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Vol.10 台湾女子代表ゴールキーパーコーチ/大友麻衣子

  • 2021.03.17

    Vol.10 台湾女子代表ゴールキーパーコーチ/大友麻衣子

PASSION 彼女たちのフィールド

女子サッカーの日本代表チームであるなでしこジャパンのアジアでのライバルとして北朝鮮や韓国が挙げられるが、もう1つ注目すべき国が台湾(チャイニーズ・タイペイ)である。FIFAランキング40位(2020年12月18日現在)のチームがなぜ注目に値するかというと、監督とゴールキーパーコーチを日本人が務めチームを率いているからである。
今回は台湾女子代表チームでゴールキーパーコーチを務める大友麻衣子氏に、台湾での指導やサッカー事情についてお話を伺った。

ーはじめに、大友さんの経歴についてお聞かせいただけますか?

大友 サッカーを始めたのは中学生の時でした。本当は小学生の時からサッカーをやりたかったのですが、近くに女子が入れるサッカーチームが無く、代わりに女子も受け入れてくれた野球チームに入って男子と一緒に野球をしていました。中学生になって念願のサッカーを始めて、日本体育大学を経てアルビレックス新潟レディースに入団し5年プレーしました。本格的にゴールキーパーに転向したのは、大学生の時でした。引退後は埼玉県にある尚美学園大学女子サッカー部でゴールキーパーコーチをさせていただき、2019年から現在の台湾女子ナショナルチームのゴールキーパーコーチを務めています。
台湾に行くことになった経緯としては、日本サッカー協会にいらっしゃる元なでしこジャパンのゴールキーパーコーチでお世話になった方からご連絡をいただいて、「台湾でゴールキーパーコーチを探しているみたいなんだけどやってみない?」と声をかけていただいたことがきっかけです。それまで所属していた尚美学園大学女子サッカー部を退任し、いろいろなチームから声をかけていただいていたのですが、サッカー以外の別の仕事も視野に考えていたこともあり、ずっとお断りさせていただいていました。ですが、こんなに声をかけていただいているのを断っていたら、もうサッカーに関わることはできなくなってしまうのではないかと思い、次に声をかけていただいたところは必ず引き受けようと決心したところにいただいたご縁が台湾のチームでした。

ー台湾でゴールキーパーコーチをしていて、選手やスタッフとの言葉や環境の壁などはありますか?

大友 そうですね、監督は同じ日本人なので問題ありませんが、選手とは言葉の壁やコミュニケーションの難しさを凄く感じています。通訳の方が私と監督それぞれにいるのでいつも4人で動いていて、選手には通訳を通して指導はしていますが、通訳の方も選手と同じ台湾の方なので文化や環境が違うこともあり、感情や言葉の細かなニュアンスや受け取り方、考え方といった部分で多少のずれがあったりすることもあるので、選手に伝える時も大変だなと思うこともあります。
例えば日本語は1つの言葉にいろいろな意味が含まれていたりしますが、中国語にはそういった表現はないので、私が含みを持たせた言葉を言うと選手にはストレートに伝わってしまうということはよくあります。「本当はやれるならやってほしいけれど、無理にはやらなくていいよ」ということを言うと、「これはやらなくていい」というように伝わってしまう。曖昧なことを言うとうまく伝わらないというのはあります。
生活面では、気候も日本とそれほど変わらず沖縄に近いような1年を通して比較的温暖な気候で、冬の寒い時期でも15度程度の気温で過ごしやすいです。食事に関しても台湾の料理も美味しいですし、日本食も多いので住みやすい国だなと思っています。

ーアジアの国のナショナルチームということは、なでしこジャパンとも対戦する可能性があるのですか?

大友 はい、ありますね。一昨年に一度対戦しているのですが、母国と対戦相手として対峙するのは少し不思議な感覚でした。現在のなでしこジャパンで知っている選手はあまりいないのですが、コーチ陣をはじめとしたスタッフはよく知っている皆さんだったので、ホテルでは「なんで台湾にいるの?」なんて言われながら、久しぶりに会う方々とたくさん話をさせていただきました。

ー日本と台湾でサッカーの違いは感じられますか?

大友 もともと台湾に特別これといった印象は持っていなくて、海外で仕事や生活をするということに対する不安だけあったのですが、実際に台湾に来てチームを指導する中で様々な面で違いを感じています。1つは台湾のサッカー環境の違いです。これはサッカーに対する国民の関心や文化の差と言えるかもしれませんが、台湾ではまだまだサッカーの人気が少なく、野球や卓球、バレーボールやバスケットボールなどのスポーツが非常に人気で競技人口も多いです。台湾のサッカー協会も日本ほど確立された組織ではないので、これから何とかしていかないといけないなと思っています。そういったところは日本より何年、何十年も遅れている印象です。
台湾には女子サッカーのトップリーグである木蘭リーグがあるのですが、加盟するチーム数が6チームしかなく大学も4チームしかありません。トップリーグの中には週2回しか練習をしていないというチームもあります。代表チームとしては今年の9月にワールドカップのアジア1次予選があるので、そこに向けて月1回10日間程度の代表合宿を組んでいるのですが、代表に選出される選手は大学生が多いです。社会人の選手も数名いるのですが、代表の活動よりも仕事が優先で代表の招集に行けないという選手が多いのが現状です。社会人選手の中には職業が教師という選手もいるので、授業を任せて代表合宿に参加するのは難しいというのもわからないでもないのですが、合宿の度に参加する選手が違っていたり、合宿中に選手が急に帰ってしまったこともありますし、10人しか集まらないこともあったりします。中でも驚いたエピソードがあって、合宿中に選手が親と電話をしていたのですが変わった様子だったので通訳の方に話を聞いたら「サッカーの合宿なんて行っていないで帰ってきて仕事に行けと怒られている」というのです。代表ではお金にならないから、ちゃんと働いて収入を得なさいと。まだまだサッカーの理解が少ないんだなと感じた出来事でした。どれも日本では考えられないことですが、まだ代表としての価値が高くないので「仕事よりも代表」という風潮になっていけるようにすることが今後の大きな課題です。
スタッフについても監督とゴールキーパーコーチが日本人でやっているので、コーチに台湾人コーチを呼んで一緒にやっていきたいと話をしています。ですがコーチの人員も仕事があるから参加できないという方が多く、今は監督とGKコーチの2人体制です。トレーナーには台湾の方に来ていただいていますが、フィジカルコーチはいないので監督と二人で相談してトレーニングを決めています。
代表合宿の際、練習は大学のグラウンドを借りて行なっています。サッカー専用施設が国内にないので宿泊先のホテルから移動して練習をしますし、国内にチームが少ないので練習試合もあまりできません。そのため海外遠征を多くして海外のチームと試合をしていたのですが、新型コロナウイルス感染症の影響で海外遠征もできなくなり、国内合宿だけになっているのでフルコートでの試合形式ということがなかなかできていません。

