアモ枚方×大阪信愛学院大学
「サッカーを通した人間教育」への挑戦