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Vol.12「悩めるストライカー」

  • 2023.09.28

    Vol.12「悩めるストライカー」

絶康調

©VEGALTA SENDAI

今回はリハビリ仲間のマサト(ベガルタ仙台FW中山仁斗)について話そうと思う。今季わずか2得点の悩めるナチュラルボーンストライカー、それがマサト。マサトは練習で膝を怪我して、ちょっと前までは松葉杖をついていた。ようやく最近ウオーキングを始めた段階で、「まだ痛いな」って言いながら歩いている。

マサトはゴールに対してすごく貪欲で、得点できないとチームが勝とうが負けようが普通にへこむ。チームのことを考えていないわけじゃなくて、単に点を取らないと落ち着かないんだろうね。マサトが点を取れなかったから勝てなかったとかの責任はなくても、求められていることと自分が本来やっていることのバランスをうまくとれなかったように見える。去年は何も考えなくていいからゴール決めてくれっていう感じでとても頼りがいがあった。マサトは中盤の選手から見れば、すごくボールを預けやすい。なんとなくここに蹴ればマサトが収めてくれるという感覚。くさびを入れやすいんだよ。ここで言う前線で収めるというのは、ドカンとロングボールを蹴るからキープしろとか、フォローなしでキープしろっていう過酷なやつとは別の話だよ。中盤が意図を持って送ったパスをちゃんとキープしてくれる。下りてきてもらうのではなく、がつっと相手を押さえて収めてくれるから頼もしい。それを支える体幹が本当にすごい。もうナチュラルに体が強くて当たったら痛い。それも一つの才能だよね。いつも筋トレよりもストレッチを入念にやっているけどね。

試合中のマサトは怖いイメージがあると思う。実際は真逆。天然で構ってちゃん要素も兼ね備える愛されキャラ。後輩からもいじられても絶対怒らないし、面倒見もいい。あんなにこわもてなのにね。リハビリを一緒にやっていて、トレーナーの方の「これ○回やって」という指示も最後まで聞かないから毎回指示された回数以上にやっちゃう。「さっき言ったよね」というやりとりがお約束。「赤ちゃんが寝なくて大変」と相談されて「車に乗せてドライブすると泣き止んだりするよ」とアドバイスしたら、後半を聞いてなくて「車に乗せるだけっすか。車に乗せれば泣き止むんですか」って真顔で返してきた。「ドライブしろ」って言っているのに。練習後はゴルフのことばかり考えている。よくゴルフのYoutubeを見ているし、ゴルフクラブについて梁さんと話し込んでいる姿をよく見る。「このシャフトが」とか、すごく真剣な顔で話しているから面白い。普段抜けているところがあっても、サッカーの戦術理解に関しては心配ない。サッカーのことになると人が変わったようになる。スイッチ入って自分なりに動いて点を取っているんだろうね。どうしたいかを自分の言葉で伝えられる。周りに合わせて「ハイハイ」言いながら聞いてるだけじゃなくて、「ここはこういうパスがほしい」とか「こうなったら自分は勝負にいきたい」ってみんなに伝えている。要求がしっかりしていて頼もしいよ。要求するし、そこで結果も出すし。

そんなマサトが今年は点を取れなくて苦しんでいる。マサトは点を取れないと死んじゃう病だからなおさら大変だ。流れの中でなかなか取れなくて、課されたタスクをたくさんこなしながらもがいていた。ゴールに背を向けるとかサイドに流れるとか、ゴールから離れたところでボールをもらうようになってしまっていた。そうすると、点を取らなきゃいけないとき、中にFWがいなくなるという状況に陥った。あの頃マサトは起点になってチームの押し上げをフォローしていた。そうやって頑張っているときはご褒美で得点できることが多々ある。そろそろ来るかなと思いながら見ていたんだけどね。監督の要求に応えようとしているのもすごく伝わってきたし。悩んで悪いプレーになったりもしていたけれど、それでも足を止めることなく練習からちゃんとやっていたところでの怪我だったから、その悔しさは計り知れない。

マサトにどんなゴールが一番いいのか聞いたことがある。「マジでどんなゴールでもいいっす」と即答だった。若い頃は形にもこだわっていたらしいが、今は決めることしか考えていないそうだ。FWらしいね。オレら中盤はゲームをつくらないととか、ゴール前でのアシストも考えちゃう。マサトはゴールすることだけを追い求める。それがうらやましくもある。だから毎年2桁得点していたのだろう。体はムキムキだけど身長が高いわけではない。足もともめちゃくちゃうまいわけでもない。分かりやすくすごい動きだしをしているわけでもない。でも、ゴールを決めるんだよね。その嗅覚はマサトにしかない最大の武器だ。

これぞストライカーだと思ったのは去年の第4節岩手戦(4月12日、ユアスタ仙台)。左サイドからマサトにくさびのボールが入ってオレは落としをもらってシュートを打とうと右から入っていったら、マサトは完全にフリーだったオレじゃなく自分でゴリゴリ運んでゴールを決めた。そのときに「やっぱりこいつはすごいな」と思った。自分よりいい状況の人ではなく、自分で運んでゴールを決める感覚はオレには無い。オレの感覚値としては「フリーで走り込んでいるから渡すほうが決まる」なんだよね。それを見てこれがFWのプレーだよなと思った。決めるという自信と覚悟を持って狙ってほしい。外したら「お前(オレに)出せよ」って文句は言うよ。ゴール前なんてみんなゴールを決めたい。そこでエゴをむき出しにして決めるところが、やっぱりFWだな、すごいなって。

マサトのことは彼の水戸時代から知っていた。鹿島と水戸はプレシーズンマッチや練習試合をよくやっていて、結構苦しめられていた。嫌な選手だと思っていたら、ベガルタで一緒になった。オレも人見知りだから最初は話すこともなかった。でも、遠慮なくいろいろな要求をしてくるから必然的に会話が増え、感覚を合わせているうちにどんどん仲良くなった。だからマサトが苦しんでいるのを見るのはつらい。能力があるのはみんな知っている。ゴール前での怖さ、ゴールを取る能力は言わずもがな。だけどなんかうまくいかなかった状況をみんな見ているから、早く復帰してゴールを決めてほしいと願っている。でも、「お先に」ってマサトを置いて戦線復帰して、ピッチで「お帰り」って出迎えたいかな。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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