©VEGALTA SENDAI
19日の第31節は大宮を1-0で破り、リーグ戦では6月4日の第19節東京V戦以来、実に12試合ぶりに白星を手にした。長かったね。オレはこの苦しい期間の試合に絡めていない。早く勝利に貢献したいという気持ちは大きい。その上で、貢献できないもどかしさを通り越して「勝ってくれ」という気持ちで最近は試合を見ていた。本当に勝ってよかった。そして、ホームで勝ててよかった。あんな順位にいるのに、大勢のサポーターが来てくれて雰囲気を盛り上げてくれている(観衆12,141人)。そこで情けない試合よりも勝つ試合を見せ続けたいもんね。あのサポーターの多さにはびびった。選手スタッフみんなで驚きつつ、「応えないといけないよね」って話していた。いろいろなチームを経験した人もそう言う。やっぱベガルタのホームでやれる強さは特別だよ。苦しいときにサポーターが支えてくれていて、フロントの人たちはスタジアムに人を呼び込もうとしてくれている。選手は勝とうと必死で戦う。負けているときに批判するのは簡単なんだけど、本当に苦しいときに批判したって何も出てこない。一丸となって立ち向かっていかないと、はい上がれない。
負けているときって本当につらいのよ。勝ち続けていて1回負けて次に勝つのと、ずっと負け込んでいて勝つときのエネルギーの使い方は全然違う。選手も精神的にネガティブになってしまい、本来できることができなくなっちゃう怖さがある。普通だったら通るはずのなんでもないパスが通らないとか、本来出せる力の50%も出せないような感覚に陥ってしまう。そういうイメージがあるんだよね。たった1回のミスがずっしりと、チーム全体のメンタルに来るミスになってしまう。勝っているときって、1点取られても「よし、取り返すぞ」って燃えるんだけど、負けているときは先制点取られただけで落ち込んじゃうというか、点が入る雰囲気がなくなるというか。もちろん、みんな勝つために頑張っているんだよ。勝つつもりで戦っていても、なぜかそういう雰囲気になってしまう。それが怖さであり難しさ。ミスしたくないという心境が、失敗を恐れずにチャレンジしていくプレーをどんどん減らしてしまう。鹿島でもそういうことがあった。さすがに10戦以上とかはなくても、残留争いをしそうになったときもあったし。そういうときって、練習ではできていたことが試合になるとできなくなるんだよね。だから、できなくなった理由を考えるより、まずやろうという風にしていかないといけないと思う。
見に来て応援してくれるサポーターの前で恥ずかしいプレーできないし、戦っている姿を見せなきゃいけないし。クラブのみんなが苦しんでいた。夏に1勝しかしていないなんて、戦力を見るとちょっと考えられないよね。でも、本当に強いチームでもいつこうなってもおかしくないっていうのがプロの世界。何が悪いか簡単に特定できないし、簡単に修正も効かない。気持ちの余裕を失っていて、チャレンジする姿勢が影を潜めてしまう。本来ならどんどん得意なプレーを出して、取られても自分で取り返すぐらいの気持ちでやりたいよ。負けたくて試合に臨むことなんてない。そんなやついるわけない。ただ、重く捉えすぎてミスしたくないって思っちゃうことはある。
どんなサッカーだったとしても、まず勝つことが大事。大宮戦の終盤はリュウ(ベガルタ仙台FW菅原龍之助)頼むってお願いしながら見ていた。決めたのはエヴェ(ベガルタ仙台MFエヴェルトン)だったけど。エヴェはやっぱ経験もあるし助っ人としての使命感も強い。チームをどうにか勝たせたいという気持ちは人一倍あったと思う。普段はふざけた感じで話していても、やっぱり負けず嫌いだし。ブラジル人らしいなっていつも思っていた。
ここから何が変わるかといったら、一番期待できるのは練習の雰囲気だよね。活気が出るのはもちろん、今回試合に出られなかったメンバーは必死になるよ。負けたらメンバーを変えたりすることもあるけど、勝ったことによってそうもいかなくなるじゃん。だから練習への取り組み方もより必死になって、アピール合戦というかすごく強度が上がるんじゃないかな。いや、上がらなきゃね。大宮に1回勝っただけで状況が大きく変わるわけじゃなくて、残り試合も結構あるから一つでも多く勝たないといけない。
大宮戦の前にフク(ベガルタ仙台DF福森直也)と「最近試合に絡めてないね」って話していた。フクは去年の最後の試合で活躍したけれど、今年はほとんど出番がなかった。フクは「去年のように最後にチャンスが来るかもしれないから、準備しときます」って言っていて、それで大宮戦であの活躍でしょ。すごいよね。練習で声出すし、常に明るいし。オレがベガルタ仙台に来て、最初にフランクに話しかけてくれたのはフクなんだよね。さらに、オレのことをふんわりやんわりいじってくれたおかげでチームにもすんなり入れたし、みんなとも仲良くなれた。なんか話しやすいんだよ。歳が近いってのもあるし。30代になってくるとさ、家族もいて来年のことを考える部分って必ずあるのよ。若いときは将来の力を期待されている部分もあって「また来年」っていう気持ちがどこかにあったかもしれない。年を取ると毎年毎年が勝負だから大変なの。そういう不安を一切表に出さないのがフク。あの試合で勝てて、フクが勝利に貢献できたのは本当にうれしかった。負けが込んでいるチームに必要な声を、誰よりも出し続けていた。これってまさにムードメーカーだよね。前回ムードメーカーの話でフクを出し忘れたことを、めちゃくちゃ後悔している。
試合が近づくにつれて練習でスタメンが固まっていくじゃん。これはフクが出るなと思って声をかけようとしたら、「言わなくても分かります。頑張ります」って。めっちゃ気合入っていたから「終わったあと笑顔で会おう」って送り出した。そして、勝った。フクは笑顔というよりほっとした表情だった。決勝点が劇的すぎたからかな。何はともあれ、一つ勝った。喜びをかみしめる間もなく大分戦が控える。ここからまた積み重ねていきたい。
遠藤 康Yasushi Endo
1988年4月7日生まれ。
仙台市出身。
なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。