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Vol.17「沖縄自主トレ」

  • 2023.12.21

    Vol.17「沖縄自主トレ」

絶康調

沖縄での合同自主トレが始まった18日に、梁さん(ベガルタ仙台MF梁勇基)の引退が発表された。今月に入って梁さん自身から聞いていたので、ついにこのときが来たかという感じ。1年前のシーズンオフも、梁さんは進退について悩んでいた。オレは移籍してきて1年目で、まだ深いところで話せていなかった。そのとき、2人で飲みながらシーズンを振り返っていたら、時間があっという間に過ぎてしまった。感覚が似ているところがあるなと思い、「もっと早くいっぱい話したかった。もう一度やりましょう」とゴリ押ししたのを覚えている。一緒に戦えたのは楽しかったし、尊敬する満男さん(元鹿島アントラーズMF小笠原満男)たちと似ている感覚があった。見えないところでチームを勝たせる人。一緒にやっている人にしか分からない部分かもしれない。練習から普通に動いていたし、あまり出しゃばらずに若手を見守っていた。困ったときにぽろっと言う言葉はすごくチームのためになっていた。全盛期の梁さんとまだまだ若いおれがバチバチにポジション争いしてみたかった。きっと楽しかっただろうな。一番の思い出は去年のアウェー山形戦でオレがFKを決めたとき。オレにとって初めての東北ダービーだった。2人ともスタメンで出ていて、うまく話し合いながら試合をコントロールできていたと思う。2失点しちゃったけどいい勝ち方だった。そのとき初めて試合後に抱き合って喜んだイメージがある。梁さんも蹴りたかったであろうFKをもらっちゃって、決めないといけないと強く思っていた。オレは自分のタイミングしか考えていなかったからなんとも思わなかったけど、先に梁さんがまたいで、しばらく時間を空けて蹴っちゃったもんだから、梁さんは気まずかったらしい。ごめん。

梁さんにはJ1で2位だった2012年の話をよく聞いていた。おのおのが勝つために必要だと思っていたことをやっていたと聞いて、鹿島にいたころと似ているなと思った。そして、勝つときって案外戦術のことを考えていないものだというところで意見が合った。ピッチの中の人で流れを読めていて、前に出たいとき、引いて守るとか我慢するときが一致していれば強いんだよね。その後もサッカー観がとても近くて、すごく話し込むようになっていた。だから引退はすごく悲しいし、さみしい。フィールドプレーヤーで最年長になっちゃうと、オレが愚痴を言える人がいなくなってしまうしね。ベガルタは生え抜きで梁さんを脅かす存在がなかなか出てこなかった。あの人を超える人を輩出できるようにならないといけない。引退後はどんな形でもいいから仙台に絡んでほしい。ベガルタ仙台がみんなから認知されるようになったのも梁さんの力があったからだと思うし。ベガルタだけじゃない。仙台、宮城の子どもたちのために何かしてくれたらいいなと話していた。宮城のサッカー全体に絡んでほしい。第2の梁さんが出てくるきっかけを増やすためにも、多くの子どもたちとふれ合ってほしい。これからもよろしくお願いします。子どもたちのために何か一緒にやりましょう!

そして今は、沖縄で合同自主トレの真っ最中。1週間の日程で、いろいろなチームから20人ぐらいのJリーガーが集まって汗を流している。筋肉や体幹を鍛えることがメインで、地味なメニューが多い。ボールを使うメニューはスパイクを履かないでやるミニゲームぐらい。あえて滑りやすいランニングシューズを使って体のバランス感覚を磨いている。1回あたり2時間の練習で、2部もある。1人でトレーニングするより環境は良くなるし、モチベーションも上がる。何よりも楽しい。

自主トレするようになったのは10年ぐらい前に、大樹さん(元鹿島DF岩政大樹)から声を掛けてもらったのがきっかけ。面倒見てもらっていた先輩の誘いになんとなくついて行った。オレはまだ若造で「筋トレなんかそんなにやんなくていいっしょ」と生意気なことを言うほど、重要性にぴんときていなくて、気付くまでに1~2年掛かった。「1年間でプレーの波ってあって、その波を減らすことはできるんだよ」っていうのは教わり続けているトレーナーさんの受け売りだけど、そういう言葉を意識してトレーニングに取り組み続けていると効果は大きい。平常なコンディションが分かると、自分自身の体について敏感になる。ここまでできればいつも通り戦えるとか、「あれ?今日はおかしいぞ」とか。そもそもの基準も上がっていくしね。オレの好不調のバロメーターになっているのは、しっかり滑らず止まれるかと、トラップしてボールがきちんと足もとに収まるかの二つかな。

合同自主トレにはベガルタ仙台の若手も参加している。自分の経験を押しつけないように気を付けながら、若いうちから体と向き合うことの大切さは説いている。若手にとっては一緒に練習する中で他のチームの選手からアドバイスをもらえることが大きい。自分ができなくて相手ができることがあれば聞けばいいし、交流の幅も広がるし。自分のチームだけを見ていると視野が狭くなる。自分よりもっとできる人がたくさんいることを体感するのは大切だと思う。勉強にもなるし、刺激にもなる。

去年の自主トレのメインテーマは「真瀬(ベガルタ仙台DF真瀬拓海)のクロスをどうにかしよう」だった。真瀬は普段から練習量がものすごく多く、ずっと頑張っていた。いつも練習後にクロスを上げる練習をしていて「うまくいかない」と悩んでいたから、オレが頼んでいるトレーナーさんと1回一緒にやってみようと声を掛けた。クロスのうまいリクト(鹿島アントラーズDF広瀬陸斗)から学び、トレーナーさんに体の使い方の助言を受けたりして、精度向上に取り組んでいた。そういう練習は1人では絶対できないじゃん。そういえば、卵を持って割らないようにクロスを上げるという練習もあったな。

今年のテーマは「オレ」。自分自身にフォーカスしないといけないなと思っている。今年は8月に手術していて、復帰してまだ100%とは言い切れない。足の感触はいいんだけど、かかと付近にまだ硬さはある。痛くならないようにと半年ぐらい変な歩き方、変な足の着き方も癖づいてしまっているので、徐々に矯正してほぐしていく必要がある。いろいろと現状を確認しながら1年間戦える怪我しない体づくりをしないといけないので、そのためにはすごく地味な練習をたくさんやらなきゃいけないと思っている。地味な練習って1人だと本当に集中力を保ちづらいけど、頑張りたい。短い時間でぎゅっと負荷をかけたあと年末年始を休養に充て、また体をつくって新年の始動日に備えるサイクル。オレとしては、12月からシーズンインしている感覚だ。もう戦いは始まっている。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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