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Vol.13「モチベーション」

  • 2023.10.12

    Vol.13「モチベーション」

絶康調

©VEGALTA SENDAI

プレーオフ圏内に届かなくなりJ1昇格が消えた。今季は周りもすごく期待してくれていたし、戦力も整ったと言われた中でのこの結果。俺も怪我してなかなかチームの力になれなかったことも含めて、すごく悔しい。同時にJ3への降格も免れそうになっている状態でのモチベーションに触れようと思う。ホームでの試合が残っているし、最後は首位の町田と当たる。東北対決もいわきとは2-2で引き分けたけれど、秋田戦が残っている。俺は勝ち負けはもちろん大切だけど、相手になめられることが一番嫌だ。「やっぱベガルタ弱いな」とか「全然駄目じゃん」って思われるのがすごく嫌。個人のプライドとしてはもう絶対譲れなくて、絶対負けたくない。下位に沈みうまくいってないと思われているときこそ、がつんと一発かまして来季につなげたい。そういう姿を見せたいっていうのはある。だから、個人的にはこういう状況下でこそ燃えるんだよね。順調に回復して最終盤には間に合うかもしれないし。試合に出られないっていうのは、めちゃくちゃもどかしい。もっとハッパをかけたい気持ちがあっても、いま苦しんでいる状況でサッカーしてない俺がブーブー言うなんて変だし、言われるほうも嫌でしょ。今の俺に言われても響かない。だから、林くん(ベガルタ仙台GK林彰洋)とか梁さん(ベガルタ仙台MF梁勇基)とか、経験豊富な人に託している。

そして、こういう状況になったときにモチベーションが落ちてしまう選手もいる。この時期は去就が明らかに分かってしまうところもあって、練習であまり身に入らなかったりしちゃう選手もいる。そこのケアは本当に難しい。「もっとやれよ」って軽々には言えない。でも、プロサッカー選手としてベガルタ仙台というクラブにいる以上、成長を常に求めていかないといけない。うまくいかないときでも、やれることは絶対にある。その努力は絶対に怠らないでほしいという思いはある。鹿島時代もシーズン終盤は移籍の話が伴って同じような状況になっていた。J1が終わらないとJ2は動かないからベガルタはまだそういう話にはなっていないとはいえ、契約満了になる選手も必ず出てくる。危機感の中でやっている人もいるし、ちょっと複雑な状況になってしまうのはどんなチームでも起きること。それでも、試合に出られなければまず練習からやろうっていう姿勢に、本来はならないといけないけれど、それを全員に求めるのは簡単ではない。若い子には「まだ最後の試合とかもあるかもしれないからちゃんと準備しとけよ」とは言う。去年のフク(ベガルタ仙台DF福森直也)みたいに、真摯に練習に取り組み続けて最後の方に試合に絡み、今年も最後の方にずっと出ているという身近な実例がある。簡単に理解できるものじゃなくても、フクの姿勢は見習ってほしい。1日のうち全体練習するのも長くて2時間ぐらい。そのわずかな時間を後ろ向きに過ごすのはもったいないじゃん。落ち込むなら練習終わってからでいい。グラウンドの中では自分の能力を100%発揮できるよう努力するのよ、しんどいけどね。

