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Vol.15 株式会社名古屋グランパスエイト/マーケティング部 部長・戸村英嗣

  • 2020.07.01

    Vol.15 株式会社名古屋グランパスエイト/マーケティング部 部長・戸村英嗣

サッカーのお仕事

近年、右肩あがりで平均入場者数を伸ばしている名古屋グランパス。試合会場でのイベントやポスターづくり等においても目を惹く仕掛けを数多く展開している。その先頭に立つマーケティング部に発足時から在籍し、様々な仕掛けに尽力してきた戸村英嗣氏を訪ねた。

ーマーケティング部ではどんなお仕事をされているのでしょうか。

戸村 『満員のスタジアム』を目指して、集客のためのチケット販売戦略、ファンクラブの運営、オフィシャルグッズの考案、展開をはじめ、試合にまつわるイベントやプロモーションの企画・実施、それらの全体的な運営全般を考えるのが主な業務です。以前は、それぞれの仕事を事業部や営業部といった部署ごとに行なっていましたが、5〜6年前に、クラブとしてより集客に力を入れていこうと、チケットの販売方法やファンクラブのコースやグッズ作りの見直しを行なったんです。その際、各担当者が連携して動いた方がよりスムーズに面白い仕掛けができるということから16年にマーケティング部ができました。名古屋グランパスではファン・サポーターの皆さんのことを『ファミリー』と呼んでいますが、クラブとしてもより結束力を強めることで、ファミリーの皆さんに喜んでいただける仕掛けを数多く展開していきたいと考えています。

ーその16年以降、平均入場者数は右肩上がりで伸びています。昨年の1試合平均入場者数もJ1リーグで初優勝された10年を超える数字でした。

戸村 おかげさまで、2010年のリーグ戦1試合あたりの平均が約20,000人なのに対し、昨年は約27,600人の集客がありました。これはクラブを上げて取り組んできたことが間違っていなかったという手応えにも繋がっています。16年にマーケティング部ができたその年にJ2リーグに降格してしまい、いきなり苦境に立たされましたが、結果的にはJ2降格を受けて我々、クラブスタッフも大きな危機感を覚えたこと。風間八宏前監督以下、チームにも我々の取り組みを理解していただいて、一緒になって「よりたくさんの方に応援していただくチームになる」ということにクラブ全体で向き合えたこと。更に言えば、『ファミリー』の皆さんの中にも「グランパスをもう一度、みんなで支えていこう」という空気が生まれ、たくさんの方がイベントに足を運んでくださったり、盛り上げてくださったことなどが相乗効果となり、J2リーグを戦った17年も平均入場者数を維持できたのだと思います。

昨年の『鯱の大祭典』の対象試合で実施された
『光のコレオ』。
イベントの面白さも集客を後押しした。ⒸN.G.E.

ーJ1からJ2に降格したクラブは、通常2〜3割は平均入場者数が減少すると聞きますが、グランパスは約1割程度の減少で留まりました。どんな仕掛けをされたのでしょうか。

戸村 とにかくたくさんの企画を考え、実施しました。ゴールデンウィークと夏休みはとにかくお子さんにたくさん足を運んでいただこうと小、中、高校生を1試合につき1万名無料招待という思い切った施策を実施したのもこのシーズンからです。ただ、来ていただいて終わり、では意味がないので、招待によって集めたJリーグIDを利用して来場者の個人情報を収集し、有料になっても継続的に足を運んでいただけるような施策にも並行して取り組みました。例えば、ダイレクトメールを送るにしても、個人の年齢や性別、来場回数にあわせて、個々のお客様に向き合って喜んでいただけそうなイベントや集客企画をピックアップしてアナウンスする、というようにです。

ー昨シーズンはどのくらいの数の集客企画を実施されたのですか?

戸村 集客企画には、単発的に行うものと、季節などにあわせて定期的に行なっているものがありますが、去年だと1試合平均で10本程度、年間で数えると220本くらい実施しました。その中身も子供さん向け、女性向け、1年以上足を運んでいただいていない『休眠層』と呼んでいる方たちが飛びつきそうな企画など幅広く、です。それによって、スタート時は3000人程度しか集まっていなかったJリーグIDが今では17万人を超えましたし、ファンクラブ会員の新規加入者数もここ4〜5年はハイペースで増えています。

