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Vol.85 肝の2試合。可能性がある限り。

  • 2023.10.03

    Vol.85 肝の2試合。可能性がある限り。

発源力

©KASHIMA ANTLERS

長いリーグ戦では、シーズンに2〜3回、勝負どころというか「肝」というべき試合があります。もちろん、どの試合も目的の最上位は勝つことで、相手によって優劣をつけたり、力を加減することはありません。ただ、自分たちの置かれている順位を変えるために、あるいは、チームの流れや雰囲気を変える上で肝になる試合は必ずあって、それを勝ち切れるかは間違いなくシーズンの明暗を分けると思っています。

僕らにとっての第28節・横浜F・マリノス戦、第29節・アビスパ福岡戦は、その肝というべき2試合でした。
まず、マリノス戦。僕らより上位を走るチーム、鹿島とは勝ち点5の開きがあり、勝てばその差を2に縮められる試合だと考えても、是が非でも勝ちたい試合でした。一方、そのマリノス戦に敗れて臨んだ福岡戦は、僕らを勝ち点2差で追いかけてくる相手との試合でこれ以上、優勝争いから引き離されないためにも、確実に勝ち点3を積み上げて上位にプレッシャーをかけなければいけない試合でした。ですが、結果的に僕らはこの2試合で、勝ち点1しか積み上げられませんでした。

もちろん、それぞれの試合にいろんな要因がありました。特にマリノス戦では戦術や内容以上に、大一番での勝負強さ、試合の流れに揺り動かされない落ち着き、近年『タイトル』を手にしてきたチームだからこそのどっしり感みたいなところの差を感じました。
この試合、鹿島は前半の立ち上がりにエースの優磨(鈴木)が先制点を挙げるという理想的な展開になりましたが、マリノスの選手は一切動揺することもなく、自分たちのやるべきことに目を向けて淡々と試合を進めていたように見えました。それに対し、鹿島はどこか焦りや苛立ちみたいなものを選手それぞれから感じたというか…。もちろん、僕はピッチには立っていなかったし、ピッチで起きていることの全てを感じ取っていたわけではありません。ただ少なからずベンチにいる僕の目にも鹿島の方がその都度、試合の流れ、得点、失点の流れにプレーも、気持ちも一喜一憂してしまっているように見えました。結果論として、50分に決勝点を許してしまったことを受け、「後半の入りが悪かったんじゃないか」という見方をする人もいるかもしれませんが、少なからず僕は、鹿島も決して後半の入りは悪くなかったし、集中を欠いてフワッとしていた選手もいなかったと思っています。それよりも、先ほども言ったように90分を通したマリノスの落ち着いた試合運び、ディフェンディンチャンピオンとしての風格の差が勝負を分けた気がしています。また、1-2というスコアからも、シーズンの終盤戦では必ず際立ってくる自陣、敵陣の両ペナルティエリアにおける個の質、決定力の差も相手の方が上だったと言わざるを得ません。

その悔しい…というよりある意味、ショッキングな敗戦の後に臨んだ福岡戦は、J1リーグにおける今の自分たちの立ち位置を試される試合になると思っていました。先ほど書いた通り、勝ち点差、順位、優勝争いを考えても、J1クラブの中でもこの終盤、ルヴァンカップを含めて勢いのある福岡から白星を掴めばもう一度、自分たちがこの最終盤で浮上するきっかけになるという考えもありました。もちろん、前日に行われていた同節の『マリノスVSヴィッセル神戸』戦でヴィッセルが勝利したという結果も頭にありました。

ただ結果的には自分たちのゴールは破られなかった一方で、相手のゴールも破ることができませんでした。僕自身も郁万(関川)のアクシデントを受けて74分からピッチに立ちましたが、チームを変え切るには至らなかったのは自分の物足りなさだと受け止めています。ピッチに立ってすぐのセットプレーでのゴールチャンスも…試合後に優磨とも話しましたが、彼からの折り返しは「シュートだった」こともあり、優磨のボールが速すぎて当てるのが精一杯になってしまい…。あれがこの試合の唯一のビッグチャンスといっても過言ではなかっただけに、自分にがっかりです。

この2試合の結果により、首位・神戸との勝ち点差は11に開きました。残り5試合になった中でのこの数字の重さは説明するまでもありません。ただし、今、僕の頭にあるのは、自分たちに可能性があるという事実だけです。福岡戦前に大樹さん(岩政監督)が言っていた通りに、です。
「世間はもしかしたら今の順位、勝ち点を見て『鹿島はもう(優勝の)可能性が低いね』という見方をするかもしれない。でも俺たち現場のスタッフ、選手はシーズンのスタートから、可能性が低いから、高いからで勝負はしていない。俺たちは、可能性があるか、ないか、の世界に生きている。そして可能性が『ある』限り、全力でその結果を目指して戦うだけだ」
僕たちには、まだ優勝を狙える可能性があります。いうまでもなく、それを手繰り寄せるのは自分たちに他なりません。そのためにオフを挟んだ中断期間に何ができるか、何をすべきか。中断明け最初の試合である神戸戦を睨みながらも、まずは今シーズンがスタートした当初から何を目標にしてここまで進んできたのか。新しい鹿島を作るために、どんな戦いをして、どうやって勝ってきたのか。前半戦で神戸に大敗した後、何をリマインドして9戦負けなしの勢いに持っていったのか。もう一度、自分たちに矢印を向けて、自分たちの可能性に全力で向き合いたいと思っています。

  • 昌子 源Gen Shoji
  • Gen Shoji

    1992年12月11日生まれ。
    兵庫県出身。
    11年に米子北高校から鹿島アントラーズに加入。14年には自身初のJ1リーグフル出場を実現するなど主軸選手に成長を遂げ、16年のJ1リーグや天皇杯優勝、18年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。
    18年12月にトゥールーズFCに完全移籍。すぐさまレギュラーに定着するも2シーズン目はケガに苦しみ長期の戦線離脱に。その状況を踏まえてJリーグへの復帰を決断し、20年から3シーズンはガンバ大阪で、23年は鹿島アントラーズでプレー。24年はFC町田ゼルビアに完全移籍となった。
    14年に日本代表に初選出。2018FIFAワールドカップ ロシア出場。

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