ーゴールキーパーコーチとして指導する上で大切にしていることはありますか?

大友 選手には練習中も常に試合を意識して、必ず100%の力でやってほしいと言っています。これは私自身がゴールキーパーとしてプレーしてきた経験もあるのですが、例えば練習で手を抜いてしまったり簡単なボールを落としてしまったりしていると、試合でも同じことが起きてしまう。ゴールキーパーは1つのミスが失点に繋がってしまうので、常に試合だと思って練習してくださいと言っています。選手の中にもこういったことを理解してくれる選手もいればそうでない選手もいますが、理解しない選手はやはりイージーミスをしていたりするのですが、ここは私のこだわりでもあるので伝え続けようと思っています。

ー合宿以外の日はどのように過ごされているのですか?

大友 普段は台湾のサッカー協会に行って打ち合わせなどをしていて、次の合宿はどの様にしていくかといったことを監督と話し合って合宿の準備をすることが多いです。また昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で代表チームの活動が少なかったこともあり、台湾の各チームの視察や指導者講習会の開催を積極的に行なっていました。協会からも選手だけでなく指導者の育成も期待されているので、そういった活動も精力的に行なっています。台湾にも指導者ライセンス制度はあるのですが、日本と違って階級制でステップアップしていくという形ではないので、指導者のスキルアップが難しい面もあります。指導者数も少ないので、台湾サッカーを盛り上げていくためにも指導者も増やしていきたいと思っています。
台湾サッカーにはまだ選手ファーストの指導が浸透しておらず、監督やコーチが偉くてトップダウンの指導をする方が多いので、指導者講習会ではそうした古典的な指導法ではなく選手ファーストの精神で選手のための指導をしましょうと伝えています。参加者は「そういう考え方もあるのか」といった反応をされますが、確かに言われてみればそうだと納得してくれていて、若い指導者も少しずつ増えてきているのでそういった方々が理解して増えてくれるのを待っています。

ー台湾に来て良かったと思うことはありますか?

大友 良かったと思うことはいろいろありますが、海外に来て日本を客観視することで日本の凄さを再認識できたのは良かったと思うことの1つです。日本でプレーをしたり指導していた時には当たり前に思っていたことですが、あんなに整った環境はあまりないんだなと台湾に来て感じています。グラウンドやロッカールームといった施設面でもそうですが、選手の食事でも台湾のアンダー世代の代表選手たちはホテルに泊まっていても3食お弁当だったりして栄養バランスを考えられた食事ができていないという話も聞くので、そういう意味でも日本は全部整えられていたので良い環境だったんだなと思っています。

ー台湾での今後の展望はありますか?

大友 私はあまりそういうビジョンを持っていなくて、今与えられた場所で一生懸命にやることで自然と道が作られていくと考えています。選手たちにはサッカーが上手くなってほしいですし、いずれは指導者になってほしいと思っているので、そういった選手を増やしていきたいです。
台湾人には原住民の方もいて身体能力が高い人達もいるので、選手のポテンシャルは高いなと思っています。国民性というか明るく愉快な性格の人が多いので、真剣さと楽しさのメリハリがしっかりとつけられるようになればもっと良くなると感じているのですが、日本式にいくか台湾式にいくかは悩むところです。ただ明るい性格でリーダーシップを持っている選手が多く、自分から意思を発信できる選手がいるのでそういうところは長所だと思っています。
また、台湾の選手で日本でも通用する選手というのはいないのでそういった選手、台湾でスターになるような選手が誕生すれば理想です。過去には日本の2部やチャレンジリーグでプレーした選手はいるので、1部で活躍できるような選手が育ってくれたら理想です。台湾でスター選手が生まれると、台湾でのサッカーの印象や注目度も変わると思いますし、そうなることで仕事よりもサッカーが優先される価値観に変わったり、サッカー選手を目指す子どもが増えることにも繋がるのでそうなることを願っています。

<プロフィール>
大友 麻衣子(おおとも・まいこ)
1985年神奈川県出身。
小学生まで野球チームに所属し、中学校からサッカーを始める。日本体育大学に進学後ゴールキーパーに転向、年代別の代表選手にも選出されるなど全国トップクラスの選手として活躍し、大学卒業後にアルビレックス新潟レディースに入団。5年連続でなでしこオールスターに出場するなどなでしこリーグのトップ選手として活躍する。
引退後は埼玉県にある尚美学園大学女子サッカー部でゴールキーパーコーチを務め、2019年から台湾女子代表チームのゴールキーパーコーチを務めている。

text by Satoshi Yamamura

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