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Vol.14 A&A西東京スポーツセンターレナト女子フットボールスクールコーチ/今井かおり

  • 2021.05.19

    Vol.14 A&A西東京スポーツセンターレナト女子フットボールスクールコーチ/今井かおり

PASSION 彼女たちのフィールド

欧州をはじめ海外で活躍する日本人サッカー選手が増え、日本代表でも「海外組」という言葉が使われるほど海外でプレーすることが珍しくなくなった。女子も海外でプレーする選手が増えているが、どの競技でもどの国でも、パイオニアである最初の1人目の存在が必ずある。今回はイタリアの最高峰リーグであるセリエAで日本人初の女子選手となった今井かおり氏(旧姓、長峯)に、現在の活動についてお話を伺った。

ー今井さんの現在の活動についてお聞かせください。

今井 私は2021年4月から東京都西東京市にあるA&A西東京スポーツセンターでレナト女子フットボールスクールを始めています。それまでも自分でスクールの指導をしてきているのですが、現役引退後に川崎フロンターレのスクールで指導を始めたのが指導者としてのスタートでした。その後出産して子育て中は自分で近所の子どもたちを集め「ばななしゅーと」というサークルを立ち上げ、サッカーを教えてきたのですが、A&Aで女子サッカースクールを立ち上げるということでレナトフットボールスクールに誘っていただき2020年の秋頃からスクールの準備を始めて、体験会などを開催して今年の春にスクール開講に至りました。スクール自体は未就学児のクラス、小学生のクラス、大人のクラスがありましたが、私が1歳半からの親子クラス、未就学児の女子クラス、小学生女子クラス、大人のセルフコンディショニングを担当しています。

ー1歳半から参加できるスクールは初めて伺いました。どういった内容をされるのですか?

今井 A&Aではまだ立ち上げたばかりでメンバーが集まっていないのですが、これまでやってきた「ばななしゅーと」の1歳から3歳のクラスではいろいろなことをしていました。1人ひとり発達段階が違うため、興味を持つことも出来ることも様々なので、とにかくいろいろなことをして運動体験や学習をしてもらいます。たとえば普通のボールより速度の遅い風船を使って、キャッチやキックをするということもしますし、童歌やフワフワボールを使ったり走ったりとサッカーの練習という感じではなく遊びを通じて身体を動かすということをしています。子どもたちもこうした遊びを行なうことで身体の使い方や動きがすごく変わるので面白いですし有効性も感じています。自分の子育て中の経験もあって、ベビーマッサージも取り入れ、将来に役立つ土台つくりのために今のうちからこういう刺激を与えると良いと思いながらやっています。

ー様々な運動体験を通じた成長を狙っているのですね。小学生への指導では気をつけていらっしゃる点はありますか?

今井 指導者になりたての頃はサッカーの技術を教えて上手くさせたいということが中心だったのですが、ずっと指導をしてきて「頭でイメージすること」の大切さを感じるようになりました。子どもたちの中には自分で限界を決めてしまう子が多く、すぐに無理だとかだめだと思ってしまう子がすごく増えているように感じています。なのでその考えを取っ払ってあげるというか、頭の中でできるというイメージを作ってからやるということを大事にしていて、そういうことを伝えていけたらいいなと思っています。最近は特にそういう諦めのようなことを思っていたり口にする子が多いように感じていてすごく気になります。

ー今井さんが日本代表や海外でプレーされて周りにいた選手であったりトップレベルを肌で感じた経験があるからそういった基準が高くお持ちだったりするのでしょうか。

今井 そうですね。トップレベルで活躍する選手も生まれ持った才能だけでやっているのではなく、ちゃんとやるべきことをやれば到達できるということを私が現役の時に実感しているのでそれを子どもたちに伝えていきたいと思っています。

ーサッカーの経歴についてお聞かせください。

今井 サッカーを始めたのは小学校4年生の時に通っていた小学校にサッカーチームが立ち上がったので、そこに入ったのがきっかけです。学年毎に男女それぞれチームがあったのですが、私は女子チームだけでなく男子チームにも掛け持ちで入っていました。中学生になる時に女子サッカーのチームが無くプレーできなかったので、指導者の方にお願いをしてチームを作っていただき小学校の時のチームメイトと一緒にプレーしていました。始めた頃は22人いたのですがどんどん辞めてしまってメンバーが5人ほどになってしまった時期もあり、人数集めには苦労しました。このチームで中学から大学までプレーしてきて、チームにはスポンサーもついてくださって日本リーグにも参戦していたのですが、大学4年生で就職活動をしないといけない時に、そのチームでは就職することができなかったので就職もできる企業チームに移籍したいと思っていました。ただその当時は国内での移籍が難しかったのでイタリアに行って入団テストを受け、合格したReggiana Zambelliに入団して2シーズンプレーしました。

ー女子サッカー選手で1人目のセリエAプレーヤーでいらっしゃいますが、海外に目を向けられたきっかけは何かあったのですか?

