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FIFAワールドカップ・カタール大会が始まって約1週間が過ぎました。みなさん、楽しんでいますか?僕自身、観る立場でこの大会を迎えていることに心のどこかで複雑な思いもありますが、こうなった以上は1サッカーファンとして各国のサッカーを楽しみつつ、日本代表を全力で応援しています。
先日はなんと『スペイン対ドイツ』戦のゲスト解説の依頼をいただき、ABEMAに出演してきました。僕にとっては初めての経験で、スタジオで見取り図さんや乾貴士くん(清水エスパルス)とともに試合を観戦し、ハーフタイムや試合後に話をするという感じでしたが、試合をみんなでワイワイ言いながら観れたのも楽しかったし、ロシア大会の話などを振られていろんなことを思い出す時間にもなりました。
というわけで、今回の発源力は、その解説帰りの新幹線の車中で書いています。本来なら『日本対スペイン』戦の結果を待って書ければよかったのですが、ここから少し旅行に出掛けるなど本格的なオフに突入するため(笑)、今回はグループステージを2試合戦い終えた日本代表についての僕なりの感想と、スペイン戦の展望を少し伝えられたらと思います。
まず、ドイツ戦!日本にとっては素晴らしい入りになりました。『初戦』ということもあってドイツも勝ちにきていた中で、正直、前半は相手に圧倒されてどうなることかと思いましたが(笑)、あの展開でもPKで奪われた1失点に留められたのは大きかったし、結果論ですが、あの内容だったからこそ後半、ドイツに油断を生んだ気もしています。それは、後半、日本が選手とシステムを変更したにも関わらず、ドイツは特に対応するでもなく試合を進めたことからも明らかというか。前半の展開を踏まえて、余裕をかましていたんだと思いますが、結果的にそれがいろんな綻びにつながっていました。
現に2点目の拓磨(浅野/VfLボーフム)のゴールシーンも、拓磨はボールを受ける前、相手の2センターバックより前のオフサイドポジションにいましたが、右サイドバックのラインが揃っていなかったことでオフサイドにならずに前線に抜け出すことができました。加えて、相手DFの対応を見ても「こいつはオフサイドになるだろう」「仮にオフサイドにならなくても追いつけるだろう」くらいの心持ちでいた気もします。そこを確実に突いた拓磨のスピードとシュート精度は素晴らしかったし、そうした隙をしっかりと味方につけることができたからこその勝利だったと思います。
2戦目のコスタリカ戦は、明らかに相手が日本をリスペクトした戦い方を敷いてきたため、コスタリカがベタ引きし、日本がボールを持って攻めるという展開になりました。おそらくこのグループ分けが決まった時から、コスタリカも最悪、初戦に負けても2戦目で勝てば、という計画を立てていたはずで…それはある意味、日本も同じでしたが、コスタリカは初戦のスペイン戦に敗れたことで、より徹底して勝ちを掴むための戦い方を敷いてきました。実際、ブロックも固かったし、カウンターに出ていくスピードも、ポジションのスライドもすごく速かった。拓磨や綺世(上田/サークル・ブルッヘ)ら、1トップに楔のボールが入った時にも徹底してプレッシャーにいくなど、ある意味、コスタリカとしては準備していた通りのパーフェクトな戦い方だったんじゃないかと思います。
だからこそ、そうしたコスタリカの守備をこじ開けるのは簡単ではなく、日本は苦戦を強いられました。加えて、あの試合内容だったからこそ、失点につながった麻也くん(吉田/シャルケ04)のパスミスも起きたんじゃないかと感じました。
というのも、仮にあの試合が、ドイツ戦のように相手にめちゃめちゃボールを持たれて、終始攻められているような展開だったなら、麻也くんはあのシーンで味方に繋ごうとはせず、遠いところにクリアしていただろうと思ったからです。ですが、この試合は、さっきも言ったように、ずっと日本がボールを持って攻勢に試合を進めているという流れがありました。また82分という時間を考えても、残りの時間帯で相手のカウンターに晒される可能性はせいぜい1〜2回だろうと予測できました。だからこそ、大きくクリアをしてまた相手ボールになるくらいならしっかり繋いで、もう一度僕らの攻撃にしたいという思考が働いたんじゃないかと思います。というか、同じセンターバックを預かる身として、僕があの場にいても同じ選択をした気がします。そういう意味では…残念ながら結果的に失点に繋がってしまいましたが、非常に理解できるプレーでした。
結果、日本は2試合を戦い終えて、1勝1敗で強敵、スペイン戦に臨むことになりました。僕がゲスト解説をさせてもらった『スペイン対ドイツ』戦を見る限り、またグループ首位でこの試合を迎えるスペインは仮に引き分けでもグループステージ突破ができるという状況や、逆に日本は引き分けでも厳しいかもしれないという状況を考えると、間違いなく難しい試合になるはずです。引き分けOKのスペインは無理をして攻めてくることはないはずだし、どうしても勝ちたい日本がスタートから前線からプレッシャーをかけたとしても彼らの技術を持ってすればワンタッチ、ツータッチで簡単に剥がされる気もします。逆に、日本がしっかり守備ブロックを敷いた戦い方を選択しても、スペインは慌てて攻める必要がないので、ゆっくりボールを回して焦らしてくる可能性もあります。しかも『スペイン対ドイツ』戦でアルバロ・モラタ(アトレティコ・マドリード)が決めた得点シーンを見ての通り、スペインは繋いで崩すばかりではなく、カウンター的にゴールを奪うこともできます。つまり、どういう戦い方を敷いたとしても、スペインが心理的余裕を味方にしながら、それに応じて戦い方を変化させてくる可能性はあり、それは日本にとってより戦いを難しくすることを意味します。
それでも、前半は無失点か、ドイツ戦のように最低でも1失点に食い止めることができたら…後半、スペインの『引き分けでもOK』という余裕がもたらすペースダウンを突いて、ドイツ戦のような展開に持ち込むことはきっと可能です!現時点で、日本がどういう先発メンバーで臨むかはわかりませんが、ドイツ戦のように後半メンバーを変えながら反撃に出るという流れはより効果を発揮しそうな気もします。…って僕が力説するまでもなく、選手はおそらく誰もが試合の難しさも、好機を見出すポイントも理解しているはずなので、きっと彼らはドイツ戦のように、スペインを上回る姿を見せてくれると信じています。
余談ですが、僕の今大会の優勝チーム予想は…日本と言いたいところですが、現実的にいろんなことを考えて、ブラジル!さあ、どうなるか?!
昌子 源Gen Shoji
1992年12月11日生まれ。
兵庫県出身。
11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。