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Vol.27 株式会社ゆかサル 代表取締役社長/吉野有香(前編)

  • 2022.03.09

    Vol.27 株式会社ゆかサル 代表取締役社長/吉野有香(前編)

PASSION 彼女たちのフィールド

なでしこリーガーから会社の社長に登り詰めた異色の経歴を持つ。しかし、その道のりは決して順風満帆だったわけではない。苦労を重ねるなかで、女子サッカー界や女子サッカー選手の人生とも向き合ってきた。その経験やさまざまな思いを胸に、吉野有香氏は自身の思い描く理想の未来に向かって邁進する。すべては、みんなが豊かな人生を送るために。

―現在の活動内容について、教えてください。

吉野 京都府京丹後市で『株式会社ゆかサル』という会社を設立し、その社長を務めています。主に『KYOTO TANGO QUEENS』(通称クイーンズ)という女子サッカークラブの運営を行っています。今は私を含めてスタッフ5人体制で会社を運営していて、その中には常盤木学園高校時代の後輩2人もいます。その1人は土日に練習を教えに来てもらったり、もう1人はYouTubeチャンネルやホームページの作成を担当してくれていたり。私たちは今年から初めて関西リーグ2部に参入するので、そのための条件をクリアするための活動も行なっていました。リーグ戦に参入するためには、多くの資料などを提出しなければいけないので大変でしたね。それにスポンサー企業を集めたりもしています。

―スポンサー企業は何社くらい集まっているのですか?

吉野 20社から30社ぐらいですかね。ありがたいことに、結構多くの企業にスポンサードしてもらっています。だから、資金のほうもだいぶ集まりました。

―すごいですね。練習グラウンドなどの競技面の準備のほうはいかがですか?

吉野 京丹後市には廃校となってしまった学校も多いので、そこの校庭や体育館を無料で使わせてもらっています。校庭は天然芝だったり、土だったり、サッカーグラウンドとして最適な環境なんです。あと、会社の事務所の隣にフットサルコートがあるので、そこも自由に使っています。

―フットサルコート付きの事務所なんですか?

吉野 そうです。フットサルコート付きの一軒家を見つけたので、そこを賃貸で借りて、事務所にしました。

―そんな物件があるんですね。

吉野 もともとそこに住んでいたのはサッカーを教えていた方のようです。なんか、そこを引き寄せましたね。運任せです(笑)。

―吉野さんは社長として、どのような活動を行っているのですか?

吉野 私はサッカークラブを作っていくうえで選手を集めたり、監督を探して契約をしたりといった活動を行っています。でも、私は暇人ですよ(笑)。今日(2月18日取材)の仕事も雪かきだけだったので! 他のスタッフ2人は主にリモートで別の仕事もしているので、毎日忙しそうですが……(苦笑)。

―サッカークラブのスタッフの方々とはいえ、実はサッカーの仕事だけをしているわけではないのですね。

吉野 本当にそうです(笑)。

―KYOTO TANGO QUEENSには、現在どれくらいの人数の選手が所属しているのですか?

吉野 今年は15人くらいの選手が集まりました。その選手たちと関西リーグ2部からスタートします。

―関西リーグ2部から、まずは上のカテゴリーへと昇格することが目標となりますか?

吉野 そうですね。ただ、なでしこリーグに参入するためには、もちろん成績も大事ですが、実はそれよりもクラブの運営資金や行政との関わりをしっかりしていることがより重要だったりもするんです。たとえ都道府県リーグで戦っていたとしても、どのリーグにいても「なでしこリーグに入りたいです」って表明して、それらの条件面をクリアすれば、毎年秋に行われる『なでしこリーグ参入戦』に出場することができるんですよ。だから、今はそこを目指すために、とにかく“資金を集めたい”と思っています。チームで勝ち上がっていくというよりも、「何億円かの資金を集められればいいんだよなあ」っとも考えたりしています(笑)。

―実際に、現時点ではどのくらいの資金が集まっているのですか?