ー近年は選手やスタッフの皆さんを起用したポスターもユニークで目を惹きます。

戸村 ありがとうございます。以前はどちらかというと選手がユニフォーム姿でボールを蹴ったり、走っている写真を使った、ある意味、王道のポスターを作成していたんです。ですが、15〜16年頃から、イベント企画の告知の場合は、敢えてサッカー色を消し、選手に焼きそばのヘラを持っていただいて撮影したり、映画のポスターをイメージして作ったり。全く選手を出さずに、子どもや女性だけでポスターを作るようになりました。これは、まだグランパスのことを知らない新しいファン層を獲得したり、スタジアムにご来場いただいたことのない人に興味を持っていただくための施策でした。もちろんグランパスの一番の魅力、面白さはスタジアムで行われるサッカーの試合で、我々スタッフも「グランパスのサッカーが面白いから観にいきたい!」と思ってもらえることが最終ゴールだと思っています。ですが、それ以前の段階で、スタジアムに足を運んでもらうための『フック』になる楽しみ方を多く提供することによって、『レジャー』の選択肢にいれてもらえるようになれば、Jリーグ観戦を選んでもらえる確率があがるんじゃないかと考えました。

共に仕事をする仲間と
「ホームで試合をするとグランパスって強いよね」と言われるスタジアムづくりを目指す。ⒸN.G.E.

ー戸村さんはマーケティング部に配属される前はどんな仕事をされていたのでしょうか。

戸村 私は06年に中途採用で株式会社名古屋グランパスエイトに入社し、優勝した10年までの5年間は、競技運営や会場管理を担当する運営担当をしていました。その後、11〜13年はチーム付きの広報を担当し、14年からは営業部に配属され、パートナー営業をしました。ちょうどその時に、社内の体制が変わり、社内で「集客のためのマーケティング戦略を考えていこう」という話になり、営業部に所属していた私も関わらせていただいたことが、16年からのマーケティング部への異動に繋がりました。

ー入社前の前職でもサッカー関係の仕事をされていたのですか?

戸村 少しキャリアを説明させていただくと、私は名古屋出身で、子供の頃は野球好きな父親の影響で、家のテレビでは毎日、中日ドラゴンズの試合が流れているような環境で育ちました。それもあって小学生の時は野球少年でしたが、中学3年生の時にJリーグが開幕し、グランパスもオリジナル10の1つとしてスタートして、日本全体で盛り上がりを見せたことに大きな影響を受け「高校に入ったらサッカーをしよう」と、初めてサッカーと関わりが生まれました。当時は高校への通学路に瑞穂陸上競技場があったので、毎日、自転車で瑞穂の側を走り、たまにグランパスの試合も観にいっていました。ですが、その後、長野県の大学に進学したことから、グランパスともやや距離が生まれ…(笑)。当時はそれこそサッカーにかすりもしないことを…山にこもってシダ植物の葉っぱの数を数えるとか、ミツバチの生態を追いかけるとか、研究室でDNAを抽出して培養する研究などをしていました。ただ、生物学科で勉強をしているうちに将来は、スポーツに携わる仕事がしたいと考えるようになり、結果、3年生の時に順天堂大学のスポーツマネージメント学科に編入したんです。それがちょうど01年で、同年には学校からも近かったカシマスタジアムで開催されたコンフェデレーションズカップに、02年にはワールドカップ日韓大会の運営ボランティアに携わりました。その経験からも、サッカー関係の仕事に就きたいと思うようになったのですが、当時はまだJクラブでの新卒採用はほぼなく…あれこれ探しているうちに、最終的には03年に豊田スタジアムの管理をしている株式会社豊田スタジアムに就職しました。当時はまだグランパスの利用が年間5試合程度の時代だったので、試合の際はスタジアム側のスタッフとして試合運営に携わる一方で、スタジアムで開催する様々なスポーツイベントの企画などにも携わりました。結果的に、同社には3年間勤めたあと、サッカーショップKAMO・名古屋店での半年間を挟み、06年10月にグランパスに入社しました。そう考えると、業種こそ違えど『サッカー』という括りでは同じ業界で転職をしてきたので、それぞれの仕事が今でも役に立つことはたくさんあります。

ー現在、グランパスは社員の募集をされていますか?

戸村 マーケティング部ということではないですが、総合職(営業、広報、ホームタウン、ファンディベロップメントなど)として、実は今回初めて21年卒業見込みの新卒採用の募集を行いました(編集部注*3月25日にエントリー締め切り)。クラブとしてはここ数年で5〜10名を随時採用してきたとはいえ中途採用ばかりだったので、今回は久しぶりの新卒募集となりました。

ーマーケティング部ということで考えるとどんな人材が向いていると思いますか?

