プロサッカー選手を引退後、FCティアモ枚方の監督になって2シーズンが過ぎた。関西1部リーグ、全国地域サッカーチャンピオンズリーグを勝ち抜いてJFL昇格を決めた1年目を経て、初めてのJFLに挑んだ今年は最終的に8位。VOL.27でも書いた通り、その結果には決して満足はしていないが、この2年間で経験した全てが僕の大きな財産になったことは間違いない。その中で、監督という仕事の楽しさと難しさを存分に味わった今、改めて、監督・指導者として思うこと、感じていることを綴っていきたいと思う。
思えば僕は現役時代から、自分がゴールを決めたことより、そのゴールでチームメイトやファン・サポーターが喜んでいる姿を見ることに大きな喜びを感じてきた。それはティアモの監督になった今も変わらず、むしろその思いは強くなっている気もしている。当たり前のことだが、監督・指導者というのは、自分がプレーをして喜びを得ることはない。選手がピッチ上で躍動し、ゴールをたくさん奪い、それを観ている方々が楽しいと思ってくれること。勝利をおさめ、選手やスタッフ、応援してくれるファン・サポーターのみんなが喜びを分かち合っている光景を見ることが最大の喜びだ。実際、その瞬間を味わうたびに「僕はこのために仕事をしているんだな」と噛み締めてきた。
では、試合に勝つために監督としてやれることは何か。それは、大きく分けて3つある。選手が良いコンディション、精神状態で試合に臨めるようにマネジメントすること。選手が少しでも成長できるような練習環境をオーガナイズすること。選手たちが存分に力を発揮できる戦術、配置、組み合わせを考え、相手の分析を元に試合のプランニングをすることだ。これについては、まだまだ全てにおいて足りていないと感じているが、この2年間、トライ&エラーを繰り返してきた中で、少しずつアップデートできてきた実感はある。来シーズン以降も色んなチャレンジをしながら監督としての成長に繋げていきたいと思っている。
チームづくりの過程においては、指導者として、自分の考えを選手に伝えることの重要性を改めて考えさせられることも多かった。語気を強めたり、冗談を交えたり。言葉だけではなく身振り手振りを交えてみたり、練習を課すことで伝えることもあった。そして、その『伝え方』次第で、選手への戦術の浸透度や理解度に大きく影響を及ぼすことも学んだ。
さらに言えば、伝える以前の段階として、自分の考えをただ言葉に変えるだけではなく選手に理解させるという意味での『伝える』を徹底するには、まずもって僕自身の頭が整理されていなければ上手く伝えられないということも学んだ。このコラムもそうだが、考えていることを文字に変換したり、声に出してみることで頭の中を整理する手助けになることも知った。
そんな経験をもとに、僕が今、監督・指導者として最も大事にしていること。それは『選手の気持ちになって考えること』と『選手のためになっているのか』の2つだ。前述した通り、試合も練習も、ピッチでプレーするのは他ならぬ選手だ。だからこそ、監督である僕は、自由と制限のバランスを考慮し、選手が試合や練習で楽しくプレーできるよう常に選手目線で考え、指導にあたっている。また、高校生など育成年代の指導を行うときには特に、ミスに対して答えを言ってあげるべきか、どうすれば良かったのかを本人が考えるように促すのか。褒めるべきか、厳しい声をかけるべきか。どちらが選手のためになるのかを考え、接することを心がけている。もちろんその先に、選手の成長とチームの勝利を描けばこそ、だ。来シーズンもこの2つを自分の芯に据えながら、選手とともに、今年以上にたくさんの喜びを味わいたいと思っている。
最後になりましたが、約2年間にわたって続けてきたこの『BRAIN〜ズミの思考〜』は今回が最終回になります。ほとんどがティアモの監督としての話で、このコラムを書いている時間は、自分自身が『監督』という仕事について考え、整理する時間にもなりました。今後も何かしらの形で『発信する』ということは続けていきたいと思っていますので、またそこで読者の皆さんとも再会できれば嬉しいです。
読んでいただいて本当にありがとうございました。
小川 佳純Yoshizumi Ogawa
1984年8月25日生まれ。
東京都出身。
07年に明治大学より名古屋グランパスに加入。
08年に新監督に就任したドラガン・ストイコビッチにより中盤の右サイドのレギュラーに抜擢され、11得点11アシストを記録。Jリーグベストイレブンと新人王を獲得した。09年には、かつてストイコビッチも背負った背番号『10』を背負い、2010年のリーグ優勝に貢献。17年にはサガン鳥栖に、同年夏にアルビレックス新潟に移籍し、J1通算300試合出場を達成した。
20年1月に現役引退とFC TIAMO枚方の監督就任を発表し、指導者としてのキャリアをスタートさせた。