吉野 具体的な金額はいえませんが、いい感じですよ(笑)。地域リーグで戦うクラブチームとしては、結構すごい額だと思います。

―それはすばらしいですね。ますます今後への期待も高まります。

吉野 お金のことは、絶対にどうにかなるんですよ。だから、今はそこしか見ていません(笑)。

―すごくポジティブな社長ですね(笑)。

吉野 (笑)。「こうなったらいいなあ」みたいに思っていると、本当にそうなったり。全部、運なんですよ。それに、実は私、お金のことは本当に無知なんです。でも、それが大事なのかもしれません。お金に関してのリミットを考えることもないので。常に「なんとかなるでしょ」みたいな。

―“リアルサカつく”のような感じですが、そもそも、この仕事を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

吉野 私も女子サッカー選手として24歳までプレーしていたのですが、私の現役時代から、女子サッカー界はあまりお金も回っていなくて、WEリーグができたとしても、いつまで経っても男子と同じくらいの規模になるのはなかなか難しい。それだと「夢のある職業」とは言えないから、私がこの女子サッカー界を変えたいって思ったことが一つのきっかけでした。ただ、いくら理想を思い描いても、発言権がないと女子サッカー界を変えていくことは難しいだろうから、その発言権を持てるようになりたかったんですよね(笑)。そんなことをサッカーを辞めてからいろいろと考えていて、「じゃあ、どうすれば発言権を持てるだろう」と考えると、たとえば急にサッカー協会に入るわけにもいかないから、だったら何かを成し遂げることが大事だなって。何もないところから始まって、本当にWEリーグに参入できるまでのクラブチームを作れたら、私に言えることも結構出てくるだろうと。まあ、そのぐらいの考えではあるんですけれど(笑)、それで「よし、やってやろう」って思って、スタートを切りました。

―とはいえ、1人でクラブチームを立ち上げるのは大変だったのではないでしょうか?

吉野 実は、現在のスタッフの1人は私の夫なのですが、彼とすごく仲のよかった元上司が“サッカークラブのオーナーになりたい”っていう夢を持っていたんです。それで、3人でよくサッカーを見に行ったりしていて、「私たちもクラブチームを作ろう!」ってなった感じになんですよ。夫の元上司に取締役になってもらって、そこから2020年11月に会社を設立し、翌12月末には京丹後市の市長さんにもお会いして、一気にクラブチームを立ち上げる動きが加速していきました。去年1年間はスポンサーを集めて、選手を集めて、グラウンドの確保に動き回り、選手が住むための寮を借りたりもして、バーッといろいろとなんとなくの土台ができた感じですね。

―ものすごいスピードで選手やグラウンド、スポンサーなどのサッカークラブのベースを構築していったのですね。

吉野 はい。でも、もちろん最初は苦戦しましたよ。京丹後市って京都府でも地方の町なので、なかなか選手が集まらない。それで、去年はリーグ戦に参入することができませんでした。でも、今年はちょっと視野を広げてみて、中学生や高校生をチームに入れられないかと考えたんです。学生ならば京丹後市にもたくさんいるし、サッカーができる環境が限られているから、辞めていく子もいっぱいいるみたいだったので、そういった子たちもチームに混ぜて、「みんなで一緒にやろう」って。そんな感じで、意外と選手もなんとかなりましたね(笑)。

―今後はどのようなビジョンを描いているのでしょうか?

吉野 チームとしては、やっぱりWEリーグに参入したい。ただ、参入がゴールではないから、それはあくまでも最低限の目標です。そこで日本の女子サッカー界に影響を与えるようなプロモーションをしたり、日本の女の子たちに「女子サッカーってカッコいい」って思ってもらえるような見せ方をすることを目指しています。あと、この京丹後市の地域の皆さんにとって、うちのクラブが少しでも生活の一部になってくれたらいいです。みんなに「クイーンズが楽しみだなあ」って言ってもらえるようになれたらうれしい。クラブとしては、そんなふうに思っています。

―吉野社長個人としては?