今井 中学3年生の時に日本代表に入って海外遠征に行った際に海外の選手と仲良くなって、文通をしたり国際大会で再会したりして海外の情報なども教えてもらっていて、プロの様にサッカーだけをする環境があるということも聞いていたので、その頃から羨ましく思っていました。それでも日本国内での移籍がうまくいっていればそこまで思い切って決断できなかったと思いますが、海外でやるしかないという状況だったので必然的に行ったような感じです。

ー海外での生活はいかがでしたか?

今井 私が行ったチームはイタリアでも前年度にリーグ優勝をしていた強豪チームで、その当時のイタリア代表選手が11人くらいいました。そこで試合に出るのがとにかく大変で、シーズンの初めの頃は順調で得点もとれていたので試合に出させてもらっていたのですが、スケジュールがとても過密でセリエAのリーグ戦の合間にコパ・イタリアというカップ戦があったりしたので週2回試合があるというスケジュールが数週間続いたりしました。日本ではそれほどの日程で試合を経験していなかったので疲労が溜まってしまい、パフォーマンスもだんだん落ちてしまいました。そうすると試合の出場機会も減ってしまって、試合に出られないのが辛かったですね。移動のスケジュールもタイトで、日によっては早朝5時の飛行機で移動してその日に試合をして、そのまま夜中に戻ってくるということもありました。

ー強豪クラブだからこそ、試合数も多くハードスケジュールだったのですね。イタリアでのプレーを終えられて帰国されてからはプロ契約なさったのですか?

今井 はい。帰国後は当時Lリーグに所属していた鈴与清水FCラブリーレディースに入団しました。その頃はLリーグというリーグ名だったのですが、世界中の有名選手が日本でプレーしているという時代でした。そのためLリーグのレベルも高くて、イタリアのセリエAとリーグとしてのレベルも大きな差はありませんでした。その後8年間プレーをして引退したのですが、その年に川崎フロンターレのスクールに携わるお話をいただいたので指導者の道を進もうと決意しました。

ー最初に指導されたスクールは女子を対象としたスクールだったのですか?

今井 ほぼ男子のクラスで、幼稚園から小学生がいました。男子の中学生以上になると下部組織のジュニアユースチームになるので、そこではアシスタントとして携わっていました。私が入ってから大人も含めた中学生以上の女子クラスを立ち上げたので、それ以降は男子クラスと女子クラスのどちらにも関わる形で指導していました。

ー指導をする際に大切にされていることはありますか?

今井 選手には答えをすぐには与えず、できるだけ考えさせるということを大切にしていて、まずは考えるという癖をつけてもらうようにしています。小学生までの年代で初心者が多いので、考えさせると言っても戦術やプレーの判断といったことではありません。たとえばボールタッチをどれくらいの強さで触るかといったことやキックをただ回数こなすのではなくボールの軌道を見て何が悪かったのか、どこを直せばいいのかといったことを考えてもらうようにしています。あとは本人の姿を動画撮影して、その映像を見せてどこが悪くてどうすればいいかを考えさせるといったことになります。大切なのは本人の気づきです。こちらから先に教えてしまってもなかなか頭に入らずにすぐ忘れてしまったりしますが、自分で考えて掴んだものはそのまま自分のものにしていけるので、できるだけそういうものを増やすようにしています。

ーそのような考えは現役時代の指導者の影響などがあったりしますか?