戸村 先ほどお話ししたように私もマーケティングのマの字もわからないところからスタートしたことを考えれば、特に経験者でなければいけないとか、サッカーを知っていなければいけないとは思っていません。ただ、ここ数年マーケティング部の仕事をしてみて感じているのは、マーケティングって数字などのロジカルな部分のみならず、お客様にいかにメッセージを伝えるかという点においてはビジュアルの見せ方や、キャッチコピーの表現など、センスを要するところが結構あるんです。また、企画自体も、単にサッカーに特化したものではなく、例えばサッカーとプロレスとか、サッカーと温泉とか、違う切り口のものを組み合わせたものも多いのですが、その組み合わせを考えるのも、ある意味センスだと思います。そう考えると、数字とセンスの両方のバランスを備えた人材が理想かなとは思います。これは、過去の経験において、数字だけを追っていたら中身が面白くなくなったり、話題性ばかり求めた企画をしても集客に繋がるとは限らなかったからでもあります。あとは単純に色々な人を巻き込んで楽しいことをやるのが好きというマインドの方も向いていると思います。

昨年の7月に開催され、好評を博した
『鯱の大祭典』の告知ポスター。ⒸN.G.E.

ー戸村さんご自身は、今の仕事を通じて、グランパスというチームが『ファミリー』の皆さんにとってどういう存在になっていくのが理想だと思いますか。

戸村 とにかく笑顔と元気をたくさん与えられる存在になりたいと思っています。我々は、名古屋市と豊田市、みよし市を中心に、愛知県をホームタウン、活動エリアとしていますが、愛知県に住む方たちが「グランパスをきっかけに新しい繋がりができた」とか、知り合いが増えた、家族や恋人との仲が深まったというように、人と人との距離を縮められる存在になるのが理想です。もちろん、勝負の世界なので勝って喜ぶばかりではなく、もしかしたら負けたことで怒りが湧いたり、悲しい気持ちになることもあるかもしれません。また応援している選手が活躍したり、ヨーロッパへの道を切り拓いたり、日本代表になることもあるでしょう。ですが、そうした成長物語を楽しめたり、感情の振り幅が大きいのもスポーツならではの楽しみ方でもあるはずです。だからこそ、嬉しいことや辛いことなど、いろんな感情をグランパスを通じて共有できる仲間、ファミリーになっていければいいなと思っています。

ーマーケティング部としての目標は掲げているのでしょうか。

戸村 私たちがなぜ、集客に力を入れているのかといえば、最終的にはチームを勝たせたいと思っているからです。私たち社員は当然、ボールを蹴ることはできませんが、選手がより試合で力を発揮しやすいように、毎試合、多くの方の声援が選手に届き、力に変換されていくような雰囲気を作り出すことで、勝つための力になりたいな、と。その継続によって「ホームで試合をするとグランパスって強いよね」言われるスタジアムになっていくのが目標ですし、ひいては、それが勝つことのみならずタイトル獲得にもつながり、その喜びをグランパスに関わる全員で共有できれば、これ以上の喜びはないと思っています。7月4日には、新型コロナウイルス感染症の影響で長らく中断していたJ1リーグが再開されます。グランパスとしては、安心・安全なスタジアム環境を作り、選手たちが試合に集中でき、ファミリーの皆さんが安心して観戦いただけるようにすることが第一です。その上で、『withコロナ』の状況に合わせた新しい観戦体験の提供をしていきたいと考えています。また、スタジアム以外のオンライン上でも、いかに試合のある一日を楽しんでいただくか、ファミリーの皆さんの想いや応援をどのように選手たちに伝えていくのか、様々な施策を検討しています。そちらも、ぜひ楽しみにしていただければと思います。世界中で多くの方が、新型コロナウイルス感染症に苦しみ、その治療や防止のために今も闘い続けています。物理的には人と人の距離を取ることが求められていますが、そのような状況だからこそ、人と人の想いを繋いだり、共有することができるスポーツの価値は、より高まっていくはずです。そう信じて、これからもより多くの方にスポーツやサッカーの価値を伝えつつ、元気と笑顔をたくさん届けていきたいと思っています。

text by Misa Takamura

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鮭のちゃんちゃん焼き/管理栄養士 スポーツフードアドバイザー 坂本星美