吉野 個人的には……、ちょっと「アホやな」と思われるかもしれませんが、WEリーグのチェアマンになることを目指しています(笑)。だって、そうならなければ女子サッカー界を変えていくことはできないじゃないですか。「そのうち声が掛かるようになるぞ」って勝手に思っているくらいヤバいレベルです(笑)。でも、本当にそう思っています!

―WEリーグのチェアマンになったら、どのように女子サッカーの未来を築いていきたいとビジョンを描いていますか?

吉野 やっぱり、女子サッカー選手が日本の女の子たちに「女子サッカーってカッコいい」って思ってもらえるような存在になっていきたい。それこそ、女の子たちみんなが好きな『NiziU』のように。あの子たちは見せ方が上手だと思うし、それだけじゃなくて常にストイックに活動しているから、あれだけの憧れの存在になっているのだと思うんです。一方で女子サッカーって、現状ではあまり華やかとはいえないじゃないですか。だから、女子サッカー選手もあのような感じになればいいなあ、って。

―なるほど。女子サッカー選手がアイドルのような存在になることを設計していくと。

吉野 そう思っています。なんか、“アイドル”っていうと嫌がる選手も多いのかもしれませんが、やっぱり日本はアイドル文化だから、そこにもフォーカスしていかないとなかなかお金は回らないし、注目も集まらないと思っていて。これが海外だったら、“カッコいいアスリート”として打ち出していても注目を浴びると思いますが、日本は別で、もともと“女性がカッコいい”っていう文化があまり存在しないような気がするんですよね。思い浮かぶのも宝塚くらいかなって。だから、カッコいい選手は宝塚のような売り出し方をすればいいし、かわいらしい子はNiziUとかアイドルのような感じの売り出し方をすればいい。他にも、地域の方々に愛されるような生き方をしたり、いろいろな方向性を攻めていかなければいけないと思います。そこはまだ、いろいろと考え中です。

―女子サッカーが多くの人たちに愛される文化として、日本に根付いていけばいいですね。その中心にKYOTO TANGO QUEENSがあれば、なおすばらしいのではないでしょうか?

吉野 そうですね。ゆくゆくは亀岡市の『サンガスタジアム by KYOCERA』で試合をしたいです(笑)。京丹後市からすごく近いわけではないけれど、亀岡市も京都府北部なので、今後WEリーグに入ったらそのスタジアムで戦いたいですね。

―駅から近くて、すごくきれいなスタジアムですよね。

吉野 そうです。とてもいいスタジアムですよ。そこに来たら、性別とか年齢とか関係なく、みんなが平等であれるような空間を作り出すことも、私はビジョンとして持っています。女子サッカー界ってセクシュアルマイノリティの方も多いので、そういう人たちも人目を気にせずに安心してサッカーを楽しめるような時間を提供したいと、すごく思っています。そして、その中心にあるのがクイーンズであればいいなってずっと思っています。いろいろなことの垣根を越えられる存在であるような。

―サッカーの垣根をも越えるクラブチームを目指しているのですね。

吉野 そうですね。むしろ、そのような社会を実現するために、自分がやってきたサッカーを活用したいという感じなのかもしれません。サッカーを通じて活動することが、私にとって一番やりやすいことですから。

―この先の未来も楽しみですね。

吉野 ですね(笑)。今は毎日がすごく楽しくて、幸せです。なんかもう、「こんなに幸せでいいのかしら」って、毎日のように思っていますよ(笑)

<プロフィール>
吉野 有香(よしの・ゆか)

1991年愛知県出身。中学時代まで地元の愛知県でサッカーに打ち込み、高校時代は宮城県の常盤木学園高校で『全日本U-18女子サッカー選手権大会』や『全日本高等学校女子サッカー選手権大会』で連覇を果たした。卒業後は当時なでしこリーグ1部のスペランツァFC大阪高槻に加入するも、度重なるケガとも戦い、バニーズ京都SCで2015年に現役引退。その後はサッカースクール運営をはじめ多方面で活躍し、2020年に『株式会社ゆかサル』を設立し、代表取締役社長に就任。関西リーグ2部に所属する『KYOTO TANGO QUEENS』を運営する。

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