今井 これは引退した後だと思います。子育てもそうですがいろいろなことを勉強していくうちに頭でイメージできないものは実現できないということがわかってきて、それをうまくサッカーの指導に落とし込めないかなと考えて、なるべくそういうことを取り入れるようにしています。自分の子どもを育てるのにいろいろと勉強しながらやってきたので、その経験が今のサッカー指導に生かされています。子育て中も「この子は私の指導力を上げさせてくれる」と思いながら向き合っていて、日々実践しながら奮闘してきました。

ー1日のスケジュールを教えてください。

今井 A&A西東京スポーツセンターで開催している女子サッカースクールは週2回担当しています。その他に1歳半から3歳までの親子サッカークラスが別の曜日にあって、他にも大人向けのセルフコンディショニングの教室も担当しています。スクールがある火曜日は、午前中にセルフコンディショニングの教室を指導して、15時20分からサッカーのスクールが開始。未就学児クラス、小学校低学年クラス、小学校高学年クラスとそれぞれ1時間ずつおこなって18時30分に終わるというスケジュールです。水曜日は午前中に親子サッカーのクラスのみおこない、木曜日は夕方のスクールのみおこなっています。
スクールがない日は自宅や出張で整体師として仕事をしています。現役中に勉強をして資格を取得したのですが、もともと身体のことにすごく興味があって自分自身もケガをした経験もあって勉強しました。整体には知り合いのサッカー関係者も来られますが、近所に住む一般の方にも来ていただいています。

ー今のお仕事のやりがいはどういったところですか?

今井 私はサッカーを通じてとても成長させていただきました。たくさんの方にいろいろなことを教えていただいて成長でき、長くプレーすることもできたので、今度は自分が恩返しする番だと思いますし、女子サッカーに貢献したいという思いが強くあります。
あとは自分が現役の時にケガに苦しんで、どうしたらケガをしなくできるのだろうかと考えてきていたので、それをスクールやセルフコンディショニングのクラスで教える場があることで還元できるというのが嬉しいです。それがないとせっかく勉強しているものを伝える場がないのでありがたいです。選手自身にセルフコンディショニングを教えることもそうですが、親に知ってもらうことでその子どもにもやらせてもらえばセルフコンディショニングが広がって定着し、当たり前にすることでケガも減らせるかなと思います。

ー反対に難しいことはありますか?

今井 人集めですね。あとは伝えることの難しさ。来ていただいて体験してもらえれば伝わると思うのですが、そこまで足を運んでもらう、欲している人にここでやっているよ、こういうことをやっているよということを認知してもらうまでが大変だなと思っています。女子のスクールは私ともう1人スタッフがいます。広報活動はA&A西東京スポーツセンターの広報の方と連携してやっています。

ー今後の展望をお聞かせください。

今井 一番はサッカーをする女子が増えてほしいので、女子がサッカーをするのは当たり前という環境をつくりたいと思います。私がいた小学校では女子サッカーのチームがあって周りの小学校とも試合をするなど市全体で女子サッカーが盛んだったので女子サッカーがマイナースポーツだと知らずに育ったのですが、中学生になったときに女子サッカーチームがなくて作らないとできないという事態に直面して初めて女子サッカーってマイナースポーツだったんだと知りました。また女子でサッカーをやっていると周りからは「なんでサッカー?」というような反応で、バレーボールやバスケットボールの様に当たり前という風には捉えてもらえず女子がサッカーをするのは特殊といった感じで見られていました。今では女子サッカーも認知されてきていますが、それでもまだ女子がサッカーするの?という感じはあるので、そこは変えていきたいなと思っています。そのためにも女子サッカーの競技人口を増やしたりプレーする環境を増やすということも必要ですが、何よりサッカーは楽しいということを伝えていきたい。小学校の体育授業で男子と一緒にサッカーをしても女子はほとんどボールを触らないでピッチの隅に立っているだけになってしまったりして、女子にとってはつまらないものや怖いものになってしまっているので、やり方次第ですごく楽しくできるので、もっとサッカーの楽しさを伝えていきたいと思っています。

ーありがとうございました。

<プロフィール>
今井 かおり(いまい・かおり)
1968年東京都出身。
小学4年生から通っていた小学校のチームでサッカーを始め、中学校からは仲間と共に立ち上げたチームでプレー。中学3年生以降は女子日本代表選手として第一線で活躍する。大学卒業後、当時イタリアのセリエA所属の強豪であったReggianaZambelliの入団テストを経て入団。2シーズンに渡ってセリエAでも得点を挙げる活躍をした。帰国後は鈴与清水FCラブリーレディースで活躍。引退後は川崎フロンターレのサッカースクールで指導するなどたくさんの子どもたちにサッカーの楽しさを伝えてきた。並行して整体の資格を取得し、整体師としても活動。操体法を中心にセルフコンディショニングの指導もおこなっている。
2021年4月からA&A西東京スポーツセンターにてスクールを開講している。

text by Satoshi Yamamura

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