今の若い選手は、華やかな世界をイメージして入ってきている。スポーツ選手ってそういうもんだよね。でも、実際のところいい思いをできるのって30人中1~2人ぐらい。試合が終わったときに「ゴール決めた」とか「ヒーローになった」とか、「最後守り切った」とか満足できるのはひと握り。それ以外の選手は、点を取りたかったな、もっとこうしたかった、もっと俺はできるとか思っている。サッカー選手ってすごくきついんだよ。走らなきゃいけないし、勝てなければ文句も言われるし。メンタルきついんだよ。ただ、それを楽しいと思えるようになったらいいと思うけどね。俺はもう苦境も含めて楽しいと思っている。苦しい思いも「やっぱこういうことあるよね、でも乗り越えたときどういうことが起こるのかな」と考えるとか。いつ頃からだろうな、昔から試合に絡めなくてもふてくされることはなかった。でも、メンタルはきつかった。メンバーから外されるんじゃないかとか、次の試合でチャンスがないんじゃないかとか。例えばスタメンで出ていたのにサブに落ちました、でも練習で見せておかないと途中から使ってもらえなかったりするわけじゃん。そしてどんどん試合に出られなくなっちゃう。途中から出ていても人以上の結果やクオリティーを見せないといけないし。落ち込んでいる暇はなかったね。苦しいと思いながら、もっともっとと自分を追い込んでいた。30歳ぐらいのときに、全く試合に出られなくなった。そして、久々に出た試合でゴールを決めて、そこからまた試合に絡むようになったことがある。そのときに悟ったかもしれない。練習からちゃんとやってパフォーマンスを維持していれば、いつ試合に出られるかは分からなくても、使われたときにちゃんと活躍できるんだなって。試合に出ようが出まいが、メンタルも落ち込むときもあるかもしれない。それでも目の前のことに真剣に取り組み、チームのためにやっていれば自然とチャンスは巡ってくる。絶対巡ってくるし、ちゃんと活躍できると信じている。そういう考えに至ってからは、そう落ち込むことはなくなった。

くさっている時間ほどもったいないものはない。ところが、若いときはそれが案外分からないことが多い。年齢を重ね、いろいろな人を見て話して経験を積んでようやく分かってくる部分はある。落ち込むぐらいだったら誰かと会ったり遊びに行ったり。気分を紛らわすためにも、一人で抱え込まず周りに助けを求めればいい。助けてくれる人は結構いるものだから。プライドがあるから「助けて」って言いにくいのも分かる。もちろんプライドは大切。でも俺は年を取ってプライドを捨てたというか、優先順位を下げた。プライドが生き様を狭めるのなら、いろいろな人と話して行動に移すほうが手っ取り早いし、そのトライアンドエラーが成長につながることもある。突然ぶっ込むと俺の中では趣味の釣りがすごくいい仕事をしてくれている。サッカーから離れて目の前の魚のことだけ考えられる。釣りのせいでオフに疲れちゃったとしても、頭の中がクリアになっていたり、気持ちが楽になっていたりする。

1―0で勝った熊本戦は、一致団結して前からプレスをかけてセカンドボールも拾うとか、気持ちが伝わるプレーが多かった。見ていた人もわくわくしたんじゃないかな。球際の強さだったりセカンドボール回収だったり、取られたら誰かが取りにいくとか、どんなカテゴリーでも当たり前のことをしっかりできないと勝てない。相手もかなり嫌がっていたし、選手も手応えを感じただろう。もちろん熊本が連戦ということもあったかもしれない。でも、それを差し引いてももう1点入ってもおかしくない雰囲気があった。あの戦い方がベースにあって、上積みとしての戦術があるのが理想だね。残り試合は「やっぱり負けた」って思われるような結果じゃなく「なんだよやっぱりベガルタ強いじゃん」って思わせるぐらいの試合をやってほしい。梁さんも「このままシーズン終わりたくねえな」って闘志をみなぎらせている。リハビリ中の俺は外から見てる感じはすっごく嫌なんだけど、なめられたくない。うちのかわいい子たちをなめるな、こいつらはもっとすごいんだぞって思っている。

  • 遠藤 康Yasushi Endo
  • Yasushi Endo

    1988年4月7日生まれ。
    仙台市出身。
    なかのFC(仙台市)から塩釜FC(宮城県塩釜市)を経て2007年鹿島アントラーズに加入。左足のキック精度が高く、卓越したボールキープ力も光る攻撃的MFで、10年以降は主力として3度のJリーグカップ制覇や、16年のJ1リーグと天皇杯優勝などに貢献した。J1通算304試合出場46得点。
    2022年、15年プレーした鹿島を離れ、生まれ故郷のベガルタ仙台へ完全移籍した。
    U-15、U-16、U-18の各年代で代表経験があり、15〜17年は日本代表候補に選出された。

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